アメリカ大統領とて私の利益のためのただの取引先だ…米富豪JPモルガン、脅迫で政府を救った男

ジョン(J)・ピアポント(P)・モルガン。大統領すら頭を下げるほどの影響力を誇ったこの金融家は、19世紀末から20世紀初頭のアメリカで、一国の政府を遥かに凌駕する圧倒的な権力を握りしめ、巨大な富の帝国を築き上げた。彼が実践した国家との向き合い方は、一般市民の常識とは全く異なる、ある決定的な発想に基づいていた。
「もし我々が何か間違ったことをしたのなら、大統領の部下を私の部下のところに送ってほしい」。その言葉に凝縮された、国家すら管理すべき「単なる取引先」に過ぎないという冷徹な哲学。無力な政府に代わり、密室の暴力的なまでの圧力で国家的危機を一晩で解決した事件を例に、一握りの富豪だけが知っている”世界の真実”に迫る。
みんかぶプレミアム連載「一握りの大富豪だけが知っている世界の真実」第3回
目次
大統領すらただの「取引先」――国家権力にあしらいをつけたウォール街の帝王
頂点に立つ富裕層にとって国家、大統領であっても、無条件に服従する絶対的な権威などではなく、自らの利益のために管理し、交渉し、時には巨額の資金で直接買い支えるべき単なる取引先に過ぎないのだ。
19世紀末から20世紀初頭のアメリカ合衆国。一国の政府を遥かに凌駕するほどの圧倒的な権力を握りしめた一人の金融家が存在した。ジョン・ピアポント・モルガン。
鉄道網を次々と買収して統合し、巨大企業USスチールを創設して産業の根幹を完全に支配した人物である。アメリカ経済の心臓部を直接握り潰せるほどの絶対的な力を持っていた。大統領すら頭を下げるほどの影響力を誇り、ウォール街の帝王として君臨したモルガンは、国家や政府という存在を、一般市民とは全く異なる視点で見つめていた。
モルガンが政府をどのように扱っていたかを明確に示す、象徴的な発言が歴史的記録に残されている。1902年、当時のセオドア・ルーズベルト大統領が、モルガンの築き上げた巨大な鉄道トラスト企業「ノーザン・セキュリティーズ」を反トラスト法違反で突然提訴する出来事があった。国家の最高権力者からの厳しい宣戦布告である。
一般企業であれば震え上がり、直ちに白旗を揚げる場面であろう。しかしモルガンは全く動じなかった。直ちにワシントンへ赴き、ホワイトハウスに乗り込むと、大統領の顔を真っ直ぐに見据えて平然と言い放ったのである。
「もし我々が何か間違ったことをしたのなら、大統領の部下を私の部下のところに送ってほしい。そうすれば担当者同士でうまく解決するだろう」
アメリカ大統領に対し、まるで対等な企業トップであるかのように、担当者間の事務的な交渉で法律問題を片付けようと持ちかけたのである。モルガンにとって政府とは、無条件にひれ伏す畏れ多い対象ではなく、対等に交渉を行うビジネスの相手、あるいは管理すべき取引先の一つに過ぎなかった。
心停止寸前のアメリカ経済…巨大な国家が完全に「無力化」した日
富裕層は国家を崇拝しない。国家という巨大なシステムをいかに管理し、自分たちの利益のために使いこなすかという視点のみを持っている。国家と巨大資本の力関係が完全に逆転した事実を示す、決定的な歴史的事件がある。
1907年にアメリカ合衆国を襲った未曾有の金融危機、通称「1907年恐慌」である。ある信託会社の経営が行き詰まったという噂が街に広がり、預金を引き出そうとする人々が金融機関の前に長蛇の列を作ったのである。銀行という仕組みは、預かったお金の大部分を企業に貸し出しているため、金庫には現金がわずかしか残っていない。大勢の人が一斉に現金を求めれば、どんなに健全な経営をしている銀行であっても必ず破綻する。
恐怖はウイルスのように瞬く間にニューヨーク中の金融機関へ広がり、次々と銀行が倒産していく悪夢のような事態に陥った。株式市場は暴落し、優良企業の株価すら底なしに下落していった。アメリカ経済は完全に心臓が停止する寸前の状態にまで追い詰められていた。
国家の存亡に関わる危機において、本来ならば政府が真っ先に立ち上がり、事態を収束させなければならない。しかし驚くべきことに、1907年のアメリカ政府は完全に無力であった。現在のアメリカには強力な中央銀行が存在し、紙幣を自由に発行して経済をコントロールできる。だが1907年当時は、中央銀行という組織自体が存在していなかったのだ。
政府には銀行を救済するための十分な資金がなく、議会は混乱するばかりで有効な対策を全く打ち出せずにいた。巨大な国家という船が沈没しようとしているのに、政府は舵を握ることすらできず、ただ沈みゆく船の上で立ち尽くすことしかできなかったのである。