第十五話「不思議な出逢い」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第十五話「不思議な出逢い」
伝統と現代の息吹が共存する京都の街は、春の訪れを優しく迎えていた。桜の花びらが舞い散るキャンパスで、李麗穎(リー・リーイン)は留学生活のスタートを切った。1年ほど前、彼女は中国から日本に降り立った20歳の大学生だ。厳格な父親の下で育った麗穎は自由を求め、日本での生活を楽しみにしていた。174センチの長身に黒髪をなびかせ、馴染みのカフェでミステリー小説に没頭するのが日課だ。
「ちょっと、ここいいですか?」
そこで出逢ったのが今泉謙太郎だった。同じ京都大学法学部の3年生、2つ年上の穏やかで知的な青年だ。太い黒縁の眼鏡の奥は好奇心に満ちていた。「君、いつもここにいるよね? 何を読んでいるの?」。
謙太郎は、麗穎からミステリー小説を受け取ると「これ、俺も大好き! シリーズで持っているよ」と愛らしい表情を浮かべた。麗穎が来日してから初めて趣味を共にする留学生以外の学生だった。文学を愛する謙太郎は、麗穎の文学への関心に強い興味を示した。
「この小説の先ってどうなると思う?」
「実は、主人公の一番身近にいる人がスパイだったりして?」
「ハハハ・・・。君の推理は、面白いね」
出逢いから数日後、2人は授業後にカフェで再会した。麗穎は中国の古典を語り、謙太郎は日本の現代文学を共有する。やがて、2人はキャンパスを一緒に散策するようになり、嵐山の竹林を歩き、鴨川で夕陽を眺めた。麗穎は謙太郎の優しい心に惹かれ、謙太郎は麗穎の聡明さに魅了されている。恋が自然に芽生えるのは時間の問題だった。
夏の花火大会で2人は互いの存在が欠かせないことを悟った。「ねね、麗穎は中国のどこ出身? 家族はどうしているの?」。謙太郎はたまに麗穎が話す「中国ではね・・・」という言い回しが少し気になっていた。麗穎は家族のことをぼんやりとしか話さなかったが、謙太郎が知っている中国の現実とは多少異なっていると感じたからだ。ただ、麗穎は自分の家族を「北京のどこにでもいるような普通の家庭よ」とだけ話す。謙太郎はそれ以上は触れることなく、2人の世界に浸ることを優先した。