第十六話「意外な兄妹」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第十六話「意外な兄妹」
新年を迎えて大阪の実家に戻っていた今泉謙太郎のスマホに見慣れない番号からショートメッセージが届いた。国番号は、中国を意味している。ただ、差出人は「李麗穎」ではなく、中国語で「匿名希望」と記されていた。次々に送られてくるメッセージを読み進めると、何枚かの写真がある。麗穎、そして両親とみられる3人が写っていた。短く次のようなメッセージが添えられている。
「もう、2度と近づかないで欲しい」
数カ月前、突然姿を消した李麗穎。久しぶりに届いたメッセージは“絶縁”を意味するものだった。謙太郎は、ただただ言葉を失った。
春休みが訪れ、大学4年生になった謙太郎は就職先も決定し、「失恋」から落ち着きを取り戻しつつあった。いつもの通り、キャンパスに向かう途中にある団子屋でみたらし団子を1本だけ買い、無造作に頬張る。そして、スニーカーの靴紐を直そうと屈んだ時だった。
「今泉・・・謙太郎さんですか?」
静かに背後につけた黒塗りのセダンから男の声がする。「はい、何でしょうか?」。ルーティンとは異なる出来事に戸惑う謙太郎に、降りてきた男は「ちょっと、良いですか」と話を続ける。たどたどしい日本語が不気味に感じた。
「実は・・・李麗穎さんのことで話があります。とても大事な話です」