第4回【iDeCo vs つみたてNISA】長期積み立て投資に関心を持つ D さんの悩み
本連載では、老後資金を試算する上で差が生じるポイントを取り上げ、老後を安心して過ごすためにどちらの選択がベターなのかを検証しています。
第4回は【iDeCo vs つみたてNISA】。
老後資金を自助努力で確保していく際は、税制優遇を上手に活用したいところです。そこで今回は、シミュレーションを通して2つの制度の運用結果の違いを見てみます。
目次
投資信託への投資は「どう節税するか」が重要
投資信託は「長期・積み立て・分散投資」を誰でも簡単に実現できる金融商品です。
なぜなら指定した金額分を一定のタイミングで繰り返し購入するだけで、長期間にわたって少しずつ複数の資産に投資しながら資産を増やすことができるからです。
長期にわたって複数の資産に少しずつ投資をすることで、損失が発生するリスクを大幅に抑えながら資金を増やしていくことが可能に。また拠出したお金は株式や債券などさまざまな資産に投資され、幅広く分散投資できます。
投資信託に投資して発生した利益には、所得税と住民税を合わせて原則20%(2037年までは復興所得税を加えた20.315%)の税金が課されますが、iDeCoやつみたてNISA などの制度を利用すると大幅に節税できます。
それではiDeCoとつみたてNISAではリターンがどれくらい違うのかをシミュレーションしたDさんのエピソードをご紹介します。
40歳・独身・医療系Dさんのライフプラン
Dさんは私立病院に勤める看護師。買い物やおいしいものを食べるのが大好き、多趣味でお金があると使ってしまうタイプでもあります。
今年40歳になりますが、貯蓄はほとんどしていません。今のところ結婚や出産は考えておらず、独り身の老後がどうなるのか心配になってきました。
そこでDさんは一念発起して、貯蓄を始めようと決意。節制して、定年退職する60歳まで毎月2万円以上を貯めることにしました。
さらに、これだけではまだ老後資金を十分に貯められるかどうか不安だったDさんは「資産運用が趣味」という同僚の医師に勧められたキャッシュフロー表 ※ を作成し始めました。
※ 将来のお金の出入りを予測し、資産の残高などを年ごとに時系列で一覧にしたもの。Dさんはインターネットで無料のフォーマットを手に入れて計算したとのこと。
Dさんが計算した項目は次の通りです。
給与収入 |
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正職員である現在の額面年収480万円、昇給率は0.3%。60歳で定年退職し、65歳になるまでの5年間は看護師としてパート勤めをし、年収300万円。手取りは額面に対して正職員時代が77%、パート時代が82%とする。 |
住居費 |
35歳のときに買ったマンションのローン返済や管理費、固定資産税など年間100万円。ローンを完済した65歳以降は年間40万円とする。 |
生活費(住居費を除く) |
40歳時点の手取り収入370万円から住居費100万円と貯蓄24万円を差し引くと246万円。これを年間の生活費として64歳まで維持し、余った分はさらに貯蓄へ回す。年金生活が始まる65歳以降は220万円に抑える。 |
退職金 |
先輩の話や勤め先の規程などから、手取り1500万円と予想。 |
年金収入 |
21歳から厚生年金に加入、それ以前の国民年金も納付済。将来受け取る年金は年額186万円と予想。手取りは額面に対して94%とする。 |
貯蓄 |
現在30万円。 |
※各項目において1万円未満を端数処理(四捨五入)した。
以上の条件の下、95歳まで生きると仮定して資金計画を立てました。そして分かったのは、毎月2万円貯金したとしても生涯の赤字額が900万円に上ること。
「老後の赤字が900万円。このままだと悠々自適なシニアライフを送れない!」
危機感を募らせたDさんは、再び同僚の医師に相談しました。
返ってきた答えは「貯蓄だけだと効率が悪いよ。銀行の利子なんて、たかが知れてるから。それよりも投資で増やしたら?」というものでした。
受け取り方法は一括か、それとも少しずつ取り崩すか
投資に対して「怪しい」「大損するかもしれない」という悪い印象が拭えないDさんに、同僚の医師は説明します。
「投資とは、投資対象が持つ『経済的に成長する力』を借りて、自分の資産を増やすことだよ。僕は世界の経済成長に連動することを目指して、各国の株式や債券に投資する投資信託を毎月購入している。今までで年平均8%くらい増えているし、これからも毎年3%増は堅いんじゃないかと予想している。もちろん利益が保証されているわけではないし、マイナスになる年もあるかもしれないけどね」
同僚の言っていることが本当だったらいいなあ、と思ったDさんは、試しに「毎年24万円分の投資信託を購入し、年3%(手数料控除後)で運用する」という前提で、キャッシュフロー表を作り直してみました(購入する期間は59歳までの20年間。購入をやめてからも運用は続けます)。
すると75歳時点における投資信託の残高は1030万円。投資額は20年間で480万円なので、550万円増えることになります。
この時点で全額解約すると税金が110万円(税率20%)かかるため、受取額は920万円です。生涯の赤字額は約460万円に下がりました。
「赤字は約半分になったけど、もっと減らせないのかな」
Dさんはキャッシュフロー表を眺めながら同僚の医師の言葉を思い出しました。
「『投資対象の力を借りて自分の資産を増やす』のが投資なら、なるべく長く投資し続けたほうがいいのでは?」
こう思い、一括で換金せずに76歳以降に毎年65万円ずつ取り崩していくプランを計算してみました。
取り崩さなかった残高は年率3%で運用し続けます。このプランは生涯の赤字額が約230万円、支払う税金の合計は151万円でした。
つみたてNISAの節税額は?
「20年で取り崩すプランは、赤字額の半分以上が税金か———そういえば最近、積み立て投資で節税できる制度があるって聞いたな」