“昭和マッチョイズム”が未だに抜けない芸能界――さんま、鶴太郎、ナイナイ岡村…誰が変わり、誰が変われなかったのか

前回、田原俊彦が『爆笑問題の日曜サンデー』の発言により謝罪するにまで至った背景を、プロインタビュアーの吉田豪氏が読み解いた。主な要因は、「場」や「価値観」のズレだったが、メディアやエンタメの現場には、いまもなおアップデートされない感覚が根強く残っている。今回はその実例をいくつか挙げながら、吉田氏が“変わるべきもの”と“守られるべきもの”をあらためて見極めていく。
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“嫌な予感”しかしない渡邊渚MCの新番組
最近、ちょっとビックリした番組があったんですよ。以前みんかぶで渡邊渚さんをインタビューしている関係で、その後も注意して活動を追うようにしてるんですが、彼女が地上波初MCを務める『昨日のアレ観』(チバテレ)って番組が始まったんですよね。これは「昔の尖ったバラエティを復活させたい」というコンセプトで、元テレビマンの“オールスターチーム”が仕掛けているという触れ込みで、それ自体は悪くないんですが、宣伝に出てくる番組プロデューサーのキメ顔写真からして、ちょっと嫌な予感がしていて。
で、6月13日の初回放送分を実際に見てみたら思いっきり不安が的中してました。バラエティ初挑戦のアイドルグループ「なみだ色の消しごむ」がメインに据えられた番組で、当然トークもリアクションもまだ不慣れだから、どうしても渡邊さんが追い込まれる展開になっていっちゃうんです。ビキニパンツを履いた上半身裸のマッチョ芸人に檻に入れられて、コスプレさせられて、アイドルたちがお題に対して微妙な回答をしたら渡邊さんに電流が流れるっていう、TBSの朝番組『ラヴィット』から平和さとコンプライアンスだけを削り取ったようなノリ。
さらに、男性スタッフの3日間履いた靴下を「箱の中身は何だろな」方式で渡邊さんが触らされて、匂いも嗅がされるみたいなくだりもあったんですけど、もちろん「なみだ色の消しごむ」はそんなハードなことはやらされていないわけで。彼女の仕事の選び方もそうだし、起用する側がどれぐらい気遣いをしてるのか、ちゃんとわかっているのか、かなり心配になるレベルでした。
これまでチバテレではアンジャッシュ渡部さんを活動再開後はじめて起用したり、宮迫博之さんを引っ張り出そうとして番組がお蔵入りになったりと、「民放で使いづらいの人も行けますよ」みたいな自信があっての流れだと思いますけど、渡邉さんは渡部さんとは決定的に違いますからね。 加害者側の人を過酷な目に遭わせて、なんとなく禊が済んだ感じにしていくノウハウは持ってるのかもしれないけど、同じノリでやるのは危なすぎますよ。
片岡鶴太郎出演番組で訴訟沙汰…“昭和ノリ”が招いた代償
その流れからなんですが、最近愛媛のローカル番組『鶴ツル』に出演していたフリーアナウンサーが、約6年にわたり共演者の性的な発言に苦しんでいたとして裁判を起こしたニュースがありましたよね。BPOの判断は「人権侵害にはあたらない」だったけれど、「フリーという立場の弱さへの配慮が欠けていた」と指摘はされていて、それじゃあ納得いかないってことで4100万円という大きな額の損害賠償を要求している、と。