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最高額5億円のタワマンが建つのにスーパーは1軒…2027年夏に総戸数2046戸のツインタワマンができる新・湾岸エリアの「豊海町」をあなたは知っているか

「住みたい街」と評される人気のエリアにも、掘り起こしてみれば暗い歴史が転がっているものだ。そんな、言わなくてもいいことをあえて言ってみるという性格の悪い連載「住みたい街の真実」

 書き手を務めるのは『これでいいのか地域批評シリーズ』(マイクロマガジン社)で人気を博すルポライターの昼間たかし氏。第14回は、謎のベールに包まれた湾岸タワマンエリア「豊海町」を歩く。

目次

「ここも勝どきだ!」と住民が言い張る、境界線なき埋立地の正体

 豊海と聞いても「どこ?」と思う人が多いのではなかろうか。住所では中央区豊海町。勝どき駅から清澄通りを歩いて運河を渡り、新橋・築地と晴海方面を繋ぐ高架道路の先にある街である。

豊海と勝どきとを隔てる橋。夕方は自転車が暴走して危ない

 この埋立地「どっからどこまでが豊海なのか」という問題は、けっこうややこしい。勝どき駅から見て運河よりも手前側の地域の住民は「橋から向こうは、すべて豊海」という意識で考えている。

 ところが「バカをいうな、ここも勝どきだ」と考える「豊海」の人々も少なくない。というのも、この埋立地はおおむね半分くらいが勝どき5丁目、6丁目。残りが豊海町となっているからだ。そして、豊海町の部分は現在タワマンの建設が行われているものの、居住可能な面積はごくわずか。多くはトラックが行き交う水産倉庫になっている。

ご意見無用な感じでトラックが行き交っている風景が豊海の当たり前だ
昼間から犬を散歩させている人が多め。もしかしてセレブか

 結果、豊海という埋立地はタワマンに暮らすブルジョアが犬を散歩させている横を、荷物を満載にしたトラックが走り抜けていく、住宅地なのか工業地なのか、なんだかよくわからない風景を生み出している。

銀座のすぐ隣で起きた「都政の七不思議」

 そもそも、埋立地全体を豊海にしておけば、ややこしくないのに半分近くが住所上は勝どきになっている理由は、豊海町部分が後から埋め立てられて合体した土地だからだ。勝どき5、6丁目となっている部分は、1913年に月島三号地として完成した、比較的古い埋立地だ。

 戦前は長らく夏になると海水浴場が開かれており、周辺住民の定番のレジャースポットになっていた。なお、その時代の新聞記事を読むと、けっこう溺死者の記事が掲載されている。手軽な行楽スポットである側面、危険と隣り合わせの場所でもあったようだ。

歩いていると街の中に防潮堤が!!つまりは、そういう土地ということだ

 そんな埋立地のもう半分、豊海町のエリアが埋め立てられたのは、戦後になってからのこと。明確な計画があったわけではない。戦後のドサクサだからこそ成立した事業である。

 というのも、この埋め立ては1959年に設立間もない「財団法人・東京都水産振興会」が埋立申請を行い都議会で可決されたもの。この財団法人、会員は大手水産会社と中央卸市場の卸売会社ばかり。銀座と目と鼻の先に造成地をつくって地価の暴騰を期待しているのではないか。あるいは市場の独占が目的ではないかと問題になり、当時の都知事・安井誠一郎の様々な疑惑とも絡み合い「東京の七不思議」「安井都政の七不思議」の一つにも数えられた。

まだ居住者も多い都営住宅だが、そのうちこのあたりも再開発されそう

 そんな歴史もある土地だが、時代の変遷と共に居住可能な部分はマンションや都営住宅となり、再開発でタワマンとなり現在に至っている。

マルエツが消えたら、そこは飢餓地帯

 そんな豊海を支えるのは、「ザ・トーキョータワーズ シータワー」の一階に入居する「マルエツ 勝どき6丁目店」である。このマルエツ、最近流行の「マルエツ・プチ」などは歯牙にもかけない本気のマルエツ。このマルエツがあることによって豊海の住民は命を繋いでいるといっても過言ではない。

 なにしろ、豊海には食い物を売っている店というのがほとんどない。商店というのは、「勝どきザ・タワー」に入居する「セブンイレブン勝どき5丁目店」と、豊海センタービルの「ファミリーマート豊海町店」、あとはドラッグストアの「どらっぐぱぱす 勝どき5丁目店」があるだけ。中央区の統計によれば今年2月時点での人口は、勝どき5丁目6840人、6丁目6955人、豊海町449人。つまり、合計1万4244人の胃袋が、マルエツ1店舗に完全依存しているわけだ。

このマルエツがなんらかの理由で休んだだけで街は阿鼻叫喚だ

 正直、勝どきザ・タワーのセブンイレブンはほぼ、このタワー住民向けで狭い。ファミリーマートは水産埠頭で働く人用の店。そうした事情もあるから、仮にマルエツが改装休業でもしようものなら、この埋立地は即座に飢餓地帯と化すことは想像に難くない。いや、たぶん10分歩いて勝どき駅前の東武ストアに行くとは思うけど。

 そんな使命感もあってか、このマルエツはすごい。まず24時間営業である。以前、深夜2時くらいに通りかかったら、ホントに営業していた。真夜中の埋立地で煌々と光を放つマルエツ。まるで砂漠のオアシスである。そして、安い。別に宣伝ではない。店舗面積も広く余裕があるためか品数が多く、お買い得品が多い印象だ。特に、鮮魚コーナーは店内で調理しているためか、たまに異常な安さの商品が出ている。

 かなり前だが、たまたま様子を見に入ってみたら、でっかいマグロの頭が500円で売られていた。秋だったので途中で腐りはしないだろうと、自転車の前かごに突っ込んで自宅まで持って帰った。マグロの頭を前かごに載せて埋立地を爆走する中年男。我ながら怪しい。帰宅後、解体作業に2時間。結論、時給換算するとコスパは微妙だった。しかし、マグロのカマ焼きは美味かった。

チェーン店がひとつも入らない深い理由

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この記事の著者
昼間たかし

1975年岡山県岡山市生まれ。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。著書に『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)『おもしろ県民論 岡山はすごいんじゃ!』(マイクロマガジン社)などがある。X(https://x.com/quadrumviro)

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