第二十三話「幸せの絶頂」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第二十三話「幸せの絶頂」
警察庁のキャリア官僚の道を選んだ今泉謙太郎は、婚約者の李麗穎から合格祝いに財布をプレゼントされた。最高級クロコダイルを日本の伝統藍染で染め上げたものだった。以来、謙太郎はどこに行くにも離すことはなく、麗穎と常に一緒にいるような感覚を抱いていた。まさに幸せの絶頂にあった、と言っても良い。
だが突然、中国に現われ、隣席から鋭い視線を向けている茂田伸夫は「忠誠心に疑問がある」と言い、なぜか円明園への訪問を把握している。そして、麗穎の父親である李天佑が謎の男たちに尾行されている理由は謙太郎にあると告げた。「ちょっと、いきなり何なんですか? 私は婚約者と一緒に中国に来て、就職前に結婚をするべく準備しているだけなのに」。たとえ、警察庁に入った後には先輩になる茂田といえども、いきなりプライベートに介入するような言動は控えるべきだと謙太郎は思った。だが、茂田は「違う、違う」と言い、決して受け入れようとはしない。
茂田の鋭い眼光は謙太郎を見据えていた。「君が怒るのも仕方がない。私は表向き警察庁の人事担当として振る舞ってきたんだからな」。突然の暴露に謙太郎は混乱した。「何を言って・・・」。そう言いかけた時、茂田は「黙って聞け!」とテーブルを強く叩きながら威圧的に言った。「実はね、私は公安の人間なんだよ」。驚く謙太郎は声を絞り出した。「そんなこと、どうして私に?」。茂田は周囲を一瞥してから、「この件が君の人生と深く関わっているからだ」と静かに言った。「実は、君が採用されたのは偶然ではない」と言う。謙太郎の額に冷や汗が滲む。「どういう意味です?」。