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国際的投資家「本当の物価高倒産ラッシュは、今秋以降に来る」「名目上は豊かになる」一方で「実質的には貧しくなる」日本にやがてくる逆回転のタイミング

(c) AdobeStock

 株式相場は連日のように最高値を更新している。この株高で、資産を増加させている読者も少なくないだろう。しかし、国際的投資家の木戸次郎氏は「名目上は豊かになっても、実質的には貧しくなっている今の日本は歪だ」と指摘する。下半期の日本経済、金利、相場はどうなるのか。同氏が占うーー。

目次

いま日本で起きていることを一言でいえば、「実物経済の摩耗」

 日経平均は史上最高値圏を更新し続けている。AI、半導体、円安、海外マネー流入。「日本復活」という言葉まで飛び交い始めた。だが、私はこの熱狂に強烈な違和感を覚えている。むしろ今の日本市場は、バブル崩壊直前に近い“危うい静けさ”に包まれているように見える。なぜなら、株価が映している世界と、実際の現場で起きている現実が、あまりにも乖離しているからだ。

 いま日本で起きていることを一言でいえば、「実物経済の摩耗」である。

 政府はナフサも重油も軽油も十分な備蓄があると説明する。しかし現場の肌感覚はまるで違う。建設業界では既に出荷停止、納期未定、受注制限が広がり始めている。しかも、単なる一時的混乱ではない。塗料、シンナー、断熱材、壁材、床材、住宅設備。住宅一棟を構成するほぼ全ての資材で値上げと供給不安が同時進行している。

 日本ペイントは大幅値上げ。断熱材、屋根材、住宅設備まで、あらゆる分野でコスト上昇が波及している。これは単なる建材高騰ではない。“建築という巨大な組み立て産業全体”が圧迫されているのだ。

「そもそも物が来ない」日本に

 しかも怖いのは、「高いけど買える」ではなく、「そもそも物が来ない」に変わり始めていることだ。

 日本は長年、ジャストインタイム、在庫圧縮、効率化を極限まで追求してきた。平時には極めて優秀だった。しかし有事には“余白のなさ”として返ってくる。そして今、その有事的状況が静かに始まっている。

 私は日本を代表する総合商社幹部の友人にも確認したが、彼らは口を揃えて「過剰在庫など抱えていない。むしろ適正在庫を徹底している」と語る。オイルショック時代のトイレットペーパー騒動で社会的批判を浴びた経験から、いまの大手商社は在庫管理に極めて厳しい。つまり、どこかで供給が止まると、余裕がないのである。

「モノが普通に並ぶ社会」が静かに揺らぎ始めている

 ナフサは特に厄介だ。単なる石油製品ではない。包装材、フィルム、接着剤、樹脂、塗料、断熱材、プラスチック、医療用品、家電部材まで、日本の製造業全体の血液に近い存在である。

 だから不足は、「ガソリンがない」のように分かりやすくは現れない。包装材不足、印刷インク不足、フィルム不足、接着剤不足、物流資材不足となって現れ、結果として「最終製品が突然消える」。

 ベビー用品の老舗であるピジョンがベビーカーなど複数製品の生産終了を年内で決めたニュースは象徴的だった。理由は原材料費と物流コスト高騰による安定供給困難。つまり「売れないから撤退」ではなく、「供給責任を維持できないから撤退」なのである。

 大王製紙は値上げ。カルビーはモノクロパッケージ。カゴメも簡素包装へ移行。多くは環境配慮や話題作りと受け止める。しかし実態は、印刷インク、包装フィルム、ラミネート、資材コスト高への防衛反応でもある。

 つまり日本はいま、「モノが普通に並ぶ社会」が静かに揺らぎ始めている。

本当の物価高倒産ラッシュは、今秋以降に来る

 しかも、この問題はまだ本格化していない。なぜなら、企業倒産にはタイムラグがあるからだ。企業はコスト上昇が起きた瞬間には倒れない。内部留保を削り、借入を増やし、値上げを我慢し、体力で時間を買う。だから現在の物価高倒産は、数カ月前のコスト上昇の結果である。

 実際、物価高倒産は過去最多水準に達し始めている。しかし、これはまだ中東情勢による原油高、ナフサ高、物流保険料高騰などが本格反映される前の数字に過ぎない。

 私は、本当の物価高倒産ラッシュは、夏の猛暑、電力逼迫、物流混乱を経た秋口以降に来る可能性が高いと思っている。

 ここで決定的に重要なのが、「デフレ脳」と「インフレ脳」の違いである。日本企業は長年、「値上げは悪」「取引先に迷惑をかけるな」「消費者が離れる」というデフレ時代の商道徳で生きてきた。しかし今は違う。原材料が上がる。燃料が上がる。電気代が上がる。物流費が上がる。人件費も上げざるを得ない。円安で輸入価格も跳ねる。それなのに売値だけ上げられない。これは経営努力ではない。我慢大会である。

 価格転嫁率は42.1%。つまり、コスト上昇100円のうち約42円しか価格に乗せられず、残り約6割は企業が自腹で吸収している構図だ。企業が苦しい。賃金が上がらない。消費者が買えない。価格転嫁できない。企業がさらに苦しくなる。これは、まさに逆回転である。

 デフレ時代は、「安く売る企業」が強かった。しかしインフレ時代は、「適正に値上げできる企業」しか生き残れない。にもかかわらず、日本社会はまだデフレ脳のまま、インフレ経済に突入している。ここが最も恐ろしい。

今の日本の財政がほぼ詰んでいる決定的理由

 しかも、最もデフレ脳から脱却できていないのが、政府と日銀そのものではないか。

実際、長期金利の象徴である10年国債利回りは、一時2.8%台と29年ぶり水準まで上昇した。市場は既に、「インフレ」「財政リスク」「国債需給悪化」を織り込み始めているのである。しかし、その一方で日銀の政策金利は据え置きを繰り返し、なお0.75%に留まっている。つまり市場は、“もうデフレではない”と叫び始めているのに、政策側だけが、いまだにデフレ時代の延長線上で動いているように見える。これは極めて異常な構図である。

 本来、長期金利がここまで上昇する局面では、通貨防衛、インフレ抑制、国債市場安定のため、政策金利との整合性が問われる。だが現実には、利上げを進めれば、国債利払い費増加、株価急落、不動産市場悪化、ゾンビ企業淘汰、財政悪化、という別の危機が噴き出す。だから動けない。つまり今の日本は、「利上げできない」。しかし「円安インフレも止められない」という、“詰みに近い状態”へ静かに近づいている。

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この記事の著者
木戸次郎

1965年生まれ。明治大学政治経済学部卒。 地場証券会社を経て投資顧問会社の代表取締役。その後、ベトナム国営バオベト証券バオベトジャパン理事、ベトナム国防省タイソングループ顧問、外資系ファンドの戦略アドバイザーを経て現在はTMI総合法律事務所顧問。著書にベストセラーとなった『修羅場のマネー哲学』(幻冬舎)『修羅場の鉄則』(幻冬舎)、『木戸次郎の大化け株』(宝島社)、『株はあと2年でやめなさい』(第二海援隊)、『常勝の株』(講談社)ほか多数。

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