電線御三家の期初ガイダンスに騙されるな!フジクラ「謎のストップ安」の虚実と、ゲーム株が買われない構造的裏事情
日経平均株価が7万円の壁を突破し、歴史的な最高値を更新し続ける日本株市場。この熱狂的な株高を力強く牽引しているのは、疑いようもなく「AI・半導体」セクターだ。
しかし今、プロの機関投資家たちが熱視線を送る「AI相場の真のコア」は、半導体そのものだけではない。データセンターの爆発的な増設に必要不可欠なインフラ、「電線」セクターである。
なかでも市場を大いに振り回したのが、電線御三家の一角であるフジクラ(5803)だ。同社は5月14日の本決算で、市場の期待を大きく裏切る保守的な期初計画と中期経営計画を発表。株価は失望売りに押され、一時ストップ安を連発する大波乱を演じたのは記憶に新しい。
ところが、それからわずか1ヶ月後の6月18日。同社は前言を翻すような「大幅な上方修正」を発表し、株価は一転して2日連続のストップ高という劇的な急騰を見せたのだ。
この不可解な「期初計画の崩壊」と「手のひら返しの上方修正」の裏で、一体何が起きていたのか? 今回は、fundnoteのファンドマネージャー・神谷悠介氏に直撃取材。企業の内部事情とマーケットの「錯覚」を鋭く見抜くプロの視点から、電線セクターの真実、そして「なぜ今、ゲーム株が買われないのか」という構造的裏事情までを徹底的に深掘りする。 (取材日:2026年6月25日、文:ちょる子)
みんかぶプレミアム連載「fundnote 川合・神谷の目」
目次
フジクラ「5月ストップ安」の裏側。市場を揺るがした謎の『水素不足』とは?
5月の決算発表時、フジクラが示した今期の業績見通しは、市場コンセンサスを大幅に下回るネガティブなガイダンスだった。その際、会社側がネガティブな理由の1つとして掲げたのが、光ファイバー製造に必要な「水素の調達不足」という、にわかには信じがたいテールリスクだった。
当時、市場はこのアナウンスに激震し、株価は2連続ストップ安を叩き出す事態となった。しかし、神谷氏はこの「水素不足」という文脈そのものに、強い違和感を抱いていたという。
「結論から言えば、あの決算発表時点での数字は、当社での分析では企業の実力と乖離しているように感じました。そもそも、光ファイバーの製造に必要な水素が世界的に枯渇しているわけではありません。 実際、同じ電線大手の古河電気工業や住友電気工業からは、水素が足りなくて減産するなんて話は一言も出ていませんでした。世界中で『水素が足りない』と大騒ぎしていたのは、フジクラ1社だけだったのです」
ではなぜ、そんな奇妙な言い訳が公式の決算資料に躍り出たのか。神谷氏は、企業が中期経営計画(中計)を策定する際の「タイムラグと大人の事情」を指摘する。
「フジクラは今年、新しい中期経営計画を発表するタイミングでした。中計の策定には、通常半年前(昨年の秋頃)から膨大な作業を始めます。つまり、彼らが一生懸命作っていたベースの数字は、数ヶ月前の古いデータだった可能性が高いと思われます。 ところが、ベースとして見ていたところからAIデータセンター向けの需要が彼らの想定を遥かに超えるスピードで爆発してしまった。 前中期経営計画の最終年度である前期の数字が、需要拡大に伴う業績伸長が大きすぎたため、元々作り上げていた数字からの説明が難しくなったと思われます。新中計最終年度の数字はある程度、この水準で置きたい。しかし、初年度を足元の巡航速度で伸ばしてしまうと、3年で成長していないのではないか、との批判を受けてしまう。そこで、初年度である今期のガイダンスをあえて低く抑え込むための『大義名分』として引っ張り出されてきたのが、特定の調達先の定期検査に伴う、局所的な『水素不足』というロジックだった可能性があると考えています」
大幅上方修正でもまだ隠されている?中計に潜む「大人の事情」
案の定、決算発表からわずか1ヶ月後の6月、フジクラは「水素不足が緩和された」として、通期の営業利益予想を2110億円から3100億円へと、実に1000億円近くも上方修正した。あまりにもお粗末な前言撤回劇だが、神谷氏は「この3100億円という修正後の数字すら、まだ実態よりかなり低くコントロールされている」と見ている。
「彼らが発表した3年後の中期経営計画の最終目標値(営業利益)は『3150億円』です。もし、中計を発表したわずか1ヶ月後の最初の修正で、その3年後の目標値(3150億)をあっさりと超える『3200億』なんて数字を出してしまったら、経営陣としては『あの極めて保守的な中計は一体何だったんだ』と市場から大批判を浴びることになりかねません。 だからこそ、今回の情報修正の着地は、中計最終年度の数字をギリギリ超えない『3100億円』という、表現に抑えたのではないかと解釈することもできます」
現在、フジクラの足元の需要は、ハイパースケーラーからの光ケーブルだけでなく、データセンター内部の部品需要(AIサーバー周辺の配線等)も大きく牽引している。さらに、為替前提(150円)による上振れ余地(1円円安で約20億円の増益要因)を考慮すれば、第1四半期決算発表では大きな修正をかけないと想定しますが、第2四半期決算(11月)時点では、さらなる上方修正の可能性も考えられるという。
「期初の弱いガイダンス、弱めの中期経営計画、さらにそれに対するロジカルな説明が不足していたことで市場の疑心暗鬼を生みストップ安となり、今度は大人の事情で小出しに修正しているだけ。電線セクターの稼ぐ力の『現実』は、何一つ崩れていません」