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金原ひとみ「自分はこの世界に生まれてはいけなかった」――フランス移住、離婚…“みんな嫌いだった”私が人を頼れるようになるまで(聞き手・吉田豪)

 前編ではSNS時代の“正しさ”や“人間の複雑さ”について語った金原ひとみ氏。後編では話題はさらにプライベートへ。人が嫌いだった若い頃のこと、怒りとの付き合い方、離婚を経て初めて知った「人に頼る」という感覚、そして小説を書き続ける理由――。吉田豪氏との率直な対話から、作家・金原ひとみの意外な素顔が見えてきた。

みんかぶプレミアム連載「吉田豪の月イチ気になる話。」

目次

「自分はエイリアンなんじゃないかと思ってた」ずっと消えなかった異物感

――金原さんは、もともと生きづらさをずっと抱えてきた人じゃないですか。それは家庭由来のものだったんですか? それとも学校?

金原 どうなんだろう? 自分はこの世界に生まれてはいけなかった存在っていう確証はありました。

――確証があるレベル!

金原 はい(笑)。根拠のない確証がずっとあって。それはいまでもそんな気がしてるし、なんでここに存在してるんだろうっていうのはずっと腑に落ちなさがあるというか。ぜんぜんここじゃなかったなっていう確証です。

――こんな適材適所な仕事に就けて楽しく活動できているように見えても、まだなんですか!

金原 そうですね、いろいろやって、それがある程度の評価をしてもらってるんですが、そういうこととは違って、遺伝子レベルでの違和感という感じです。

――最初は何が腑に落ちなかったんですか?

金原 なんなんでしょうね? 絶対に自分はここには馴染めないという自信がありました(笑)。この世界に対しても家庭に対しても学校に対しても、すべてに対して。だから、エイリアンなんじゃないかと思ってたんですよ。自分はまったくふつうの人間じゃなくて、解剖とかしたらぜんぜん違うものが詰まってるような存在なんじゃないかなと思ってて(笑)。それは9歳ぐらいからずっとありましたね。

――その違和感が、小説を読み始めたことで何か変わってきたんですか?

金原 まあ違和感は消えていないんですが、この世界だけじゃないんだっていうことに気がつけたというか。この現実以外の世界をいくらでも創造できるんだっていうことが心強い事実ではあって、だから自分もこういう世界を作れる人間になりたいっていう気持ちで書き始めました。

怒りはなくならない。だから私は小説を書く

――聞けば聞くほど適材適所ですね。

金原 いやいや、怒ってばっかりで(笑)。

――結局、怒りはなくならないものなんですね。

金原 わりとなくならないですね。友達にもちょくちょく「は?」ってなるし。子供たちに対しても怒りが沸くことはあるし。ただ、小説を通して怒りを表現するので、そこで一段階俯瞰するじゃないですか。それだけでちょっと楽になるというか、昇華してる感があって。

――何か腑に落ちないことがあると作品にしてみて、そこに怒りをぶつけつつ、腑に落としていく作業をしている感じなんですか?

金原 そうですね、言葉にするとそういう感じ。

――結婚とか離婚で腹立たしい思いをしたら、またそれを作品にして。

金原 書けないこともあるんですけどね(笑)。書きたいことを書けないことほど辛いことはありません。

――よくノンフィクションだと書きづらいこともフィクションとしてなら書ける、みたいに言う人がいますよね。

金原 そうですね。離婚したいんだけど夫がゾンビになっちゃってできないみたいな話を書きましたが、それももちろんフィクションです。職業とか見た目とか名前とか、そういうものをいかに外して書くかが重要だと、知り合いの弁護士が話してました。実体験のモラハラとか離婚問題を書きたいという作家は多いんですが、編集者も名誉棄損とかに関してちょっとナーバスになってます。

――「これ実在の人物に近すぎて抗議がくるんじゃないですか?」みたいな。

金原 編集者にもグラデーションがありますが、最近は特に気を遣ってる人が多いと思います。名誉棄損とかプライバシーの侵害は、出版社にとってはいつの時代も切り離せない問題です。

正しいことを言うだけでは、人は救えない

――最近はどういったことへの怒りが多いんですか?

金原 前時代的なことを言ってる人がまだいるので、そういうものへの怒りもあるし、昔仲の良かった友達と久しぶりに会ったらすごい社畜になってて、「おまえそんなんでいいのか! おまえはそこで死ぬのか?」ってワーッと言ったら、「あんたは正しいことしか言わないよね」みたいに腐されて「話にならない!」って険悪になったり。

――正しいことを強く言っちゃう。

金原 よくないですね、これも暴力になってしまうなと思って。いろんな事情があるんだろうと思いつつ、続きは小説でやろうと思いました(笑)。

――全部そこに繋がっていくんですね。

金原 そうですね、ここで暴走すると友梨奈になっちゃうので。先にあるのは死しかない、みたいな感じになる前に引き取って。

――どうにもならなくて視野が狭くなっちゃってる人に向けて、どれだけ正しいことを言ってもまず響かないでしょうからね。

金原 こっちが言えば言うほど向こうは頑なになるし、あのときは言いすぎたかなと思ってたんですけど、その場にはもうひとりいて、その人が向こうの肩を持つじゃないけど、「自分も会社員だから気持ちはわかる」みたいなことを後日別の場所で言ってて。それに対しても「は? 共感できるってどこに?」と突っかかってしまいました。

――そこも詰める!

金原 よくないですよね。

――基本はよかれと思っての発言なんですよね?

金原 そうです。会社のせいで体を壊していたし、相手のことを思って言ってるんだけど、それが相手からしたら「こっちの気も知らないし、置かれた環境も知らないくせに」って思いますよね。

――すごい雑に解釈すると、勉強しなきゃいけないのはわかってるのに親から「勉強しろ」って言われて、「いまやろうと思ってたのに!」って言い返すのにちょっと近いのかなって。「それは言われなくてもわかってんだよ!」と。

金原 まあそんな感じですかね(笑)。

保育園の送り迎えは“ヤンキージャージ+サングラス”

――人間関係もストレートなタイプですよね。

金原 だから、よくないと思います(笑)。

――だいぶ変わってはきたんですか?

金原 若い頃は、気が合わないと思ったらすぐに縁を切ったり、あんまり深入りすることがなかったんです。「みんな嫌い」みたいな(笑)。誰とも関わりたくないと思ってたので、そこまで苛立たされることもなかったんです。30歳過ぎてから、人とのやり取りが多くなりましたね。

――昔はシャットアウトしてたような人とも交流できるようになって。

金原 そうですね、話し合えるようになった。

――それは出産を経て変わったところもあるんですか?

金原 出産してすぐの頃は、逆に絶対に母親的なものは受け入れまい、みたいな反発心があって。昨日、当時住んでいた場所の近くで取材を受けいてふと思い出したんですけど、子どもが保育園に通ってたときに、信じられないようなデザインの、ヤンキージャージのセットアップでサングラスかけて送り迎えして、すごく牽制してました。

――拒絶オーラを出して。

金原 はい。実際、誰とも仲良くならなかったです。そのとき反発心がすごく強かったので、ママ友的なるものすべて排除してきたんですけど、フランスに行ってから(2011年にフランス移住)、これは人を頼らないと死んでしまう、みたいな過酷な状況に置かれたので、そのときに人を頼ったり対話を試みて、少しずつ凝り固まった心を開いていった感じでしたね。

――それまではデストロイというか、「関わってくんな!」ってタイプだったんですか。

金原 フランスで仲良くなった友達に、「実は1年ぐらい前にそこのメリーゴーランドのところで話しかけたことがあったんだけど、そのときあまりに態度が塩くて、この人は関わっちゃダメな人だと思ってビビッて退散したんだよね」って言われました

――よくそこで懲りずに仲良くなれましたね、その人。

金原 そうなんです! でも、別のつながりのなかで仲良くなったので、ちょっと丸くなったときに受け入れられたっていう感じなんでしょうね。すごく塩い態度だったらしくて。

――そこから変われたんですね。

金原 そうですね、人に頼るってそんなに悪いことじゃないんだなってようやく思えた瞬間でしたね。

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この記事の著者
吉田豪

1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。

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