生産性が2倍になったら、給料2倍か、週休3日か。経産省委員・小澤健祐が問う、AI時代の報酬のあり方
AIで2倍のアウトプットを出しても、給料が2倍になるわけではない。むしろ得をしているのは、月数千〜数万円の利用料で従業員の生産性を倍にできる、経営者の側だ。
2017年からAIの発信を続け、経済産業省「AI時代におけるスキルのあり方」ワーキンググループの委員も務める小澤健祐(おざわ・けんすけ)氏は、企業研修や講演の現場でこの”AI格差”を目の当たりにしてきた。熟練職人の技までAIが引き継ぎ始めた今、働く人が報われるためには何が必要なのか。全3回の第1回。
みんかぶプレミアム連載「AI富裕層への最短ルート」
AIメディアで記事1,500本。ChatGPT以前からAIを語り続けて9年
私がAIについて発信を始めたのは2017年です。まだChatGPTはこの世に存在せず、Googleホームやアレクサといったスマートスピーカー、チャットボット、画像認識AIなどが話題の中心だった時期です。当時は会社員で、AIメディア「AINOW」の編集長として1,500本以上の記事に携わりました。
私は、AIの可能性やAIの進化、AIで変わる未来予想などについて記事で語ってきた一方、何本記事を書いても「Webメディアの発信だけでは、社会は変えられない」という感覚が強くなり、会社を辞めて独立しました。
では、AIの知識を使って社会で何をすべきかと考えたときに、自分自身の活動を広い意味で『メディア』と捉えることにしたんです。具体的には、Webメディアで情報発信するだけではなく、私自身がAI専門家として広告塔となり、法人へのAX研修、企業へのAI導入、講演やイベントへの登壇、資格制度の立案を行ってきました。
「AIの社会実装そのものを進めるための活動」に軸足を移したことで、現在では経済産業省「AI時代におけるスキルのあり方」ワーキンググループの委員、一般社団法人AICX協会の代表理事など、多くの役職を務めています。
数千円のAIで従業員のアウトプットが2倍。それでも給料は変わらない
私が、企業研修や講演で現場を回っていて強く感じるのは、「AIを使ってお金を稼ぎたい」と思っている人がとても多いということです。
「AIを使ってお金を稼ぐ」ということは、経営者にとっては、実はとても嬉しい世界なんです。なぜならば、毎月数千〜数万円のAIエージェントの利用料を払うだけで、従業員が2倍のアウトプットを出してくれるようになる。経営効率がとても良くなるわけです。
では、これを従業員目線から見てみます。AIを使って2倍ぐらい仕事をして、2倍ぐらいのアウトプットを出しているのに、給料が2倍になっていない労働者は非常に多い。この構造は、本当にそれでいいのでしょうか。
後継者不足の部品メーカーが選んだ、”職人技をAIに継がせる”という道
次に、中堅部品メーカーの話をします。意外だと思われる方も多いかもしれませんが、AIを使って仕事をするメリットがあるのは、何もパソコンの前だけの仕事ではありません。現場のマニュアルや、その場での判断に必要な情報をAIに扱わせる活用は、製造業で今もっともホットなテーマだと言えます。
私の著書『AIエージェントの教科書』(ワン・パブリッシング)でも、「実践シナリオ」として、具体的にAI導入をイメージするためのフィクションのシナリオ設定を紹介しているのですが、今回はさらに深堀してお話します。中堅部品メーカーで、AIを使って「職人技を引き継ぐ」という取り組みをしました。具体的には「後継者不足で、職人技を受け継ぐ職人がいなくなってしまう」という課題から、AI活用に踏み切ったのです。
「職人技こそ、人間にしかわからない感覚的なものがあるのでは?」と思う人も多いかもしれませんね。しかし、『職人技』をAIに理解させる仕組みとしては、ChatGPTにテキストを入れると要約されたテキストが返ってくるのと、原理は同じです。要は「インプットをアウトプットに変換する」という、実はとてもシンプルな話でしかないんです。
例えば、ロボットの右手を動かす信号をAIに入れて、AI自身がスムーズに動かせるように調整すると、人間と同じ動きや判断ができるようになります。
当然ながら、ここで最も大切なことは「職人技の言語化」です。AIにインプットする情報を、より具体的に、より精密にする必要があります。職人技と言われる人間にしかできないと思われがちなことを、しっかりとロジックに落とし込んでいくのです。社内でプロジェクトチームを組み、現場の職人とIT部門が一丸となり、時間をかけて実施していきました。