名刺交換まで目も合わせない。女性社長が「逆境」を「武器」に変えるまで
名刺を交換する前、相手はずっと男性スタッフに話しかけている——不動産の展示会に出るたび、代表取締役である髙山氏はその場面に遭遇する。外見と性別から「決裁権のない同行者」と判断され、名刺を渡して初めて対等に扱われる。女性経営者が今も日常的に払っているコストだ。
株式会社MIKIA代表・髙山亜希美氏は、その現実を「傷つくというよりは、まだそういう業界なんだな」と淡々と受け止める。しかし同時に、「女性であること」を口コミと信頼を生む集客の武器に変えてきた。本稿では、逆境を強みに転換した経営戦略と、サービスの質を支える社内外への一貫した姿勢を明かす。全4回の第2回。
みんかぶマガジン連載「バリキャリ女性社長のワークライフ・ルール」
目次
名刺を交換した瞬間、態度が変わる。「女性」であることの壁
不動産の展示会や業界の交流会に男性スタッフと一緒に参加すると、毎回似たような場面に遭遇する。「名刺交換をするまで、相手はずっと私の男性スタッフに話しかけているんです。私のことは目も見ない。ところが名刺を交換した瞬間、急に態度が変わる」
代表取締役として参加しているにもかかわらず、外見や性別から「決裁権のない同行者」と判断され、名刺を交換して初めて対等に扱われる。商談の入り口に立つ前に、まず自分の立場を証明するひと手間が必要になる。それが、女性経営者が今も日常的に払っているコストだ。髙山氏はその現実を「傷つくというよりは、まだそういう業界なんだなと」と、淡々と受け止めている。
女性経営者がぶつかる問題はこれだけではない。「女性が社長をしていると、ビジネスを利用した誘いが来るんじゃないか、という不安は、自分も感じていたし、周りからも言われました。今でも聞かれることがあります」。ビジネス上の取引や交流を口実に、個人的な食事や交際に持ち込もうとする誘い——今でもそのリスクがあるのが現実だ。
それでも周囲の反応が「反対」ではなく「応援」だったことは、髙山氏にとって大きかったと振り返る。夫も父も、「やると思っていた」と背中を押してくれた。「大変だぞという声より、頑張ってねという声の方が多かった。それがスタートの支えになりました」
女性目線を経営の武器に変える。物件のスペックより大事な「安心感」
一方で、女性であることが明確な強みになる場面もある。物件の内見案内がその代表例だ。キッチンの使い勝手、収納の量、防犯設備など、女性の視点から具体的に語れる情報は、男性スタッフには出しにくいリアリティがある。実際に料理をする、収納を使う、夜道を一人で歩く、その体験を持つからこそ物件の「使われ方」から逆算した説明ができる。「家事の動線の話や収納の使い方は、やっぱり女性目線だからこそ伝えられることがあります。同性として話すからこそ、伝わり方が違う」
MIKIAのオフィス周辺には大学が多く、新卒・上京したての女性の一人暮らしサポートも多い。その層の顧客において、特有の信頼が生まれているという。「親御さんから『女性の社長さんがいるなら安心して任せられます』と言っていただける機会が増えました」。初めて一人暮らしをする娘を持つ親にとって、それは物件のスペック以上に重要な安心材料になる。口コミや紹介で顧客が広がっていく構造は、広告費をかけずに成立する集客モデルだ。このような信頼の連鎖が、小規模な不動産会社にとっての最も効率的なマーケティングになる。