ツイッター買収”嘘と本当”…「利用者を10億人にする」最強経営者イーロン・マスクが日本を変える、世界を変える、人類を変える

 イーロン・マスクが買収したツイッター。月間利用ユーザー数は世界で3億3000万人だが、日本だけでも4500万人(2017年10月時点)と、日本人が大好きなサービスでもある。マスクは日本人が愛するツイッターを一体どうするつもりなのか。そもそもマスクって何者なのか。ツイッターを巡る情報はどこまでが真実なのか。言論空間はどう変化するのか。みんかぶプレミアム特集「ツイッターの真実」第1回は、ジャーナリストの小倉健一氏が鋭く分析する――。

目次

奇人、変人、イーロンマスク…マリファナ大好き! ウクライナ問題にも介入

 ツイッター買収後、イーロン・マスク氏の報道が増え、日本においてもマスク氏の奇人変人ぶりについての認知が進んできたように感じる。

 例えば、マスク氏は「マリファナが好きだ」と定期的に公にしていて、(脳コンピュータの実験的新興企業ニューラリンクを設立し)23匹の猿に対して脳に電極を埋め込むために頭蓋骨の一部を取り除いたり、100万人の人類を火星に移住させようと本気で考えていたりする。

 言っていることがコロコロ変わることでも有名だ。ツイッターを買収した当初は、トランプ前米大統領のツイッターアカウントを復帰させるかどうかは「協議会」なるものを発足させて決めるとしていたが、マスク氏は11月18日に、突然ツイッター上でトランプ氏のアカウントを復活させるべきかどうかを聞くアンケートを実施。約1500万人が回答し、「はい」が51.8%、「いいえ」が48.2%だった。マスク氏は、翌11月19日にラテン語で「Vox Populi, Vox Dei」(民の声は、神の声)と投稿し、トランプ氏のTwitterアカウントを復活させた。

 ウクライナ戦争においては世界中を困惑させたこともあった。10月3日、マスク氏はウクライナ戦争での停戦を提案したのだが、その内容が、クリミア半島をロシアに割譲し、その他のロシア占領地域では住民投票をやれというもので、ウクライナ側にとって論外というか、ただただ迷惑なものでしかなかった。アメリカの大富豪が、見当違いのツイートを投稿するというのであれば、放っておけばいいのだが、マスク氏は「スターリンク」という人工衛星を中継基地としたインターネットの高速通信網をウクライナに無償で提供していて、このおかげで、ロシアによるサイバー攻撃やインフラ破壊が進み、光ファイバーや携帯電話の回線が遮断された地域でもウクライナは(軍隊も住民も)インターネットを使うことができている。無論、ロシア軍への反撃の支えになっている。

イーロン・マスク真の野望…「事業<X>」とは何なんだ

 ロシアが喜び、西側諸国からの失笑、嘲笑を浴びたマスク氏は、10月14日、もうウクライナに無料でスターリンクは使わせない、使いたければアメリカ政府が料金を払えと投稿した。そして、のちに撤回した。

 都合よく発言や経営方針を二転三転させる経営者は、マスク氏だけではなく、世界中のベンチャー企業の特徴かもしれないが、マスク氏の場合、ウクライナの安全保障に影響を与える「スターリンク」、人類の言論インフラ「ツイッター」、世界一の時価総額を誇る「テスラ」の経営者であるので、世界中が振り回されている結果となっている。過去には、ツイッターでウイルスに対するパニックを「馬鹿」と言い、自宅待機命令を「強制的な監禁」と表現し、「ファシスト」であり、憲法上の権利を侵害するものだと述べたこともあった。

 しかし、ただの迷惑なヤツなのかといえば、そうではない。人類の未来を「本気」で案じている。その本気がどの程度なのかというと、例えば、マスク氏が<X>という事業をやろうかどうかを考えたとする。

 そのとき、マスク氏は<X>が何らかの理由で社会や人類のために決定的に重要であると感じた場合、<X>に関与しようとする。関与と言っても生半可なものではなく、全財産をつぎ込む覚悟で関与する。マスク氏は、自分自身をエンジニアと考えていて、「朝起きるのは世界にある技術的な問題を解決したいという気持ちから」であり、「あなたは将来、より良くなることを望んでいる」「人生をより良くしてくれる新しい刺激的なものを求める」というのだ。

 火星を植民地化し「生命を多惑星化」することによって、人類の長期的な生存を確保したいと考えた「SpaceX」(スペースX)事業は、100万人の人類を火星に送る計画を持っている。化石燃料からの転換を加速させたいと考えて立ち上げたのが、電気自動車事業「Tesla」(テスラ)だった。

「自分の金のほとんどは火星基地の建設に使う」

 しかし、SpaceXの最初の3回の打ち上げは失敗した。中でも、人類初の火星探査機「スターシップ」の発射実験を行い、離陸から6分後に不時着し、巨大ロケットが爆発したことは衝撃を与えた。Teslaは生産上の問題、サプライチェーン、設計上の問題など、あらゆる問題を抱えていた。

 そして、訪れた金融危機。マスクは、お金を残す選択をせずに注ぎ込んだ。生活費を払うために友人からお金を借りなければならないほど借金をした。

 ほぼ全員が、マスク氏の事業が一つとしてうまくいくと思っていなかったが、その批評家たちの意見はマスク氏は全て無視した。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が、投資家のウォーレン・バフェット氏が億万長者になったあとで、莫大な寄付を社会貢献事業にしたが、マスク氏は「自分のお金のほとんどは火星に基地を建設するために使われるだろう」とも発言していて、コロコロ発言を変えるマスク氏のことなので、今後意見を変える可能性は十分にあるが、儲けた金はすべて、人類の課題解決のための自分の事業で使い果たす気持ちのようで、「金持ちになれると思っていない」という。

 つまり、マスク氏のことを簡単に説明せよ、と言われたら、地球人類レベルの課題解決のために、全財産を惜しみなく投じる覚悟をもった、気まぐれな経営者ということになるのだろう。2021年、米タイム誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、タイム誌はマスク氏を「道化師、天才、空想家、実業家、興行師、悪党、トーマス・エジソン、アンドリュー・カーネギー、『ウォッチメン』のドクター・マンハッタン」などと評している。

WSJ「マスクは失敗する」、マスク「運動家グループのせいで広告激減」

 今後の焦点は、マスク氏によるツイッター改革が、成功するか否かであろう。

 早速、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、「マスク氏のツイッター再生、失敗しそうな訳」(11月9日)として、ツイッターの成長に懐疑的な見方を披露している。

「今までマスク氏は多くの人が不可能と考えることを成し遂げてきたが、ツイッターは同氏が過去に手がけたのとは全く異なる種類のチャレンジだ。よく褒めそやされるマスク氏の「第一原理」思考は、新しい物理的製品を生み出すのにはうってつけだ。だが同氏が示したのは、ソーシャルネットワークの運営に必要となる極めて巧妙な交渉術の才能とは真逆のものだ。ソーシャルネットワークではリーダーが、規制当局や政治家はもちろん、広告主やユーザーのニーズや要望のバランスを取る必要がある。その傍ら、いかなるコンテンツが許容され、もしくは許容されないかに関して編集上の決断とみなされるものを監督しなければならない」

 WSJの、この上から目線の言い方には、コンテンツを扱ってきた「先輩」としての自負があるのだろうが、ほとんどのメディアや批評家たちが予測するように、やはり失敗してしまうのだろうか。

 ポイントは、1つ。当然のことながら、売上が伸びるかどうかだ。

 具体的には、有料サブスクリプションサービスが利用者の多くに受け入れられるのか、そして、広告収入が戻ってくるのかだ。

 マスク氏は、ツイッターを買収して以来、コンテンツの適正化を担当する数え切れないほどの社員、信頼と安全の責任者を含む多くの人を解雇してきた。米共和党を中心にそのマスク氏の動きを歓迎する人もいるが、これまで多額の広告費を投入してきた企業で不信感が募っているとされている。広告費が(マスク氏に言わせれば運動家グループのせいで)激減していることを知っている人も多いだろう。

新規ユーザー獲得! 企業が広告出稿したくても、リストラしすぎて連絡がつかない

 しかし、英紙フィナンシャルタイムズ(11月28日)が報じたところによれば「度重なる人員削減や離職でツイッターの広告部門が大幅に縮小されたため広告会社の多くは同社との連絡窓口を失い、ここ数週間はほとんど、あるいはまったく連絡を受けていないと述べた。ある広告枠買い付け会社の話では、担当者が不足しているせいで一部企業は過去の広告キャンペーンの効果についてツイッター側から意見を得られていない。ツイッターの広告システムにも欠陥が増え、キャンペーンの実施が困難または不可能になったとこぼす企業もある」「2人の広告会社幹部によると、会談の場でのマスク氏はツイッターの運営方法の詳細まで把握しているように見え、豊富な知識で企業側を感心させた。『彼は(前CEOの)ジャック・ドーシー氏より知識があり、ツイッターの事業に精力を傾けている』とある大手広告会社の上級幹部も言う」のだそうだ。

 この報道を前提にすると、マスク氏が従業員のクビを切りすぎたのが問題であり、企業に広告出稿の意欲は残っていて、広告費の落ち込みもそこまでひどいことにならない可能性がある。

 また、世界一のお騒がせ男であるマスク氏が精力的にツイッターで投稿することが、「Twitterのエンゲージメントを高める大きな原動力となっており、最近の彼のツイートによって、かなりの数の新規ユーザーが獲得されたり、古いユーザーが再活性化されたりしている」(BBC・11月29日)という。

 6年後には、ツイッター利用者を約10億人(9億3100万人)にするという目標を掲げるマスク氏(自身のフォロワー数は、12月2日現在で1億1000万人)。その投稿からますます目が離せなくなる。

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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