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「AI(アイ)って何需要?」と冷笑した20歳のアイドル。あの頃の僕らがバカにした「当たり前の綺麗事」に、深夜3時にお弁当をつくり2ヶ月で3回発狂した僕が救われるまで

 地上波からNetflix、さらにはAbema、U-NEXTまで――。コンテンツが乱立する今、人を真に熱狂させるのは「面白い」の先にある「ヤバい」番組だ。1000人以上の剥き出しの人生を記録し続けてきた『街録ch』ディレクター・三谷三四郎が、エッジの効いた一作を独自のバイアスで読み解く。

 連載「今、ヤバい番組」第10回は、多忙を極めて発狂した三谷三四郎を救ったあの映像について――。

目次

世代間ギャップを埋める「平成ヒット曲」

 今回紹介するのはAI(アイ)の「THE MOMENT feat. ¥ellow Bucks (official video)」。ヤバい番組ということを完全に無視したセレクトでお送りしよう。とりあえず『ヤバい番組』というタイトルなので、一応映像のほうがいいかなと思いMVにしてみた。

 この曲との出会いは、先日、弊社(株式会社ぷ)のスタッフ、かとう(28)と、にへー(26)と名古屋・大阪取材へ行く道中。自分とはひとまわり離れている2人と、車で片道5〜6時間の移動。そうなってくると音楽は必須。運転は1人1.5〜2時間程度で交代。それぞれが好きなアーティストを流していいという立て付けにしてはいるものの、「全員が全員、自分しか知らない曲を流してもなー」と思いながら。とはいえ、「今このタイミングでこの曲流したい」という時は、「知らない曲でもいいや」と無視して、自分しか知らなさそうな曲も流してみたり。

 そんな中、全員が盛り上がれる1つの解が。それは2005~2010年のJ-POP。自分が大学生~社会人1年目。かとう 8~13歳。にへー 6~11歳。僕がカラオケとか行く余裕があり、J-POPにまだ触れ合っていた大学時代と社会人1年目。 そして若手2人は、なんとなく音楽と触れ合い始める初期の年代。

 最近はありがたいことに、そのような平成Hitsとか2000年代J-POPとかのプレイリストがApple MusicやSpotifyにゴロゴロ落ちているのでそれらを流す。個人的に運転中に持っていきたいのが、大声で歌えるちょいバラード。

・湘南乃風『純恋歌』

・ET-KING『ギフト』

・AI『STORY』

 ここら辺が来たら、大声で歌えば眠気も覚めるのと、ひとまわり下の2人も結構知っていて口ずさんでくれたり、なんならラスサビは車内ちょい合唱くらいのテンションで歌っていたりする。

 とはいえ、これらをエンドレスリピートしていても飽きがくるので、自分が助手席のターン、AIの「STORY」が流れた時に、ステーションという機能(この楽曲を好きな人が好きそうな曲を勝手にセレクトしてくれるモード)を発動。

 その中で出会ったのがこのAI「THE MOMENT feat. ¥ellow Bucks」。エレキギターのアルペジオからイントロが始まると、いきなり¥ellow Bucksのラップが。えっAIの曲じゃないの?あっフィーチャリングか…。てかどういう組み合わせなんだ?

真逆の2人が見せた「ブレない凄み」

 ¥ellow Bucksといえば、東海を拠点にオーディション番組から一気にスターダムへとのし上がった現在のヒップホップシーンを牽引する若手ラッパーで、これまで複数回逮捕されている。そんな若手のイケイケで危険なラッパーと、20年以上J-POPの第一線で活躍しているAIとのコラボに驚いた。以下、歌詞を引用できないため、要約した形で説明する。

 とにかくタフでいたい、こんな場所で終わるわけにはいかない、何度でも立ち上がる不屈のスタンスで目を覚まし、毎日をバースデーのように最高に飾って稼ぎまくるぜ、というようなヒップホップ特有のハングリーなメッセージを低音の気だるくもなぜか勢いを感じるラップで表現している。

 そして、サビでようやくAIが登場。

 しんどい顔は見せずに、この一度きりの人生をもっと大切に生きよう。お天道様の下にいれば何も心配はいらないし、呼んでくれればいつでも愛をもって応えるよ、といった底抜けにポジティブな言葉が響く。

 このサビを聴いた時にふと思ったのが、こんなような内容、さっきも歌っていなかったか?

『STORY』。あなたがいてくれるから私は一人じゃないし、それだけで強くなれて何も恐れることはない、というような無償の愛と絆のメッセージ。

『ハピネス』。あなたの笑顔一つで世界中に幸せが伝染していくし、手を取り合えばきっと全部うまくいくよ、という最高にハッピーなメッセージ。

 まぁ、完全に同じではないにせよ、この単純明快な言葉で落ち込んでいる人を励まそうというスタンスが全く変わっていないことに凄みを感じた。

AI(アイ)が好きだと恥ずかしくて言えなかった

 今自分は39歳。AIの「STORY」や「ハピネス」がヒットしていた時は大学生。こんなストレートに当たり前のことを言っている歌にハマっていることを洋楽好きな友達にバレたくないという思いがあり、カラオケで「男が女子の歌を恥ずかしげもなく熱唱する」という一芸で、この曲を普通にいいと思っていることを隠していた。

 というのも当時、友達に福山雅治の恋愛ソングの、ちょっと会話を交わしただけで「絶対に君のことが好きだ!」と確信してしまい、もう自分の気持ちが抑えきれなくて弾けちゃっているようなあの有名なサビに対して、「こんなの、小学校低学年でも書ける」というディスりで友達と一緒にバカにしていた手前、ストレートにAI好きといえない自分がいた。

 さらに約10年後、結構尖った女性アイドルと仕事をしてきた際、一人のメンバーが遅刻したため待ち時間に雑談をしていたのだが、その尖りアイドルが「AIって何需要?」というトークテーマを放り込んできた。「うわっ、この20歳くらいの若者が、この当たり前すぎることを言ってることに対して『これ意味ある?』みたいな目線で自分の感性の鋭さをアピールするのってあるあるなんだな」と思った瞬間に、なんともいえない恥ずかしい気持ちになった。

 で、おそらく、AIはこのような心無いディスりで20年間、陰口を叩かれていたのではないかと推測する。それでも今もなお、(あとで調べたら2021年発売で¥ellow Bucksが捕まる前のコラボだった)「疲れた顔は見せずに、人生を大事に生きよう。太陽の下なら心配ないし、いつでも愛を返すよ」といった趣旨のことを歌っていることに、曲を聞くたび、これを続けることの凄さと、これだけ心に持っておけば人生なんとかなるという、ある種の悟りのようなものを感じた。

夫婦関係で発狂しかけた僕のリアル

 世界中に広がった、イスラム教・キリスト教・仏教。それぞれそんなに詳しくもないのだが、このAIが歌っているようなことは大体書いてある。ネガティブにいえば、ありふれている。が、 ポジティブに捉えるなら、大事なことを誰にでもわかるように伝えている。

 それを20年続けて、尖りまくりの若手カリスマラッパーに引っ張られることなくブレずに続けている。これを王道というのかなとも思った。自分がこの曲の琴線に触れたのは、プライベートと仕事がごちゃ混ぜになって混乱していたからというのも大きい気がしている――。

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