【独占】小池都知事がソーラー義務反対者に大反論「東京にはこの道しかない!」…「金融+環境」の大構想を語る(特集:電力ひっ迫「再生エネ編」)

東京都は5月、新築住宅等への太陽光義務付けの条例案をまとめた。この動きに多くの反対の声が東京都に寄せられたというが、東京都の小池都知事は「この道しかない」と確信を持っている。みんかぶプレミアム特集「電力ひっ迫」(全9回)の第4回は、グリーンエネルギーについて小池都知事が語る。小池都知事は単なる環境推進だけではなく、金融と融合させた大きな構想を描いていたー-。
目次
本気で電気と向き合ってこなかった日本の怠惰

今、ロシアのウクライナ侵攻、円安を契機として、日本列島をエネルギー危機が襲っている。電力供給について、今年の夏を乗り越えたとしても今度の冬は非常に厳しいことが予測されている状態だ。
東京都では、「夏のHTT推進期間」を9月末までセットしている。「熱中症対策を講じながら、賢く電気を使ってくださいね」というキャンペーンだ。「HTT」とは、電力を<Hへらす、Tつくる、Tためる>の略で、気候危機への対応だけでなく、中長期的にエネルギーの安定確保につなげる観点から、東京都は都民や事業者と共に総力戦で取り組んでいる。
考えてみると、日本は、2011年の東日本大震災から、処理水の扱いを含めて電力について物事が前に進まずにきてしまった。
例えば、コンセントなどからとる「交流」と呼ばれる電気は、「東日本は50Hz(ヘルツ)」「西日本は60Hz」と周波数が違う。これは世界的にも珍しいもので、一国で2つの周波数があるのは、アフガニスタンと日本ぐらいしかないという指摘もあるぐらい。
これは明治時代に、電力会社が発電機を購入する際、東京では「ドイツ製」が、大阪では「アメリカ製」が輸入され、電気をつくりはじめたことがきっかけなのだ。東と西の境目は、新潟県の糸魚川と静岡県の富士川のあたり。これらの川などを境に、西側では「60Hz」を、東側は「50Hz」を使うことになり、現在に至る。周波数が違うことで、同じ電化製品(電子レンジなど)が使えなかったり、電力の融通が直接接続できなかったりと不便も多い。
100年前から同じ周波数にしようという議論が続いてはきた。3・11直後の電力不足のときも統一の動きはあったものの、兆円単位の費用がかかるとされ、沙汰やみになった。
北海道の風力発電による電気を本州へ運ぶためには、巨大な設備投資が必要とされ、徐々に改善していても抜本的な対策にはなっていない。
電力需要はこれから確実に増えていくことがわかっているのに、エネルギー不足でわが国の成長が止まってしまうというのは避けなくてはならない。開発途上国ならまだしも、政府は、安全が確認された原発の再稼働や、自然エネルギーの徹底活用はもちろん、先を見据えた電力供給の設備投資はなすべきである。
ソーラー義務の反対論者に言ってあげたいこと
東京都では、2030年までにカーボンハーフ(都内温室効果ガス排出量を半分(2000年比)にすること)、2050年までに「ゼロエミッション東京」(2050年までに都内のCO2排出量を実質ゼロにするとともに世界の脱炭素化にも貢献する東京都の取り組み)へ至るロードマップを描いた。その中で、2026年を中間年と定めて、4年後に向けて具体的に動き出している。ロードマップが長いと「そのうちやればいいや」となってしまうので避けねばならない。
このロードマップには、水素エネルギーの活用も含んでいる。私は国会議員時代から川崎重工や千代田化工建設などの水素の製造・輸送に関連する事業者とともに、研究を進めてきた。原料となる褐炭(水分や不純物などを多く含む品質の低い石炭。ブラウンコールとも呼ばれる)が豊富なオーストラリアなどでの取り組みなど、水素社会実現に向けての具体的な研究だ。
褐炭を利用しての水素製造は、すでにオーストラリアで行われており、「褐炭ガス化技術」、液化した水素を大量に長距離、大量に輸送する技術などが開発され、実験から実現段階へと入っている。
水素の活用だけではない。2026年までに再エネ電力利用を加速して増やしていく。
とはいえ、全体的に言って日本のスピード感は十分ではない。欧米、中国はトップスピードで、研究、開発、実現へと進めている。日本はいつまでも実証実験を繰り返すばかりだ。技術が優れていても、実際の商用化で日本が遅れることは多い。「技術で勝って、ビジネスで負ける」例はあまりに多い。
まずは東京都でできることを進める。エネルギーの「地産地消」では、事業者に対し、太陽光パネルの設置の義務化を進めている。「義務」に対して色々な議論はあるが、人口約4000万人が住むカリフォルニア州やニューヨーク市をはじめとして、世界各国・地域で新築住宅などに太陽光発電パネルの設置の義務付けが始まっている。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー危機にさらされているEUでは、東京よりもさらに厳しく既存の建築物も義務化の対象となると聞く。
エネルギーの大消費地・東京にはメガソーラーよりも、建物の屋根や屋上に太陽光パネルを設置する。建物は30〜50年は使われるものであり、2050年の「ゼロエミッション東京」の実現には、今実施すべき対策だとご理解いただけるだろうか。
環境問題を金融と融合させて世界のマネーを集める
東京都では、2016年度から、東京グリーンボンド(環境債、2016年度は「東京環境サポーター債」という名称でトライアル発行)を発行している。今年度は400億円を発行する予定だ。これは大変人気が高く、毎年売り出しとともに即完売となっている。さらにESG債も600億円を発行する予定で、総額で1000億円になる。
自治体によるグリーンボンド発行には先例がある。パリ市が発行するグリーンボンドを日本の金融機関や機関投資家たちがこぞって買ってきたのだ。
「日本のお金でパリ市の環境が良くなる」というのは、もったいない話だと長年感じてきた。東京都でグリーンボンドを発行して、日本のお金で東京の環境を良くすることが望ましい。
クールビズを提唱した環境大臣当時から、「金融の力で環境を良くする」という「金融と環境」の融合は、大きなテーマの一つとしていた。当時は、金融に詳しい人は、環境に興味があまりなかった。環境に詳しい人は金融の知識が少ないといった現実もあり、うまく融合したいと考えてきた。2006年、当時の与謝野馨金融担当大臣と、環境大臣の私とで、経団連ホールにおいて「環境と金融に関するシンポジウム」を開催することができた。
経団連で、環境省と金融庁が一緒に開いた前代未聞のシンポジウムを契機に、世界ではすでに潮流になっていた「環境と金融はセット」で考える気運が高まり始めた。これらをベースに、東京都でのグリーンボンド発行へとつながっていく。
マーケットはトレンドに敏感だ。投資家の共感を呼ぶような考えで進まないと、世界のお金は入ってこない。東京の環境を良くしながら、世界中のお金を集めていく。
私が提唱したクールビズはなぜ日本に定着したのか
今や日本にすっかり定着した「クールビズ」。私がクールビズを提唱する前から、「アジアにはアジアのライフスタイルがあっていい」と考えていた。
西洋文明だけが先に進んでいるのではない。アジアの文明は(日本も)アジアだから当然必要であり、ベースである。福沢諭吉が唱え、明治の日本を支えた「脱亜入欧論」を否定するつもりはないが、ファッションもカルチャーも風土も、地域によって違っていて当たり前。その地域の違いを「エアコン」という技術だけでカバーするのではなく、もっと人間の根源的な部分から、地域風土に根ざしたものに見直す必要を感じていたのだ。
剣道、柔道など日本の武道には、「道」と「心技体」という2つの精神、4つの漢字がある。プロジェクトの成功においては、この4つの漢字が1つでも欠けてはダメだ。私が数々のプロジェクトを構想する上で、この4つの漢字の意味するものをつねに気にかけてきた。
武道においては、単に強くなればいい、相手を倒せればいいということではない。修行に励み、自分自身も人間として成長する「道」を極めることが大事となる。
また、武道で強くなるには、ノウハウや技術だけを磨くのではなく、「心(精神力)、技(技術力)、体(体力)」の3つがそれぞれバランス良く必要だとされている。会社経営などでも「経営理念(心)、技術(技)、システム・組織(体)を重視することで組織全体の力を伸ばせる」と活用できるだろう。
脱炭素社会推進は人類に課せられた義務だ
今、世界は気候変動、温暖化、異常気象に直面している。脱炭素社会(カーボンニュートラル)の推進は、人類に課せられた責務だ。クールビズからもう一歩進んだ社会の在り方が、日本には求められている。
日本社会にカーボンニュートラルを定着させるためにも、「道」「心技体」がポイントとなるだろう。
では、このカーボンニュートラルへの社会大転換における「道」「心技体」とは何であろうか。
まず、「道」だ。これは「大義」を指す。
今述べた「カーボンニュートラルへの大転換」がそれに当たる。しかし、どんなに立派な「道」(大義)であったしても、数値目標を一方的に押し付けられ、二酸化炭素を出すな、クーラーを消せ、クルマに乗るなと頭ごなしに言われたら、誰も守らず、政策は失敗に終わるだろう。
いかにも立派な目的とされる事業に莫大な予算をつけたにもかかわらず、国民や企業の共感を得られずに、「ただ予算をつけただけ」で使われずに終わる例は多い。
例えば、「エンジェル税制」というベンチャーを支援する制度をつくったものの、役所から非常に細かいチェックが入り、利用を断念したケースが多いと聞く。「日本でベンチャーを育てたい」という大義は素晴らしいものがあるのに、実際に進まないのはあまりにもったいない。
そこで大事なのが「心」。これは意識のことだが、時に「共感」という言葉にもなる。リーダーに大切なのは、大義を持ち、それをわかりやすく説明し、みんなの共感を得るようにすること。そうすれば、チャレンジも受け入れてもらえる。共感を得るには、利用しやすい制度にしたり、これなら一緒にやってみたいと共感を得られるよう提案することだ。
クールビズでは「真夏にネクタイや上着をとってみたら」と提案した。日本の風土に適した涼しい格好をすることで楽になり、エアコンのつけすぎを抑え、CO2の排出を削減し、結果的に「地球温暖化防止」という大義につながると訴えたのだ。
東京の屋根は余っているのだから使えばいい
「技」とは、技術のことだ。エアコン、クルマなどの工業製品だけではない。繊維であればユニクロのヒートテックなどの技術革新は、これからもカーボンニュートラルに貢献してくれるはずだ。日本企業がもっと活躍を期待される分野でもある。
太陽光発電の問題は、昼間は発電するけれど、夜には止まってしまうこと。風力発電も風次第だ。このようなことは自然エネルギー全般が持っているデメリットだが、この不都合を解消するには「蓄電」技術を高めなくてはならない。
高級電気自動車の販売で知られるテスラのCEOイーロン・マスク氏のコンセプトは壮大だ。マスク氏は、2015年には家庭用蓄電システム「パワーウォール(PowerWall)」を発売していて、蓄電技術では世界の最先端を走っている。(国産車は)電気自動車自体が「蓄電器」になるし、家庭用蓄電システムも中規模、大規模の優れた製品が開発されている。蓄電することで太陽光の弱点は克服される。そんな未来がもうすぐそこまできている。
最後の「体」。ここでは、システムや制度のことを指す。
吉永小百合さんがかつて「屋根がいっぱい空いている」と訴えたように、「東京の屋根」にはわずか4%程度しか太陽光パネルが設置されていない。日陰で設置できないようなところを除いても80%程度の屋根・屋上には、太陽光パネルを載せることができる。
設置できる場所はある。ならば、どうすればみんなの共感を得ながら進めていくことができるか。ここで「体」の出番だ。太陽光パネル設置を制度として強力にバックアップしていく。それも初期のお金がかからないような「リース利用」でも補助金が出るようにすれば、発電収入も得られるから誰もがやってみたいと思うだろう。
国が掲げている2050年のカーボンニュートラル達成のためには、太陽光発電の普及が必要だ。これから太陽光発電が大々的に普及することがわかれば、太陽光の市場はより魅力的なものとなり、日本企業も共感して、もっと参入してくれる。こういった好循環をつくりあげるのも政治の責務であろう。
地球環境が大変なことになっているのに、何もしないままで本当にいいのか。批判ばかりする、理想ばかり掲げているのに、何も行動を起こさない人のことを『NATO』(”No Action, Talk Only”「行動せず、口だけ」の意)と私は呼んでいるが、批判でなく、日本がどうやって2050年にカーボンニュートラルを達成するか、行動に移さねばならないときだろう。