ソフトバンク巨額赤字でITバブル再崩壊が始まった…孫正義、今度こそ万事休すか

関慎夫

過去最大規模の赤字決算。「この冬がどれだけ長く続くかわからない」

「この6カ月間で約5兆円の赤字を出したことをしっかりと反省し戒めとしたい」

 ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義社長は、8月8日に開いた2023年3月期第1四半期決算発表会見で、神妙な表情でこう語り出した。

 決算の中身は4月から6月までの3カ月間で約3.2兆円の純損失を計上したというものだが、その前の3カ月間でも約2兆円の純損失を出しており、半年間の赤字額は5.2兆円だ。SBGは21年3月期に、4.9兆円という日本企業として過去最大の純利益を出しているが、それから約1年後に、それを上回る赤字を出したことになる。

 赤字の理由は世界的な株価の下落と円安だ。SBGは17年に10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)をスタートさせて以来、投資会社としての性格を強めている。そのため世界各国の中央銀行がコロナ対策のために実施した未曽有の金融緩和による世界的株価上昇の恩恵を最大限享受してきた。ところが米国を筆頭に金融引き締めに舵を切ったことで環境が反転、株価が下落し、SVF運用成績は急速に悪化。さらには円安により外貨建ての負債が増加した。

 孫氏は「創業以来最大の赤字を出したことを真摯に反省すべきと考えている」「すべて私の指揮官としての責任だ」などと語り、「今後は守りに徹する」と、SVFの人員削減など、聖域なきリストラに取り組むことを表明した。

 今後について孫氏は「冬がどのくらい続くかわからない。3カ月かもしれないし、3年間かもしれない」と、株価低迷が長期化する可能性があるとしたうえで、「上場株も冬の時代だがユニコーンの冬の時代のほうが長く続く」との見通しを示した。孫氏の基本的な投資手法は、スタートアップなどの未上場株に投資し、上場後に売却してリターンを得るというもの。ユニコーンの冬の時代の長期化は、SBGの苦戦がしばらく続くことを意味する。

バフェットのバークシャーも大赤字。だが、ソフトバンクと中身は大違い

 問題は株価低迷が長期化した場合、SBGがいつまで耐えることができるかだ。SBGの3.2兆円赤字の発表とほぼ同じタイミングで、ウォーレン・バフェット氏率いる世界最大の投資会社、バークシャー・ハザウェイの4~6月期の最終赤字がSBGを大きく上回る5兆円に達したことが明らかになった。日米を代表する投資会社がいずれも同じタイミングで、巨額の損失を出した格好だ。世界一の投資家と評されるバフェット氏だが、投資先の株価が低迷すれば手の打ちようはない。赤字額が膨らむのを見守るしかなかった。

 しかしバフェット氏の場合、「株価下落は投資のチャンス」と捉えるだけの余裕がある。それは投資の大半を手持ち資金で行っているため、株価が下落しても借金返済のために投資株を売却する必要がなく、むしろ割安株の仕入れ好機となるためだ。実際、バークシャーは株価が下落に転じた今年1月から積極的に新規投資を行っている。

 その点、SBGは有利子負債20兆円超という大借金会社。常に利息の支払いと社債の返還に追われている。またSVFではサウジアラビアから約5兆円の出資を受けている。通常、ファンドへの出資は運用実績により配当を受け取り、運用に失敗すれば損失を出すリスクがある。ところがSBGはサウジに対し7%の利子を約束しているため、運用実績とは関係なく毎年3500億円を支払わなければならない。株価が好調なら7%の利息はそれほど大きくはないが、現状では大きな負担だ。こうした財務の脆弱性は、常にSBGの不安要因となっている。

創業以来、危機の連続だった孫正義とソフトバンク

 孫氏は8月8日の決算発表では、SBGが重視する財務指標、LTV(純負債/保有株式)が14.5%と、平常時の目安25%、非常時の目安35%を大きく下回っていると、財務の健全性を強調しているが、その一方で、アリババ株の売却や、SVFや子会社・Zホールディングス、英アーム社を担保に資金調達を行っている。非常時にキャッシュを積み増すのは経営の常道だが、それも限界がある。株価下落が今後も続いた場合、SBGの経営不安説が「再燃」しかねない。

 「再燃」と書いたのは、SBGが危機を迎えるのはこれが初めてではないからだ。というよりも、SBGが誕生してからの41年間は危機の連続だった。

 創業間もない頃、孫氏は重いB型肝炎を発症し入院生活を余儀なくされ、医師から余命宣告まで受けている。そのため孫氏は一時、社長の座を退かざるを得なかった。

 奇跡的な快復後、SBGは1994年にIPOをし、そこで得た資金をもとに、積極的にインターネット関連企業のM&Aを行った。その中には100億円で35%の株式を取得した米ヤフーも含まれていた。しかし2001年にITバブルが崩壊、20兆円を超えていた時価総額は10分の1以下に下落する。しかもこの頃、ADSL事業に進出、その初期投資により毎年1000億円単位の赤字を計上している。

 その後、ボーダフォンを買収して携帯電話事業に進出してからは安定的な利益を上げるようになる。しかし買収した米携帯キャリアのスプリントが赤字となり、さらには投資先のシェアオフィス大手のウィーワークが業績不振に陥ったことでSBGの経営を直撃、20年3月期には9615億円の最終赤字に転落した。

「第2のITバブル崩壊」も。明るい未来を信じ続ける孫正義だが‥

 しかしそのたびに孫氏およびSBGは復活してきた。B型肝炎は、当時発見されたばかりの「ステロイド離脱療法」により劇的に改善、ITバブル崩壊後の危機は米ヤフー株の売却でしのぎ、今般はアリババの含み益がSBGを支えている。このように、危機に陥っても孫氏にはなぜか神風が吹く。

 もっとも孫氏にしてみれば、B型肝炎は別にして、神風も想定の範囲内だろう。孫氏は、デジタル情報革命が今後も続くことを確信している。そのため一時的なアップダウンはあっても、ならしてみれば確実に成長していく。そして関連産業が成長すれば、ヤフーやアリババのような大化け企業が出てくるのは当然と考えている。

 その点は、今回の危機も同様だと孫氏は考えている。決算会見でも孫氏は「反省」を口にしながらも「今はやる気一杯で、志やビジョンは一切変わらない」と、明るい未来を信じ続けている。

 しかし、これまでうまくいったからといって、神風がいつも吹くとは限らない。米国のハイテク関連産業は過去数年にわたり年率20%ほどの成長率を誇ってきた。だがここに来て、GAFAMなどのIT大手でさえ成長率に陰りが見え、その中の1社、アマゾンが連続赤字を計上するなど、「第2のITバブル崩壊」といってもいいような状況だ。しかもその期間がどのくらい続くかもわからない。

 2001年のITバブル崩壊は2年で底を打ったが、今度は孫氏の発言にあるように3年続くかもしれず、その場合、回復にはさらに長い時間が必要だ。

 もうひとつ気になるのは「孫さんが積極的だった投資先が低迷している」(SBG関係者)点だ。例えば前述のウィーワークもその一つ。また、現在売却を検討している投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループもそうだった。一部報道によると売却額10億ドルで交渉しているというが、17年時の買収額は33億ドルだった。5年で価値は3分の1以下に下落した。このように最近の孫氏の投資案件には失敗も多い。

ウェブ2.0からウェブ3.0へ。ソフトバンクは生き残れるか?

 そんな中で、かつての米ヤフーやアリババのような存在になると、孫氏が期待するのが英国の半導体設計会社、アーム。SBGは同社を16年に3.2兆円で買収したが、上場すれば5兆円程度の時価総額になるとみられている。SBGは今年度中の上場を予定しているが、英国内では安全保障上国有化すべきとの意見もあり、上場には紆余曲折が予想される。

 さらには現在、ウェブ2.0からメタバースなどに代表されるウェブ3.0へのパラダイムシフトが起きつつある。パソコン時代のウエブ1.0がスマホ時代のウェブ2.0に移行した時には、米ヤフー、ネットスケープなど、ウェブ1.0時代のスター企業が姿を消した。今度も同様の興亡が繰り広げられる。

 その時、SBGの投資先はどうなるか。あらゆる状況に備えるには、投網を投げるような投資が必要だが、大幅赤字で守りに入ったSBGにはそれも難しい。となると孫氏の目利き力頼みになるが、これはある意味、丁半博打のようなものだ。

これまで幾多の試練を奇跡的とも言われる慧眼と手腕で乗り切ってきた孫氏。果たして今度の勝負にも勝つことができるのだろうか。

この記事の著者
関慎夫

1960年新潟県生まれ。横浜国立大学工学部情報工学科中退。流通専門誌を経て1988年(株)経営塾入社。2000年から延べ10年にわたり『月刊BOSS』編集長を務める。2016年に(株)経済界に転じ『経済界』編集局長に就任。電機、自動車、流通、IT業界などを中心に、これまで数百人以上の企業トップ、要人へのインタビュー実績を持つ。

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