YouTube盲信してレバナスに1200万突っ込んで1000万円失った30代会社員の末路

樋口正

レバナスと仮想通貨FXで、1年で1000万円失った

「何であの1200万円をレバナスに全部突っ込んでしまったのか。悔やんでも悔やみきれません」

 そう語るのは、中堅商社にお勤めのタケシさん(仮名、33歳)。2021年11月に販売開始直後の「楽天レバレッジNASDAQ-100」を1200万円分購入し、22年6月に半額以下になった段階で耐えきれず売却。その後も、失った貯蓄を取り戻すために仮想通貨FXでも奮闘した挙句、当初保有していた貯蓄1200万円は200万円程度まで減ってしまったという。

 「楽天レバレッジNASDAQ-100(愛称:レバナス)」は2021年11月17日に販売開始され、基準価額1万円からスタートしたものの、22年10月25日現在では4344円まで価格が落ち込んでしまっている。

 レバナスとは「レバレッジ」と「NASDAQ(ナスダック)100」とを組み合わせた俗称だ。「NASDAQ100」とは、米国のNASDAQ市場に上場する銘柄上位100社の株式(金融業を除く)で構成され、時価総額加重平均によって算出される株価指数のこと。レバナスはこの「NASDAQ100」の2倍の値動きを目指す投資信託で、レバレッジを効かせるために、少ない資金でもハイリターンを狙えるハイリスク・ハイリターンな金融商品である。

 さて、なぜタケシさんはレバナスに1200万円も突っ込んでしまったのか。そして、貯蓄が200万円まで減ってしまったのか。

とにかく労働が嫌い。無駄な残業もしたくない

「とにかく労働が大嫌いなんです。毎週日曜日の夜は死にたくなります。多かれ少なかれ、それはみんな一緒なんでしょうけれど、僕はその度合いが強いのかもしれません」

 タケシさんは「高学歴」と評価されることも多い都内私大文系卒で、新卒では日本人の誰もが知っているような大企業に入社したという。一見、順風満帆そうな人生に見える。

「とにかくコスパ志向なので、最少努力で最大の成果を得たいんですね。だからテニスサークルに入ってテキトーに大学生活を過ごして、周りが動き出した3年生の秋ごろから就活して。もちろん、大手狙いでした。なるべく働かずにそれなりのお金がもらえそうなインフラ系企業やメーカー系企業などを中心に受けてまわり、いくつか受かった企業の中から一番ホワイトそうな企業を選んで入社しました。周囲からは羨ましがられましたね」

 タケシさんのしゃべり口調は非常にハキハキとしていて、すごく優秀そうな印象を受ける。悪く言えば、「頭でっかちそう」と言ってもいいかもしれない。

「これで人生安泰だと思っていたら、大間違いでした。とにかく仕事がつまらなかったんです。コピーを取ったりExcelに入力したり、そういう全てがつまらない。あと一番嫌いなのが、残業ですね。日本企業って、やることがないのに上司が帰るまで帰っちゃいけない空気があるじゃないですか。あれがもう死ぬほど嫌いで。1社目は “ザ・日本企業” って感じの企業だったので、そういう無意味な残業文化がひどかったんですよ。それに耐えきれなくて、1年ほどして辞めてしまいました。で、次の会社は転職エージェントが『残業がない会社』と紹介した会社に転職してみたんですが、やっぱりそこにも残業文化があって。また嫌になって転職を繰り返して、今は4社目です。『無意味な残業は、多かれ少なかれ結局どの会社にもある』とようやく諦めがついた頃には、もう1社目の同期との給与差が200万円ほども開いていました。1社目は40代で年収1000万円はいく会社だったので、これからさらにその差が広がっていくと思うと、本当に憂鬱(ゆううつ)です」

 キャリア面では挫折も多いのかもしれないが、タケシさんは30代前半で貯蓄が1200万円もあったというのだから、計画性はあるのではないか。

「いえ、単に物欲がなかったので、普通に過ごしていたらそれくらい貯蓄できていたという話です。大学時代から住んでいる安アパートから引っ越すのが面倒なので、ずっとそこに住んでいて。スーパーとか惣菜屋さんも近くにあるし、とにかくお金がかからないんですよ。コスパ志向なので、面倒な趣味もやらないし。休みの日はYouTubeを見たりTwitterを見たりしてダラダラ過ごすだけなので。そんな風に過ごしていたら、自然と1200万円貯まってました」

なぜレバナスに1200万円も突っ込んでしまったのか

 そんな「コスパ志向」なタケシさんが、なぜレバナスに1200万円も突っ込もうと思うようになったのか。

「もういい加減に働きたくないなと思って。その頃、毎日のように上司から詰められて、精神的にキツい日々が続いていました。そんなときにふとYouTubeを見ると、FIREを達成した人が楽しそうに旅行する動画が流れていたんです。もう心底羨ましいなと思って。でも自分は労働には興味がないし、大したスキルもない。そんな僕がFIREを達成するには、『投資しかない』と思ったんです。それまで投資には一切興味がなかったのですが」

 YouTubeが主な情報源となっているタケシさんは、そう思い立ってから、ひたすら投資系YouTuberの動画を見漁ったという。

「暇さえあれば投資系YouTuberの動画を見るようになりました。そこで見つけたのが、レバナス一点張りで解説するYouTuberです。そのYouTuberはもともと、大手金融機関出身だということで、解説もすごくわかりやすく、そのためか登録者数も3万人ほどいました。『この人が言うなら』と、僕は夢を見てしまったんです。それで彼が勧めるままに、僕もレバナスに1200万円突っ込んでしまいました」

 しかしそのYouTuberの勧めとは裏腹に、レバナスの基準価額は購入してからずっと下がり続けた。そして今年6月、ついにタケシさんは根負けしてレバナスを全て売却してしまった。

「起死回生の策を」と思ってさらにハイリスクな投資手法に手を出す

 そこで終わっておけばよかったものを、タケシさんは「起死回生の策を」と思い、さらにハイリスクな投資手法にも手を出してしまう。

「僕にあるのは貯金だけだった。それが唯一誇れることだったのに、その尊厳のもとが失われた。それが許せなくて、『すぐに稼げる』とYouTuberが言っていた仮想通貨FXを始めました。もちろん、成功すればすぐに稼げるのですが、そこで一気に取り返そうと400万円ほど突っ込んだ挙句、ほぼ全額失ってしまいました。まだかろうじて200万円程度貯蓄が残っていることだけが救いです」

 仮想通貨FXとは、数ある仮想通貨同士の差額で損益を出す差金決済取引の一種である。仮想通貨の値動きが激しいこの時期だからこそ、利益も出せなくはない投資手法ではある。しかし、タケシさんのような投資初心者が手を出していいような手法ではない。

 インタビュー後、筆者はタケシさんが紹介してくれた2人のYouTuberの動画を見にいった。すると、YouTubeの概要欄には、証券会社や仮想通貨FX業者のリンクが貼られていた。こうしたYouTuberたちは、投資そのものではなく、投資初心者に証券会社や仮想通貨FXの口座開設をしてもらうことで、報酬を得ているのだろう。いわゆる、アフィリエイトだ。しゃべりも流暢で、確かに理知的に感じられなくもない。

 SNS全盛時代の今だからこそ、投資初心者をカモにして多額の利益を得ている投資系インフルエンサーに踊らされないよう、注意しすぎるくらいがちょうどよい。

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