牛肉が超高級食材に…商社マン告発! 中国に「買い負け」連発、鬼の円安で日本から食べ物が消える

ルポライター日野百草氏が送る、「”商社マンの激白”連載」。第1回は中国が日本向けだった食べ物を買い漁っていた現状をレポートします――。

第2回 弱すぎる日本…商社マンが告発する第二の敗戦。中国が世界の食品を買い漁る

日本の買い負けは悪化し続けている

2022年、日本では約1万品目以上の値上げが予定されている。長引くコロナ禍の自粛ムードとロシアによるウクライナ侵略により、日本の食料安全保障とそれを脅かす国際的な「買い負け」がいっそう悪化している。筆者は昨年からこの問題を各メディアで取り上げてきたが、すでに当時から、商社マンらを始めとする現場を知る者にとっては既知の事実であった。

「大げさではなく日本は買い負けています。日本のバイヤーの買い負けはこれから深刻になると思います」

食品専門商社の商社マンからこの話を聞いたのが2021年の秋ごろ、買い負けそのものは今に始まったわけではなく、水産物などを中心に10年前から買い負けは散見されてきた。とくに14億人の圧倒的な購買力と富を背景にした中国による、いわゆる国際的な「爆買い」の影響が続いていた。

「100円回転寿司も100円ショップも方針転換し始めています」

1970年代まで日本の食用魚介類の自給率は100%だった。現在も60%程度は維持しているのだが、もう100円というわけにもいかなくなってきた。実際、回転寿司チェーン大手は特別なキャンペーンを除けば多くのメニューを値上げ、寿司以外のサイドメニューでも利益率を上げようと苦心している。同じく石油製品、工賃の値上がりと中国を始めとするアジア地域の躍進により、いわゆる100円ショップの中には300円、500円の店舗に転換を図っているチェーンもある。

中国の“爆買い”は止まらない 

「食肉も深刻なままです。牛肉は報道されている以上に先行きが読めません。オーストラリア産が以前ほどは期待できなくなった分、昨年までアメリカ産牛肉はセーフガードを発動するほど輸入が好調だったのに、中国がこの日米ルートにも手を出して来ました。もちろん日本より高値で、条件もいい」

干ばつと森林火災の続くオーストラリアだったがコロナ禍も直撃、牛肉の出荷が立ち遅れたままのため、日本はその分をアメリカに求めたが、それも中国が手を出し始めた。

「かつて中国人はあまり牛肉を食べませんでしたが、経済発展と富裕層の増大で牛肉を求めるようになりました。焼肉ブームもそのひとつです」

中国の食肉は豚肉や鶏肉が中心だったが、高級品だった牛肉の国内需要が増すにつれて世界中から買い漁り始めた。日本の輸入牛肉の90%以上がアメリカ産とオーストラリア産、そのアメリカ産がセーフガードからわずか半年で買い負けることになった。

「それまで南米からの牛肉輸入が主流だった中国ですが、いよいよアメリカ産に手を出してきたか、という感じでしたね」

急激な牛肉の国内需要に対して中国はこれまで南米、とくにアルゼンチンの牛肉を買い求めてきた。日本では馴染みが薄く、北米産より質的には落ちるとされているが、アルゼンチンをはじめとする南米でも牛肉は生産されている。

「中国が大量に買い占めたせいで、アルゼンチン国内で消費する分が足りなくなってしまいました」

アルゼンチンで牛肉は主食であり、同国の食料安全保障を脅かしかねない。

「アルゼンチンは国内需要分のために輸出停止などの措置を図りましたが、国内より高値で買う中国に対して強く出られないのが実態です」

日本はもう中国に追いつけない

高く買ってくれるほうに売るのは当たり前の話だが、アルゼンチンのことを笑ってはいられない。日本もまた、アメリカ産牛肉に関して高く買ってくれる中国に買い負けている。シンプルな話で、中国を上回る値で買えばいいはずなのだが、それができないケースが現場で頻発している。またまたそれだけの話でもなく、中国は特定の部位以外も丸ごと買う。日本のように部位をより好みしたり切り分けろとは言わない。いらない皮の部分まで引っくるめて買い占める。

「それだけではありません。日本はコンテナ船も取り負けるケースが多くなりました」

日本の「買い負け」とともに聞かれるようになった船の「取り負け」、やはり中国が値を釣り上げるのか。

「いえ、運賃面もありますが航路の問題が大きいです。アメリカと中国の航路がドル箱路線なのでその航路ばかりで運んでしまうのです。人件費や燃料の高騰もありますし、日本に寄るくらいなら空荷で双方の国に戻ったほうが稼げるというわけです」

いわゆる抜港ということか。

「日本の荷主はいずれも金払いが渋いですからね。日本国内の卸価格を考えたら仕方ないですが、安く安くで逃げられはじめているのが現状です」

日本のロジスティクス軽視はいまに始まった話ではないが、いまだにその傾向は抜けきらない。軽視が問題とされながら宅配含め解決できない、日本特有の病なのかもしれない。

「米中対立は上辺だけの話で輸出入、とくに食料に関してはお互いさまでうまくやっていますからね、対立しているように見えてうまくやっている。その点に限れば日本は蚊帳の外です」

衰退途上国ニッポン。もう円安は止まらないのか

彼によれば、その原因こそ円安だと語る。

「通貨が弱いということは国家の弱さでもあります。資源のない日本は輸出に頼るしかありませんが、その輸出も原料や資材があってこその話で、それを輸入しなければ立ち行かない日本で円が安いということは致命的だと思います」

昨今聞かれる「悪い円安」論の是非はともかく、6月13日のニューヨーク外国為替市場では135円20銭をつけた。かつての「黒田ライン」と呼ばれた1ドル125円を割って久しいが、円安は日本の安さとイコールであり、いよいよ「チープジャパン」に至るのかもしれない。これが続けば、ますますの買い負けが続きかねない。トランプ政権時代の超積極財政とGAFAMによる世界的なIT覇権がアメリカを支え続けている。中国の超大国化はいまさら書くこともない、ただ日本だけが弱体化、安い日本のままで苦しんでいる。頼みの自動車すら半導体不足で生産が厳しくなって久しい。さらにやっかいなのが、かつてほどに日本製品が世界から求められない、安くもなく、ブランド力もないという「付加価値の低下」もまた「売り負け」につながっている。

「資源も食料も他国に頼る国が買い負けるのは国家的な危機だと思います」

日本は天然資源のほぼすべてを輸入に依存している。食料自給率も生産額ベースで67%、カロリーベースで37%(2020年度)、家畜の飼料も75%が輸入である。金があるからこそ成り立つ経済であり、金がなければ売ってもらえない。当たり前の話だがそれが買い負けを呼び、日本経済のみならず日本社会をボディーブローのように疲弊させる。折からの原油の高騰に至ってはロシアのウクライナ侵略もあってお手上げ状態だ。
 
日本は太平洋における巨大な米中両大国の枠組みにおいて蚊帳の外になりつつある。ロシアの蛮行は許しがたく、ウクライナ支持は人道的に尊い行為だが、ロシアに対する制裁はすべて正しいのか、日本国民の日常生活を守れなければ本末転倒である。

貿易もまた戦争、日本はその戦争に知らず知らずのうちに負け続けているのかもしれない。こうした現場の買い負けと円安が日本の物価を上昇させ、肝心の賃金は30年間上がらぬまま、国内回帰に向けた産業構造の大幅な転換と、安さばかりの国民意識の改革に取り組まなければ、買い負け続ける日本の中等国への転落が現実味を帯びる。

この記事の著者
日野百草

1972年、千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。国内外における社会問題、社会倫理のノンフィクションを中心に執筆。ロジスティクスや食料安全保障に関するルポルタージュ、コラムも手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。

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