日本経済が「これから勝手に復活する」ワケ…馬鹿マスコミの謎悲観論を完全論破! コロナで日本人が貯めた50兆円に使い道

 「インフレで生活が苦しくなっている」—。このようなニュースを目にする機会は多い。しかし、経済評論家の上念司氏は「日本はまだまだ『二度と物価目標を下回ることはない』と言える状況にはないにも関わらず、マスコミが『大変だ』と喧伝している」と話し、日銀の金融緩和政策の維持を訴える。コロナ禍における本当の日本の姿と日銀の取るべき施策について、上念氏が斬る――。全4回中の1回目。 

※本稿は上念司著『何をしなくとも勝手に復活する日本経済』(ビジネス社)から抜粋、編集したものです。 

日銀は金利を引き上げるべきではない 

 2022年の日本は、急激な円安に見舞われた。過去5年ほど1ドル=110円前後で安定していた為替レートが、3月には120円を突破。その後、円安傾向をさらに強め、7月にいったん落ち着くが、8月から再び急上昇を始め、10月には一時的に150円台を突破した。 

 原因としてもっぱら言われたのが、日米の金利差である。アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が、2020年3月から行ってきたゼロ金利政策を2022年3月に解除、それまで0〜0.25%だった政策金利の誘導目標を0.25〜0.5%に引き上げた。 

 5月にも0.5%の引き上げを実施、6月、7月、9月、11月にはそれぞれ0.75%の引き上げを行った。6度にわたる引き上げの結果、11月の誘導目標は3.75〜4%にまで上昇した。 

 一方の日本はゼロ金利・量的緩和政策を継続したため、日米の金利差は大きく広がる。日本で100万円預けても金利はゼロなのに、アメリカで預ければ1年で4万円の利息がつく。アメリカに預けたほうが得ということで、円売りドル買いの動きが急速に進んだ。その結果としての急激な円安というのが、マスコミなどで言われる理屈である。 

 そこから日本の一大事とばかり、メディアは「日本も金利を上げろ!」「金融を引き締めろ!」などと声高に叫んだが、これは間違いだ。理由は大きく2つある。1つはアメリカと日本では事情がまったく異なること。もう1つは、日本は変動相場制の国で、円安誘導を目的に金融引き締めをしてはならないからだ。 

 それぞれ説明しよう。アメリカの金利引き上げは、国内で急上昇するインフレ率を抑制するのが目的だ。アメリカの3月のCPI(消費者物価指数)は、前年同月比で8.5%の上昇だった。4月は8.3%、5月は8.6%、6月に至っては9.1%の上昇である。10%近いインフレは明らかに行き過ぎで、これを抑えるための金利の引き上げは必要だ。 

 一方の日本はどうか。9月の消費者物価指数は、価格変動の激しい生鮮食品を除くコアCPIが前年同月比3.0%だった。一般に望ましいとされるインフレ率は2〜4%なので一見、目標を達成しているが、コアCPIにはエネルギーも含まれる。 

 2022年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争以降、エネルギー価格は高騰している。このエネルギー価格を除いたコアコアCPIで見れば、インフレ率は2.8%(2022年11月末時点)であり、未だマイルドなインフレの水準である。 

 10月時点でもコアCPIが3.6%、コアコアCPIが2.5%で、いずれも目標をクリアしているが、まだ堅調と言うには早い。今後も二度と2%を下回らず、デフレの方向に向かわないと確信できるまで、金融緩和を続ける必要がある。 

 ここで野党やマスコミのプレッシャーに負けて、岸田文雄政権や日本銀行が金融引き締めを行えば、また物価目標を下回りかねない。そうなれば、日銀はまた金融緩和に復帰せざるを得なくなる。 

 つまり日本には、金利を引き上げる動機がない。むしろ引き上げてはならない段階にいる。インフレに苦しんでいるアメリカとは事情が異なり、アメリカはアメリカの実情に適った金融政策をやればいいし、日本は日本の実情に適った金融政策をやればいい。それだけのことだ。 

マスコミの“煽り”はもうたくさん 

 日銀は現在の物価高はエネルギーや穀物など国際商品市況の高騰によるところが大きいと見ている。現在、これらの価格は低下傾向にあり、2023年は物価に下押し圧力がかかる。そのため、消費者物価指数を見ると、日本はまだまだ物価目標を達成し、二度と目標を下回ることがないと言える状況にはない。にも関わらず「日本はインフレで大変になっている」と喧伝するマスコミは少なくない。 

 典型が『日本経済新聞』だ。たとえば2022年6月25日には「物価上昇、体感は2倍」という見出しで、いかに生活が苦しくなっているかを述べている。 

「消費者が体感するインフレが加速している。総務省が24日発表した5月の物価上昇率は前年同月比2.5%だった。資源高などで2カ月連続で2%を超えた。内訳を分析すると、よく買うものほど価格高騰が鮮明だ。ガソリンや食品など月1回以上は買う品目は上昇率が5.0%と全体の倍に達する。物価高は統計の見た目以上に家計の重荷となっている可能性がある」 

 当時の物価は加重平均で0.8%の上昇である。にも関わらず「体感は2倍」と煽っていた。そもそも「体感」とは気持ちの問題で、気持ちの問題なら何とでも言える。主観でいいなら〇倍の部分はどんな数値を代入してもいいわけで、そんなことを「日本のクオリティペーパー」と呼ばれる『日経新聞』の記者が書くのだから、呆れたものだ。 

 記事では具体例を挙げながら「これだけ物が値上がりしている」と強調している。「ガソリンや食品など月1回以上買う品目は上昇率が5.0%」もその1つだが、ここで指摘しているのは物価ではなく、個々の価格だ。一方の物価は、さまざまな物やサービスの加重平均値だ。個々の価格を例に「物価上昇」とするのは、用語の基本的な意味を取り違えているとしか言いようがない。 

 その個々の価格も、5月の消費者物価上昇率は電気代が18.6%、ガソリン代が13.1%とあるが、これらはロシア・ウクライナ戦争等に伴う原油高の影響である。食料品もタマネギが2.25倍、キャベツが40.6%上がったとあるが、これらも天候不順や輸送費の高騰による。いずれも日銀の利上げとは無関係で、利上げで解決する話ではない。 

 また記事では使用頻度の多いものの値上がりが大きいとして、食用油の36.2%が上昇したケースを挙げている。食用油の値段は、1000グラムで400円といったところだ。それが36%上がれば150円程度の値上がりになる。 

 食用油を毎日使う家庭は多いかもしれないが、4人家族で1日に何十グラムも使うものではない。1カ月で1本使いきらない家も多いはずで、それが150円上がったからといって、大騒ぎする問題なのか。 

 もちろん飲食店には厳しい話だが、家計を直撃するものではない。そうした事情を無視して、値上がり幅が大きいものだけを取り上げ、「大変だ!」と大騒ぎしているようにしか見えない。 

コロナ禍で50兆円貯めた日本人 

 今回の物価上昇を「岸田インフレ」と呼び、問題視する人たちもいるが、実態はそれほど悲観する状態ではない。7月6日に日銀の黒田東彦総裁が「家計の物価許容度も上がっている」と発言して物議を醸したが、これも間違いではない。 

 黒田総裁の発言は、東京大学大学院の渡辺努教授の研究に基づくものだ。渡辺教授は物価許容度について定点観測を行っていて、黒田総裁はそのデータを紹介したに過ぎない。ところがマスコミに「物価上昇なんて誰も受け入れていない!」と揚げ足を取られ、「不適切な発言だった」と謝罪することになった。 

 現実には、日本人は物価上昇を受け入れている。それを端的に示すのが、ここへ来て日本人の所得が増えていることだ。2022年10月から最低賃金が引き上げられ、この12月の冬のボーナスも、4年ぶりの増加となる企業が増えていた。 

 しかも日本人には、この2年で貯めた〝強制貯蓄〞(約50兆円)がある。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言で、飲食店をはじめ多くの店が閉まり、外食したくてもできない、買い物をしたくてもできない状態が続いた。外出自体を「するな」と言われ、遊びにも行けなかった。まして海外旅行などとんでもない話で、お金を使える機会は、せいぜい通販で買い物するぐらいだった。 

 おかげで日本人の個人金融資産は、2021年9月末の段階で1999兆8000億円となり、前年同期比で5.7%増と過去最大を記録した。それぐらい日本人は、使うお金を持っているのだ。

上念司著『何をしなくとも勝手に復活する日本経済』(ビジネス社)
この記事の著者
上念司

経済評論家。1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一教授に師事し、薫陶を受ける。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。

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