「どうして片方だけビデオ判定?」誤審、不可解な判定…日本人には理解できない「JUDO」への強烈違和感

 パリで開催されている夏季オリンピックの国内での経済効果は2500億円にものぼるとされる。今大会での日本選手団のメダルラッシュに喜びを爆発させている人は多いだろう。原則として4年に1度、アスリートたちの才能と努力がぶつかり合う「スポーツの祭典」は今も昔も興奮と感動を与える。だが、パリ五輪にどこかシラけムードが漂うのは不可解な判定が続出していることが理由だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「もう『アナログ五輪』は限界。時代と共に変わるべきだ」と指摘するーー。

目次

誤審、不可解な判定

 1896年にギリシャ・アテネで開催された第1回大会から約130年を経た今大会には、32競技・329種目に200近い国・地域から計1万1000人がエントリーした。日本は409人が参加し、20個の金メダル獲得を目標に掲げる。8月5日には体操男子種目別鉄棒で岡慎之助選手が金メダルに輝き、日本勢は3大会連続で二桁の金メダル数となった。

 過去最多27個の金メダルを獲得した3年前の東京五輪と比べれば寂しい点は否めない。ただ、日本選手団の活躍が続く中で何かシラけてしまうのはメダル獲得とは別の理由があるからだ。それは誤審であり、不可解な判定である。

片方はビデオ判定を実施して、もう片方はしない

 たとえば、柔道男子60キロ級の準々決勝で永山竜樹選手はフランシスコ・ガリゴス選手(スペイン)から絞め技をかけられ、失神した。主審は「待て」を宣告していたのだが、その後も数秒間にわたって絞められ続けた結果、「片手締め」による一本負けと判定された。鈴木桂治監督や永山選手らは抗議し、映像確認を求めたものの覆ることはなかった。ガリゴス選手は「待て」が聞こえなかったという。

 柔道男子90キロ級で初出場した村尾三四郎選手は決勝でラシャ・ベカウリ(ジョージア)と対戦した。村尾選手は積極的に技を仕掛け、内股が決まったかのように見えたものの「技あり」とは判断されなかった。逆にベカウリ選手の技はビデオ判定の末に2つ目の「技あり」と判定され、合わせ技一本で敗れた。

 銀メダルを獲得したとはいえ、村尾選手の内股にビデオ判定が適用されなかった理由は今も謎だ。ベカウリ選手は東京五輪金メダリストで世界ランク1位の強者だが、片方はビデオ判定を実施して、もう片方はしないというのは不可解でしかない。永山選手にしても「待て」の後に失神していたのならば無効のはずだ。

20年以上も前の「世紀の大誤審」から何も学んでいない

 驚かされるのは、ビデオ判定の有無が審判の判断に委ねられている点にある。激しい攻防が見られる柔道のような競技であっても、いまだ「アナログ」のままなのだ。思い出すのは、2000年のシドニー五輪で柔道男子100キロ超級の篠原信一選手が決勝で敗れた時のことだ。相手のダビド・ドイエ選手(フランス)にかけた「内股すかし」という返し技が見逃され、誤審によって敗北した。コーチたちは猛アピールしたものの、篠原選手は敗れて無念の銀メダルとなった。ビデオ判定は、この試合がきっかけとなって導入されたはずだ。

 20年以上も前の「世紀の大誤審」から五輪は何も学んでいないのか。ビデオ判定の重要性を日本人の多くは知っている。2022年のサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会1次リーグのことだ。日本はスペインを2-1で破り、決勝トーナメント進出を決めた。この時、MF三苫薫選手はゴールラインを割る寸前でパスを出し、それが逆転弾につながった。

 相手チームはアウトオブプレーと主張し、VAR(ビデオ・アシスタント・レシェリー)の判定を求めた。だが、その結果、三苫選手は白線上ギリギリでボールを折り返していたことが証明された。「三苫の1ミリ」によって強豪を撃破したのだ。

 人間は誰しも間違いがある。見ている位置や死角の有無によって判定が難しいものもあるだろう。ただ、スポーツの世界でルールを守る絶対的な存在の審判といえども、それは例外を意味しない。もし人間の目線だけに判断を委ねていれば、「三苫の1ミリ」は認められなかったのではないか。日本では2018年からプロ野球にビデオで検証するリクエスト制度が導入され、サッカーJリーグも2021年からVARを導入している。監督らの求めによって映像を確認し、公平・中立な判定につながるものだ。

 しかし、誤審に泣いた篠原選手の試合からビデオ判定が導入されることになったにもかかわらず、パリ五輪でも柔道は「アナログ」のままだ。穿った見方からもしれないが、ビデオ判定によって結果が覆ることを審判が恐れているようにも感じてしまう。

誤審があれば人生が大きく変わる

 これだけ世界でデジタル化が進み、AI(人工知能)による検知や判定が難しくない時代にいまだ審判の裁量が大きすぎるのは謎でしかない。なぜ本格導入しないのか理解に苦しむものだ。これは何も日本選手にとって有利・不利になるから言っているわけではない。

 先に触れたように、どの国・地域の選手であっても誤審があれば人生が大きく変わる。メダル獲得による表彰金はともかく、その色が何であるのかは市場の価値に重要な意味を持つのだ。少なくとも、判定が微妙のケースではリクエストがあればビデオ判定を実施すると決められないのだろうか。

 金メダル獲得が有力視されながら予想外の敗北を喫し、大号泣した柔道女子52キロ級の阿部詩選手は、2回戦で「技あり」と「指導」2つを奪いながらも、ディヨラ・ケルディヨロワ選手(ウズベキスタン代表)の捨て身技で逆転の一本負けとなった。ただ、この試合は相手の消極的な「かけ逃げ」が目立っており、もし「指導」の判定があれば阿部選手は勝っていた。

「ルーレット」登場にシラけ

 もちろん、勝負の世界で「たられば」を言っても仕方がない。ただ、この判定も審判の裁量に委ねられる部分が大きいのは事実だ。巧みな「かけ逃げ」を判断するのは容易ではないのかもしれないが、少なくともジャッジの数を増やすなど対応策はあるはずだ。日本とフランスが対戦した柔道混合団体の決勝で、6人を終えても決着がつかなかった場合の「ルーレット」登場にもシラけてしまった。

 デジタルによる抽選で無作為に選ばれた階級の代表戦が行われたが、本当に「ルーレット」が必要なのか。ルールを重んじるならば、事前に決着がつかなかった時は誰が試合すると決めておけば良いだけの話だろう。真剣勝負をしている時に変な演出は必要ないはずだ。そこをデジタル化するのではなく、あらゆるスポーツで審判や選手に過剰な負担をかけないためにも最新のテクノロジーを駆使することを切に願いたい。

「近代オリンピックの父」といわれるフランスのピエール・ド・クーベルタン男爵は、デザインした五輪のシンボルマークで5大陸とあらゆる人種・民族の友好を表した。男爵が唱えたオリンピックの精神は、スポーツを通して心身を向上させ、文化・国籍などの違いを乗り越え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって平和でより良い世界の実現に貢献することにある。

IOCは判定方法の見直しを

 最近はトランスジェンダーの選手にも注目が集まっているが、これまで時代の流れと共に変えてきたようにIOC(国際オリンピック委員会)は1度立ち止まって、開催地負担や競技のあり方、判定の方法などを見つめ直した方が良いのではないか。4年に1度だからこそ、より完成度の高い祭典を期待したい。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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