怖すぎ…斎藤知事「自分のために涙」本人が陥った四面楚歌「なぜそれでも辞めないのか」何より兵庫にとってマイナス
兵庫県の斎藤元彦知事がいよいよピンチだ。パワーハラスメント疑惑やおねだり体質などを県議会の調査特別委員会(百条委員会)で追及され、全議員が辞職を求める異常事態となっている。9月11日の定例記者会見では理解してもらえないことに対する悔し涙を流したが、県内外からその様子に「怖い」という声も寄せられる。そんな斎藤知事だが、いまだ続投する気は満々だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「少なくとも道義的責任や県政の停滞を招いた責任がある。もはや『裸の王様』状態の知事がイスにしがみつく理由がわからない」と指摘するーー。
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知事の頂き行為は多くの首長も似たり寄ったり
サイドテーブル、レゴブロック、靴、ネクタイ、浴衣、ユニフォーム、牡蠣、枝豆、カニ、タマネギ、ケーキ・・・。9月6日の百条委員会で、斎藤知事は数々の贈答品を受け取っていたことを委員から厳しく問われた。だが、斎藤知事は「いただいたことはある」「貸与していただいている」「知事応接室で使っている」などと表情を変えることなく答えた。
もちろん、斎藤知事に限らず自治体の長や幹部向けに贈答品を送る人・団体は少なくない。贈収賄などに抵触しない限り、儀礼上許容される範囲内で歴代知事にも贈られてきたことは想像につく。政府においても、首相がPRの一環で地方の特産品などを受け取るシーンはみられており、こうしたこと自体がダメだというつもりはない。多くの知事や市区町村長も似たり寄ったりなのではないか。
なぜコーヒーメーカーだけ返却指示?
百条委員会は斎藤氏が唯一、贈答品を拒んだものがあると指摘した。それは「家電製品」だ。委員は「なぜコーヒーメーカだけ返却の指示をしたのか」と突っ込んだ。これに対して、斎藤知事は「かなり人気の高いものだったので直感的に判断した。家電製品は高額。受け取るのが適切かどうか判断できなかったが、公務で使う他のモノは社会儀礼の範囲で対応ということがあるが、家電製品は少し違うのかなという感覚だった」と説明している。
斎藤氏なりに「高額すぎるもの」は受け取らないという“一線”があったようだ。先に触れたように、PRや社会儀礼の範囲で贈答品が贈られる自治体の長、政治家は多い。それ自体が悪いわけではない。もし、何かの法律に抵触するのであれば歴代の首相もすべて当てはまることになってしまう。斎藤氏は秘書室に届いた食べ物などを持ち帰っていたことについて「食べて欲しいといただいたものなので自分が食べる判断をした」「秘書課職員だけが差し入れられたものをいただくのはどうか」と淡々と答えている。
「どうなってもしゃあないな。それはかまへんな」
一方、百条委員会が追及する「パワハラ疑惑」の方は深刻だ。予算権や人事権を持つ県のトップが追及された9月6日の百条委員会には、斎藤氏の最側近だった片山安孝元副知事が出席し、「知事から(内部告発者を)徹底的に調べろと言われたので行為者を探さないといけないと思った」などと説明した。要は、斎藤知事が内部告発した県民局長と周辺を調査するよう指示していたのだ。ちなみに、片山氏は県の公益通報の担当だった。
トップがハラスメント行為を疑われ、公益通報の担当でもあるナンバー2が知事サイドに立って調査する。少なくとも今の時代に通用しないことをなぜ理解できなかったのか。しかも片山氏は3月22日に複数の職員の公用メールを調査した上で、県民局長だった内部告発者を厳しく問い詰めている。
「名前が出てきた者は一斉に嫌疑をかけて調べなければしゃあないからな。メールで名前が出てきた者は在職していることは忘れんとってくれよな」
「みんな嫌疑をかけるから、わしがチェックするわ。しゃあない。どうなってもしゃあないな。それはかまへんな」
人事権も時折ちなつかせながら迫る
片山氏は人事権も時折ちらつかせながら迫っている。「職員のメールからは『クーデターを起こす』『革命』などのくだりがあり、かなり不正な目的だと思った」と説明するが、一体どこの国の話なのかと疑ってしまう。人事課からは第三者機関で調査するよう進言もあったというが、知事サイドの意向で実施されなかったという。
3月27日には斎藤知事が内部告発の内容を「ウソ八百」と厳しく批判し、元県民局長は懲戒処分された後に命を絶っている。公益内部通報制度の趣旨を逸脱しているばかりか、自殺とみられる元局長を思えば、あまりに悲しい。だが、斎藤知事は一貫して辞任する気がないと主張する。「真摯に重く受けとめ、反省すべきところはしっかり反省しないといけない」と語る一方で、「進めるべき予算や事業は私に対する批判は受けとめつつも、県民の皆さんの暮らしや生活、防災対策を含めて必要なことはしっかりとやらせていただきたい」と繰り返すのだ。
斎藤氏が当選した2021年の知事選で、推薦した日本維新の会の吉村洋文共同代表(大阪府知事)からも「間違っているところは素直に認めて謝って、前に進めるなら辞職して県民の皆さんに問うべきじゃないか」と“退場勧告”されたものの、斎藤氏は「若い世代が元気な兵庫県をつくっていくため、予算に向けた議論を加速させるのが役割だ」などと真正面で受ける気はないようだ。
それは自身が理解されていないという「悔し涙」だった
とはいえ、維新が斎藤氏の辞職と出直し選挙を求める姿勢になったことで、県議会(定数86)は全会派・全議員が退陣を要求。最大会派の自民党県議団(37人)は早ければ9月定例会開会日の9月19日にも知事不信任決議案を提出する方向で入っている。知事選で支援した自民や維新だけでなく、他の会派や無所属議員も提出されれば同調するとみられる。
ただ、一貫して非を認めない斎藤氏は「激励の声かけ、頑張れと。いろんな声があると思うが、若いんだからしっかり頑張ってほしいという声が届いている」と続投に強い意欲を示す。9月11日の記者会見では涙を浮かべたものの、それは自身が理解されていないという「悔し涙」だった。
とはいえ、知事不信任決議が可決されれば辞職するか、議会を解散するかを迫られる。戦後、知事に対する不信任案の可決は4例あるが、いずれも辞職している。ヤケになって斎藤知事が議会解散を選択することもあり得ると伝えられるが、それを県議たちが恐れている場合ではないだろう。
そもそも、この組織は健全と言えるのか
たしかに知事の問題でなぜ県議が選挙をやらなければならないのかという問題はある。選挙で戦いたくない一部の県議は弱腰になりがちだ。だが、二元代表制の下で県政、県民に対する責任は県議たちにもあるのは言うまでもない。
来年度予算案の編成は年末年始にかけて佳境を迎える。県民生活に直結する予算案づくりを前に民意を問わなければ、県の予算と関連する兵庫県内の自治体も悪影響を受ける。斎藤知事は「進めるべき予算や事業はしっかりとやらせていただきたい」「予算に向けた議論を加速させるのが役割だ」と語っているが、それは県政が停滞する状況のままでは困難だろう。
そもそも内部告発をしたら組織の上司から追及され、徹底的な犯人探しや処分が行われる組織は健全と言えるのか。斎藤氏から元県民局長や遺族を思ったコメントが聞こえてこないのが不思議でならない。いくら自身が正しいと思っていたとしても、共に汗をかいたはずの部下や同僚らに対する言葉は最低限必要なのではないか。
メディアでは自民党総裁選ばかりが注目されているが、兵庫県知事の問題は根深いものがある。これまで斎藤氏は「民意」を背景に県政運営をしてきたはずだ。
何よりも兵庫県民にとってマイナスである
ならば、それを改めて問うことが不可欠だろう。これ以上の県政の停滞は、何よりも兵庫県民にとってマイナスであることを知事も県議も自覚すべきだ。
20年ぶりの新顔対決となった2021年7月の知事選で、元大阪府財政課長の斎藤氏は自民党や日本維新の会の推薦を受けて初当選を果たした。吉村洋文府知事や自民党の西村康稔経済再生相(当時)らが全力支援し、前副知事らを退けた。「新しい兵庫をつくる」と掲げた斎藤氏は神戸市出身の元総務官僚で、新潟県佐渡市や福島県飯舘村、宮城県にも出向した経験を持つ。維新にとっては「大阪以外で初の維新系知事」であり、その手腕に期待を集めていたはずだ。
投開票の結果、斎藤氏は約86万票を獲得し、次点に25万票以上の差をつけている。得票率は46.9%だ。たしかに斎藤氏は「民意」を背景に県政運営を担うことになったのだが、この時と今は決定的に状況が異なる。言うまでもなく、「パワハラ疑惑」「おねだり体質」を県民が想定していなかったからだ。