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「匿名の自由」に生きる東京と、「実名の安心」に縛られる沖縄のリアル…リベラルメディアが描く「基地と悲劇の島」という物語の虚構

 東京の知識人やリベラルメディアが描く沖縄は、しばしば「基地問題」や「悲劇の島」、あるいは「のんびりとした楽園」といった単線の物語に回収されがちだ。しかし、現地で暮らす生活者が日々向き合っている情報の粒度は、そうした外部の言説とは全く異なる。伝統的な相互扶助システム「模合(もあい)」や車社会の生活様式は、この土地に実名制SNSや音声メディアの強力な定着をもたらしている。それは単なる文化論ではなく、素朴な生活の形に深く根ざしたインフラだ。元『プレジデント』編集長で作家の小倉健一氏が、大都市の感覚では決して捉えられない“沖縄のリアル”を浮き彫りにする。

 みんかぶプレミアム連載「小倉健一の新保守宣言」

目次

東京とは決定的に異なる、沖縄の「情報との距離感」

 沖縄の街を車で走っていると、ふと気づくことがある。

 ラジオから流れる声が、知り合いの噂話のような距離感で耳に届く。番組のパーソナリティは町の名物おじさんのように振る舞い、リスナーから届く便りも顔の見える文面で組み立てられる。東京で暮らす人間にはなじみの薄い空気感だろう。

 通勤時間が短い住民が多い。東京のように、満員電車に押し込まれて、手の中のスマホ画面を黙ってスクロールする生活と、ハンドルを握って音声を浴び続ける生活では、情報との距離感がまるで違ってくる。沖縄でラジオが強い理由は、文化論というよりも、もっと素朴な生活の形に根ざしているのだろう。

 東京の知識人や全国紙の論調を眺めていると、沖縄の世論は基地問題を軸にした単線の物語で語られがちだ。リベラル系メディアは、住民の声を抽出するときに、自社の編集方針に沿った人物のコメントを拾い、それを「島の良心」として全国へ流す。半世紀以上続く構図でもある。だが、土地に住む生活者が日々向き合っている情報源は、必ずしも全国紙の社説でもなければ、首都圏発の論客のコラムでもない。

 私が興味を引かれたのは、Facebookの使われ方だ。全国的には熱量が下がっている実名制サービスが、沖縄では極端な強度で生き残っている。利用者の半数を超える人々が、過剰なのめり込み状態にあるという調査もある。具体的には53.7%。全国平均より約20ポイント高い数値で、地方別では文句なしの1位だ。

「匿名の自由」を求める東京と、「実名の安心」を選ぶ沖縄

 なぜ実名制が踏ん張れるのだろうか。理由を探っていくと、模合(もあい)という古い相互扶助の集まりに行き着く。月に一度集まってお金を出し合い、酒を酌み交わして雑談する。職場、同級生、近所、趣味、いくつもの輪に同時に所属し、断れない約束が積み重なる。模合の幹事になれば、出欠の連絡や日取りの調整に追われる。Facebookは、入り組んだ人間関係を見える形に整える台帳のような役割を担っているのだろうか。村の回覧板が、スマホ画面の上で成立している。

 東京で生きる若い世代は、匿名性の高い空間にこそ自由を見出す。XやInstagramで、しがらみを切った発信を楽しむ。沖縄の30代以上の男性は、逆を行く。実名と顔写真をさらしながら、職場の上司にも従兄弟にも見られる前提で投稿を組み立てる。窮屈に見えるかもしれないが、生活の土台になっている安心感のほうが大きい。地縁が薄い大都市の感覚で読み解こうとすると、構造を見誤る。

 リベラルメディアが好む論調には、しばしば「沖縄の声」という単数形が顔を出す。実情を眺めれば、声は無数の小さなコミュニティに分散し、模合の席で、ラジオの投稿欄で、Facebookの限定公開の文面で、ばらばらに流通している。中央のスタジオでまとめあげた物語に収まる単純さは持ち合わせていない。書き手としては、東京の編集会議で組み立てられる沖縄像を、もう少し疑ってかかってよいと思う。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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