「モスク建設反対」に3万人超が署名……日本人は外国人と共生できないのか
日本中で外国人の姿が目立つようになっている中で、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は「外国人問題に対する規制の動きは加速しているが、特に不動産について規制強化の動きが活発になっている」と話す。行政が外国人不動産対策に踏み込み始めた背景と、日本人が在留外国人に対して抱く思いについて、牧野氏が解説する。全3回中の2回目。
※本稿は牧野知弘著『「外国人不動産」問題』(祥伝社新書)から抜粋、再構成したものです。
目次
行政が「外国人不動産対策」に踏み込み始めた
2026年2月に行われた衆議院議員選挙では、各党の政策要綱に判で押したように外国人対策が並びました。
とりわけ外国人による不動産の取得について規制するとした党が大半を占め、有権者の関心を引こうとする動きには顕著なものがありました。こうした背景には何があるのでしょうか。
2月の総選挙において神奈川12区(藤沢市、寒川町)に立候補した東京都武蔵野市在住のユーチューバー、保守系無所属の菊竹進氏は、自身の選挙ポスターに「藤沢モスク反対、移民ストップ」と大書し、話題になりました。
この問題は、神奈川県藤沢市宮原にイスラム教の礼拝施設であるモスクの建設が計画され、市から開発の許可が下りたことに起因します。開発主体は一般社団法人FUJISAWA MASJID、モスクの運営をイスラム教系の宗教法人ダル・ウッサラーム(群馬県伊勢崎市)が行うものです。
この情報が公になると、SNSを中心にさまざまな臆測が飛び交うようになります。
「イスラム教ではレイプは合法」「モスクができれば犯罪が多発する」「モスク周辺の土地が買い占められている」などといったデマが拡散します。オンライン署名サイトには3万3000人の反対署名が集まり、2025年12月に開催された藤沢市議会にモスク建設にかかわる請願・陳情が40件以上寄せられました。
内容としては、建設中止を筆頭に交通渋滞、騒音などを不安視するもの、住民説明会の開催を求めるもの、そして土葬禁止の条例制定を求めるものまでありました。
イスラム教では土葬が一般的であるため、モスク建設にともなって土葬墓地が建設されるとの噂が広まったわけですが、日本では土葬自体を禁止しているわけではなく、自治体によって規制対象としている場合がある程度です。
また、イスラム式の葬儀では遺体をシャワーで清めるため、その排水が衛生上問題だとの指摘もなされ、コロナのような伝染病が蔓延するといった、やや常軌を逸した内容のものまで拡散するに至りました。
藤沢市議会では、こうした請願については外国人差別、信仰の自由の観点などの理由からすべてが否決されましたが、納得できない市民も多くいたようです。
アジア系、イスラム系の外国人に敵意を持つ日本人
自分たちとは異なる生活習慣を持つ外国人の受け入れに畏怖を感じる日本人の姿が如実に映し出された騒動と言えますが、特にこれに不動産が絡んでくると反感や不安を抱く人が多くなるようです。
訪日外国人は年間で4000万人を超え、増え続けています。オーバーツーリズムなどの懸念が指摘され、各地で外国人の立ち居ふるまいやマナーに関して不快を表明する声が喧しいですが、彼らは所詮、旅人です。また、旅行する先々でお金を落としていくありがたい存在でもあります。
それに引き換え、わが街にやってきて「勝手に」住んでしまう外国人の存在に違和感を覚えることも、ある程度は理解できます。ましてや、自分たちが良く知らない宗教施設が構えられ、そこに多くの外国人が集まってくることに耐えられないと思うのも自然な感情でしょう。
外国人との「共生」という考えは言葉として理解しても、実際に彼らと言葉は通じない。生活習慣は異なる。そうした人たちに対して、何となくこちらが遠慮しているような気持ちになる。
この感情の裏側には、日本人のほうが国内では当然「上」の存在であって、彼らを住まわせるかどうかを決めるのは自分たちであるとの意識が根底にあります。そして、相手が中国人などのアジア系や宗教色の強いイスラム系の人々に対しては敵意を剝き出しにする傾向があります。
もし、この施設が欧米人の施設であったなら、たとえそれが宗教施設であったとしても、これほどまでの反感を抱かれなかったかもしれません。とりわけ中国人に対しては自分たちのほうが「上」であると強調するのは、最近の中国の経済的な躍進ぶりをすこし妬んだ感情も影響しているのかもしれませんし、イスラムに対しては何も知らないがゆえの気持ちの悪さが作用しているようにも思われます。
政府は2026年1月に、公営住宅やUR賃貸住宅への新規入居者について、国籍の把握を進める方針を打ち出しました。全国の自治体に対して、入居者の国籍情報を確認する実態調査を実施して、状況に応じて住民票や在留カードなどで国籍を確認するよう求める通知を出す予定です。
また政府は、外国法人を含む外国人による大規模土地取得の実態把握のため、土地取引時の国籍届け出義務化を進めています。特定規模以上の土地を取得する場合、取得者の国籍を自治体へ届け出る制度を国土利用計画法の枠内で義務づけ、情報を国に集約する仕組みを2026年4月より実施しています。
この制度により誰がどの国の資本で土地を取得しているかを把握し、安全保障や水源地・森林保全などへの対応を強化しています。
100年前には存在した外国人への不動産取得規制
外国人であっても日本の土地をほぼ自由に取得できるのに対して、私たち日本人が外国の土地を購入しようとすると、多くの国で土地所有が認められない、あるいは取得にあたって一定の制限があることは、先述してきました。
外国人による日本の不動産取得に規制をすべき、という意見のなかには、「彼らは自由に買うことができるのに、相手国の不動産を自分たち日本人が買えないのはおかしいではないか」という声があります。
これは相互主義という考え方で、相手がそうなら自分たちもそうしてやる。つまり互いに相手方と同じ条件でつきあいましょうというものです。実は、この相互主義の概念にもとづいた外国人土地取得に対する規制法が、かつての日本には存在していました。今から100年前の1925(大正14)年に制定された外国人土地法がそれです。
この法律を読むと、第1条で日本人が土地を取得できない国の人に対しては、日本国内の土地を取得させない旨が明記されています。非常に単純明快な論理です。そして第4条においては、安全保障にかかわる不動産について国防上重要な土地については外国のどこの人であっても取得を禁じることとされています。
何ということはありません。100年も前に、この問題については相互主義の概念を引用し、「お互いさま」という立場を明確に表出していたのでした。
この法律、現代でも廃止されずに生き残っているものの、第1条については一度も勅令、政令になって公布されておらず、言わば死文化しています。
また、第4条については1926年に外国人土地法施行令が公布され、国防にかかわる重要土地の取引については陸軍大臣、海軍大臣の許可が必要とされました。具体的には伊豆七島、小笠原諸島、対馬、沖縄諸島、南樺太、千島列島の島々が対象とされ、横須賀、舞鶴、呉、佐世保などの帝国海軍鎮守府所在地に関してもその対象とされました。
ただ、戦争が終わった1945年にこの施行令は廃止されます。また、この法律を引っ張り出すにあたっては、現在の日本国憲法が邪魔になるという説があります。憲法では、外国人であっても基本的人権の一部である財産権を有するとされており、国籍を理由とした財産権に対する制限は、憲法に謳われる平等原則に反する可能性があるとの指摘です。
しかしいっぽうで、日本国民が不動産を自由に取得できない相手国民が日本の不動産を自由に取得し、私権が強固に守られてしまうのは、日本国民の権利に対する侵害、あるいは差別にあたるのではないか、との解釈も成り立ちます。
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