「クビだ」と言えない時代に、僕はあの若者と向き合えなかった…街録ch三谷三四郎が河合優実主演の怪作に突きつけられた、悪気なく人を傷つける若者の正体
地上波からNetflix、さらにはAbema、U-NEXTまで――。コンテンツが乱立する今、人を真に熱狂させるのは「面白い」の先にある「ヤバい」番組だ。1000人以上の剥き出しの人生を記録し続けてきた『街録ch』ディレクター・三谷三四郎が、エッジの効いた一作を独自のバイアスで読み解く。
連載「今、ヤバい番組」第11回は、2024年公開の映画『ナミビアの砂漠』。仕事も恋人も何も大事にせず、大事にしないから衝突し、ずっと不機嫌――。そんな「掴みどころのない若者」に、あなたはどんな言葉をかけるだろうか。1000人以上の人生を記録してきた『街録ch』ディレクター・三谷三四郎ですら、部下だったその手の若者を前に、最後まで正解がわからなかった。
目次
「パワハラ・セクハラ」と言われないことだけを考えていた
今回取り上げるのは、映画『ナミビアの砂漠』。
2024年の作品で、新進気鋭の女優・河合優実が、何事にも情熱を持てない21歳の主人公カナを演じている。脱毛クリニックのバイトをしながらプライベートでは2人の男を股にかけ、何の目標もなく、うっすら憂鬱な現代の若者の日常を描いた怪作だ。
この映画は、今年入ってきたスタッフの「にへー」(26歳・映画監督志望)から教えてもらった。「オススメの映画ない?」と尋ねたら、この『ナミビアの砂漠』を教えてくれた。「やっと、自分たちの世代の話の映画が出てきたなと思いました」という独特な推薦文句と、河合優実が主役ということで見てみることにした。
この映画を見た僕の感想は、「おれ、この主人公と働いたことある!」。
主人公のカナが無気力に、悪気なく人に迷惑をかけていく様子。仕事も恋人もプライベートも何も大事にせず、大事にしないからこそ衝突し、ずっとうっすら不機嫌でいる。彼氏のタトゥー彫りに付き合ったついでに自分も鼻ピアスを開け、その尖った見た目のまま彼氏の親に会うものの、至って地味で物静かな女の子として振る舞う。
この絶妙に掴みどころのない、不機嫌さを抱える若者と、自分は上司として向き合ったことがある。この不機嫌な若者に対して、自分は現代的な対応を心がけ、パワハラやセクハラと言われないことだけを最優先に接していた。
昔の職場であれば、当日欠勤や遅刻、締め切りの遅延など、一度でもあれば「即クビだ」と恫喝されていただろう。しかし、今はそんなことをしてはいけない世の中だ。それを言い訳にして、自分なりに努力はしていたつもりだったが、本当の意味で正面から向き合うことを避け、最終的にはその若者に退職してもらう結果になった。
この主人公カナのように、プライベートも仕事もぐちゃぐちゃで、何も大事にしないようにみえる若者にどう接していいのか、どんな言葉をかければ前向きになってもらえるのかが、最後までわからなかった。
悪気なく罪を犯す若者を、この映画は捉えている
少し話は飛躍してしまうが、この映画を見ながら思い出したのが、闇バイトをする若者の特徴だ。ヤンキーからヤクザになり犯罪を犯すという、昭和・平成のようなルートではなく、何の悪さもしてこなかった補導歴のない人間が突如、ネットで見つけた求人を入り口に、闇バイトで初めて犯罪に加担し逮捕されるというケースが多いそうだ。