キオクシア株はなぜ急騰し、急落したのか。「上がるから買う」が生んだ危うい半導体相場
AI需要を追い風に急騰した後、激しい下落に見舞われたキオクシアホールディングスの株価。事業環境は良好であるにもかかわらず、なぜ株価はこれほど大きく揺れたのか。証券会社、ファンド、国際機関での勤務経験を持つCFA協会認定証券アナリストで、Xやnoteでも金融市場に関する情報・分析を発信している古賀興司氏によると、この背景には、企業の業績や将来性だけでは説明できない「上がるほど買いが増え、下がるほど売りが増える」構造があるという。キオクシア株の急騰と急落、そして、AI・半導体株への投資について考える。
みんかぶプレミアム特集「AIバブル この狂乱の勝者は誰だ」第1回。
足元のファンダメンタルズは強い
キオクシア株をはじめとする半導体株の急騰と急落を考えるうえで、まず押さえておきたいのは、足元のAI・データセンター需要やメモリーの需給環境は非常に強いということです。そして、そこに「買い遅れまい」とする流れがあり、株価の急騰を招きました。
今回の株価上昇は、まったく根拠のない期待から始まったわけではありません。AI向けデータセンターの建設、メモリーやストレージへの需要、メモリー価格の上昇など、事業環境の改善が株価上昇の土台にありました。
AI設備投資について、「本当に需要があるのか」「期待だけで投資が先行しているのではないか」といった声も聞こえてきます。ですが、私は、現時点では実際の需要に対応する投資が相当程度含まれている可能性が高い、と考えています。
アメリカの巨大IT企業、いわゆるハイパースケーラーの決算を見ると、バックログ(受注残高)は大きく積み上がっています。すべてがAI関連ではありませんが、参考としてハイパースケーラーのバックログをすべて合わせると、2兆ドルほどに上ります。日本円にして320兆円もの、巨額の受注残高です。
ハイパースケーラーのCEOらも、「需要が大きすぎて供給が追いつかない」という説明を一貫して続けています。台湾や韓国の半導体輸出も、前年比50%超のペースで増加した月がありました。
これらを踏まえると、現在の設備投資は、工場やデータセンターを建ててから需要を探すものではなく、すでに大きな需要が見えており、それを取り逃さないために投資を急いでいる側面が強いと言えます。
今後はAI投資の費用対効果が問われる
ただし、企業の将来性が高いことと、今後も同じペースで投資が続くかどうか、そしてAIを導入する企業が利用コストを上回る利益や生産性向上を実現できるかどうかは別問題です。
これまで多くの企業にとって、AIへの支出は“実証実験のための費用”でした。実験段階であれば、多少費用がかかっても、会社全体を揺らがすほどの負担にはなりません。
ところが最近は、企業からAIの利用コストに関する発言が増えています。これは、コストが経営上の論点になるほど、実際の業務への導入が進んできたとも考えられます。これからは、費用対効果が厳しく問われるようになることが容易に推測されます。
今後問われるのは、AIの利用量が増えているかだけではありません。AIを導入した企業が、その利用料金を上回る売上増加、コスト削減、生産性向上を実現できるかどうかです。
AIが社会全体の生産性を高めるのであれば、その恩恵は半導体メーカーだけにとどまらないはずです。AIを使う企業の売上や利益にも、効果が表れてこなければなりません。
AIを利用した結果、企業の利益や生産性が本当に高まるのであれば、設備投資にはリターンが生まれ、設備投資も続くでしょう。反対に、投資額に見合う効果が確認できなければ、設備投資はいずれ減速します。
現在の株式市場では、AIの恩恵が半導体株に代表されるインフラ企業に集中しています。今後、AIの恩恵が利用企業へと広がるのか。それとも、投資に見合う利益が出ず、半導体への需要も鈍化するのか。ここがAI設備投資の持続性を判断する重要なポイントになります。