2年強で+50%リターンの衝撃ファンド!地味に勝ち続けるファンドの名前「AI×人間が令和最強」
2025年、米国の大型株アクティブファンドの約8割がS&P500に敗北した。「プロの目利きが企業を選べば勝てる」という前提が崩れる中、新しいAI運用が着実な実績を上げている。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するのは、市場全体とほぼ同じ値動きを保ちながら年1%程度の上乗せを狙うピクテのAI戦略だ。感情に左右されず数千社のデータを同一基準で処理するシステムは、インデックスと従来型アクティブの間に生まれた「第3の選択肢」の強さを物語っている。
みんかぶプレミアム連載「AI投資最前線 ハイテク投資の波に乗る」
「勝つのは人間の判断」という運用の常識を揺るがすAI戦略の衝撃
投資の世界では、長い間「最後に勝つのは人間の判断だ」と考えられてきた。決算書を読み、経営者と会い、景気を読み、数字の裏側にある物語を考える。優秀なファンドマネジャーとは、他人が見落とした銘柄を見つける人だった。その常識を、かなり危うくする運用が出てきた。スイスの運用会社ピクテ(Pictet Asset Management)が手がける「Pictet Quest AI-Driven Global Equities」である。2024年3月に始まったこの戦略は、世界の主要企業で構成するMSCI Worldという株価指数を基準にしながら、AIで銘柄を選び、その指数を少しずつ上回ることを狙っている。
ここで大事なのは、「AIで次の10倍株を当てる」という話ではないことだ。むしろ逆である。ピクテは市場全体から大きく外れる賭けをしない。市場が10%上がれば、このファンドもだいたい同じ程度上がる。市場が10%下がれば、同じように下がる。その上で、持つ銘柄を少しずつ変え、全体では市場平均より年1~1.5%高い成績を狙う。専門用語では、この市場との連動の強さを「ベータ」と呼ぶ。ピクテがベータ1.0を基本にしているというのは、簡単に言えば「市場とほぼ同じ大きさの値動きをする」という意味である。
もう一つ、「トラッキングエラー」という言葉が出てくる。これは基準となる指数から、どのくらい違った値動きをするかを示す数字である。ピクテはこれを最大2%程度に抑える設計にしている。つまり、MSCI Worldから遠く離れて大勝負をするファンドではない。市場とほぼ一緒に走りながら、少しだけ前に出ようとする運用なのである。この地味さが、むしろ面白い。
「好成績だから」ではない ピクテのAI運用が市場平均との「差の理由」を見せる意味
2026年5月末までの設定来リターンは50.0%だった。同じ期間のMSCI Worldは45.9%である。差は4.1ポイントで、年率に直すと約1.9%の上乗せになる。運用資産も30億ドルを超えた。ごく小さな資金を使った研究室の実験ではない。巨額の資金を実際に動かしながら、市場平均を上回った。
2年強の成績だけで「AIは永遠に市場に勝つ」と決めつけることはできない。投資の世界では、数年間うまくいった方法が突然通用しなくなることもある。それでも、このピクテの運用は軽く扱えない。理由は、単に成績が良かったからではない。どうやってその差を作ったのかが見えるからである。
ピクテのAIは、企業の業績、株価、アナリストの予想、市場でどれくらい売買されているか、空売りの動き、過去の値動きなど、大量の情報を処理する。その上で「この会社の株は、他の会社より上がりやすい」「この会社は少し弱い」と順位をつける。その判断をもとに、どの株をどれだけ持つかまで計算する。売買にかかる費用や、特定の業種に偏りすぎる危険も同時に考える。
人間の限界は100社程度…数千社のデータを毎日リアルタイム比較する圧倒的処理量の差
一つ一つの仕事は、人間のファンドマネジャーも昔からやってきた。違うのは量である。100社の決算を丁寧に読むだけでも大変だ。1000社、2000社になれば、人間の手には余る。さらに株価、業績予想、売買の動き、過去の値動きを毎日比べ、その組み合わせまで追うとなれば、もう人間の頭で処理できる量ではない。
しかも、人間は情報処理の量だけでAIに負けるわけではない。昨日買った株に愛着を持つ。損失を認めたくなくなる。自分の予想が外れたとは認めにくい。最近うまくいった方法を、これからも通用すると考える。自分の考えに合う情報ばかりを集める。こうした癖は個人投資家だけではない。プロにもある。
市場は、人間が考え終わるまで待ってくれない。決算、金利、為替、株価は同時に動く。人間が1社について考えている間にも、世界中の企業から新しい数字が出てくる。ここまで来ると、投資判断を人間が全部やること自体が弱点になってくる。AIの強さは、未来を魔法のように当てることではない。疲れず、大量の情報を読み、昨日の判断に未練を持たず、毎回同じ基準で処理できることである。投資では、この地味な力が大きい。