自分の人生を子に託す“リベンジ型子育て”の末路…家族崩壊「子どもをモノとしか見れない」親と「死体が診れない」不登校医学生

 自分が達成できなかったことを子どもに叶えてもらおうと躍起になる“リベンジ型子育て”。精神科医で「子育て科学アクシス」代表の成田奈緒子氏は、このような子育てを最も危惧しているという。自分の想いを子どもに託したとき、どのようなことが起こってしまうのか。実例をもとに、成田氏が語る――。全5回中の4回目。 

※本稿は成田奈緒子著『高学歴親という病』(講談社)から抜粋、編集したものです。 

第1回:ここまできたZ世代親の過干渉「エントリーシート代筆」「大学の履修登録」…人生を狂わせられる子と”混乱する”高学歴親
第2回:「学歴が低い人は不幸」「こんな子生まれるなら結婚しなかった」過剰すぎる教育熱…高学歴親の悲しい末路
第3回:プライドも異様に高い”高学歴親”の共通点…子どもは摂食障害や不眠症でも周囲のアドバイスを聞けない、自分を曲げない

かつての神童は住所不明になった

 子育てを、自分の人生に対するリベンジのようにとらえている人もいます。自分より良い学歴、良い人生をと願うあまりに干渉・矛盾・溺愛を続けます。親が子どもの人生を自分の生きがいにしてしまう。要するに依存するのです。これは、私が一番なってほしくないパターンです。 

 リベンジしたい親は子育てを焦るため、小さいころから塾に行かせるといった早期教育に走る傾向があります。最終ゴールとして「一流大学合格」を掲げ、子どものほうも頑張ってついてきて目標を達成した。 

 その直後に意欲がガクンと落ちて大学に行けなくなる。もしくは卒業後に崩れてしまう。わが子が成人してから子育てのまずさにハッと気づく――こうなってしまう親御さんは少なくありません。 

 アイコさんは、娘が3歳のときから体操教室に通わせていました。小学校に上がると、1週間休みなく体操をやらせ、英会話、ピアノと、週に9コマも習い事をさせていました。その効果なのか、体操に限らずスポーツは何でもできました。学業成績もトップクラス。よくいわれる「神童」です。 

「器械体操でオリンピックに出る」 

 そんな目標を掲げていました。中高一貫校受験も希望校に難なく合格。その時点で、アイコさんの目標は「器械体操でオリンピックを目指しながら国立大学医学部合格」と、さらに具体的になりました。父親が医師でした。 

 ところが、神童のパワーは子ども時代限定になりがちです。高等部に進み学力別になるクラス分けで、下のほうのクラスに入れられました。そのころから体操も振るわなくなりました。目に見える結果にしか注目しないアイコさんと娘の関係性は、当然ながら険悪になります。 

 その結果、娘は体操もやめ過食と非行に走り、不登校に。家出も繰り返すようになりました。自分では手が付けられないと感じたアイコさんによって、遠方に住むアイコさんの母、つまり祖母宅に預けられました。 

 高校に通えなくなった娘は通信制に転校しました。その後は母と祖母の選んだPT(理学療法士)養成学科に入学するも半年で退学。男性と同居しているらしいが、住所は決して教えてくれないとのことです。 

 現在はアイコさんの家族はバラバラになりました。アイコさんと父親は家を出てしまっていて自宅は廃墟同然です。子どもが成人してから子育てのまずさが表面化し、家族全体の問題になってしまう典型的なケースでした。 

 アイコさんは、実は大学受験で医学部を目指していました。でも、夢は叶いませんでした。このときの挫折感がトラウマになっていたようです。有名女子大のほかの学部に入り、卒業して間もなく医師の夫と結婚しました。 

 医師の家庭では、その子どもはすべからく医師になるべしと思われている節があります。医師の夫と結婚したアイコさんは、わが子を医師にすることでトラウマを解消しようとしたのかもしれません。まさしくリベンジ型の子育てでした。 

「親の身代わりにされている」と気づいた子どもが抱く憎悪

 もう一組の母子は弁護士を目指していました。父母ともに東大法学部卒で父は現役の弁護士です。息子は小学生の頃から夜中まで自主的に勉強。高校時は留学し英語力も伸ばしました。本来なら留学すると1学年遅れるのですが、猛勉強して単位を取得し留年せずに卒業しました。 

 東大法学部を目指したけれど、試験の点数が少しだけ足らず他大学へ行きましたが、在学中の司法試験合格を目指して予備校でまたも猛勉強を始めました。 

 その矢先、息子さんは一切の連絡を絶ちました。3年生の夏でした。卒業して就職はしましたが、一般企業です。弁護士にはなりませんでした。猛勉強を繰り返した果てに燃え尽きたのです。 

 母親は司法試験をあきらめた息子を受け入れられなかったのでしょう。家から追い出したようでした。小さいころは息子を溺愛していました。高校まで朝晩母親に送り迎えをしてもらって、息子も友人と遊ぶことがありませんでした。まさに共依存の関係性です。 

 ところが、子どものほうが「自分は親の身代わりにされている」と親のリベンジ教育に気づくと、それまで「ママのおかげ」と感謝の念しかなかったのに、突如として落胆や憎悪といった負の感情に包まれたようでした。 

 親のほうも変貌します。結果が出ない子どもをアッサリ見捨てました。見捨てるなんて冷たい言い方かもしれませんが、リベンジ型の親は子どもに対し条件付きの愛情を注ぎがちです。子どもは自分の所有物。物(モノ)だから「いらない」と判断したら捨てていい。そんなふうに感じているかのようでした。 

 その姿は、子を見捨てることで自分を保とうとしているようにも映ります。間違った子育てをしてしまったことを認められません。自分の失敗と向き合うのが苦しいから、必死で自分の「善」を護ろうとする。これも高学歴親にありがちなトラウマと言えるでしょう。 

 もちろん全員がそうではありません。うまく折り合いをつけている家庭もあるでしょう。一時期ぎくしゃくしても、努力して親子関係を再構築する人たちもいます。ただ、私が見てきた限りでは、リベンジ型の親たちは、抑圧した子どもから後になって手痛いブーメランを受けます。 

「受験したいわけじゃなかった」と後々言われたり、親が何らかのスポーツや習い事を押し付けた場合は「本当は楽しくなかった」とトラウマを抱えた子どもの涙を見ることになるのです。 

「助けてください」と言えない高学歴親たち 

 現代において重要視されるレジリエンス。つまり「ピンチを乗り越える力」は、自己肯定感、社会性、ソーシャルサポートという3つのパーツから構成されています。 

  1. 自己肯定感=自分は何があっても大丈夫だと思える力
  2. 社会性=周囲の人と協力しながらいろいろな問題を解決する力
  3. ソーシャルサポート=周りの人に助けられていることを実感する力

 最も問題なのが、3つめのソーシャルサポートです。高学歴の親御さんたちは、自分ひとりで何もかもできるようになることが自立だと思い込んでいます。自分でお金を稼いで、自分で住居費、光熱費、食費とすべて払ってもまだ「余裕がある生活」ととらえがちです。つまり自立のイメージが、お金に紐づくものです。 

 しかし、すべて自分で賄えるぐらいの収入を得られるかなど、誰にも保証はありません。そのうえ「自分ひとりですべてが賄えるように」は、自己責任に近いイメージです。この自立のイメージ、歪んでいないでしょうか。 

 経済的な自己責任が自立の大きな要素である。そう親から伝えられるため、子どもたちは他者に助けを求められなくなるのかもしれません。助けてもらうのは恥。他者に下に見られたくない。弱い自分を見せたくない。無駄なプライドが邪魔をし、ソーシャルサポートを受けられません。 

 手を差し伸べられたくないと思っている間は、自分が周囲の人たちのおかげで生きていることを実感できません。何かがうまくいかず、心がポキッと折れたとき誰にも頼れない。これではレジリエンスを発揮できません。 

 若者に、このレジリエンスのなさが響いているのではないかと感じることが多々あります。医学生が解剖実習を嫌がって不登校になってしまう話を聞きます。解剖実習は必要です。医学部を卒業するためには受けなくてはいけません。 

 ご遺体はもちろん、検体してくださった遺族にも感謝しながら、勉強させていただく。ご遺体と向き合い、対話する。命の尊厳に触れることで、私たちは医者の道の入り口に立つことができるのです。 

 実習に対するネガティブな気持ちが生まれた時点で、「助けてください」と周りの人に言えば解決方法はあるはずです。が、そこで無駄なプライドがあると、助けを求められません。結果的にピンチを乗り越えられないのです。 

 悪くすると、長期欠席、退学にまで発展してしまいます。そうなってしまう背景には、医師という職業ではなく、高学歴を目指すための医学部入学というケースが少なからずあるようです。

成田奈緒子著『高学歴親という病』(講談社)
この記事の著者
成田奈緒子

1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業、医学博士。神戸大学医学部で山中伸弥氏と机を並べた同級生。米国セントルイスワシントン大学医学部、独協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より同教授。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。主な著書に『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(講談社)、『高学歴親という病』(同)など多数

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