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竹中平蔵・監「どうやったらベーシック・インカムの財源を確保できるのか」少額なら”全住民が貨幣を引き出せる”

 ベーシック・インカムを実施する上で、大きなネックと考えられているのが財源の確保だ。ベルギーの政治経済学者フィリップ・ヴァン・パリースは、財源として「所得税」「資本税」「天然資源の活用」「貨幣の発行」の4つが挙げられると指摘する。ベーシック・インカムを実現するための財源はどのように確保されるべきなのかを考える――。全4回中の3回目。 

※本稿は フィリップ・ヴァン・パリース、ヤニック・ヴァンデルポルト著、竹中平蔵監訳『ベーシック・インカム〜自由な社会と健全な経済のためのラディカルな提案〜』(クロスメディア・パブリッシング)から抜粋、編集したものです。  

第1回:大量失業の未来…竹中平蔵・監「雀の涙ほどの賃金しかもらえぬ人が劇的に増加する」稼ぐ能力の二極化
第2回:竹中平蔵・監「 生活保護とベーシック・インカムは何が違うのか」…嫌な仕事にNOと言える優しい世界
第4回:竹中平蔵・監「人間としての自由を得るために…」ベーシック・インカムを実現させる3つの戦略

収益を生み出す「資本」への課税

 自らの提案する構想の持続可能性を気にかけるベーシック・インカムの提唱者はどうすればよいのか? 2つの答えがある。1つ目は、個人所得税に代わる、もしくはそれを補完する、別の財源の検討だ。2つ目は、無条件ベーシック・インカムへと最終的に向かうための、もっと穏健な段階を検討することだ。ここでは、それぞれの選択肢に注目する特別な理由と、もしあれば、主な欠点について述べていきたい。 

 1つ目の選択肢は、ベーシック・インカムの支持者ならほとんど異を唱えないであろう方法だ。個人所得に対する課税は、労働所得に対する課税に収束してしまいがちだ。そのため当然、資本により多く課税し、労働への課税を少なくしたらどうか、という提案が出てくる。この提案は具体的に、4つの形がある。 

 第一の最もわかりやすい方法では、資本所得と労働所得への課税の非対称性を減らす。キャピタル・ゲインを課税される所得に含め、資本所得と労働所得の合計に累進的な税率を適用するか、さまざまな抜け穴や不必要な控除を廃止するかのいずれかだ。 

 第二の方法では、急勾配の累進的な個人富裕税という形で資本から直接税金を取り、その割合を増やす。当然、ストックに課税するのは、フローに課税するのとは違う。持続可能な税収を得るには、税率を低いままにとどめておかねばならない。 

 第三の方法では、法人に課税する。企業の利益が、個人の受給者(株主や資本家)の所得や富を高める段階において十分に課税されないのであれば、会社の手を離れる前に課税されるべきである。 

 最後に相続税、あるいはもっと広げるなら、すべての遺贈と生存者間の贈与に課税するという第四の方法がある。この種の税は、ベーシック・インカムを共有の相続財産の分配とみなしている人にとっては、特に魅力的だ。 

「天然資源」の活用

 生産力を持つあらゆる資産の公有化ないしは共有化に頼るのではなく、もっと穏当な方法として、ある特定の種類の資産に限った公有化に頼ることもできる。それは、天然資源だ。 

 第一に、国家はその国土を始めとする一部の再生可能な天然資源を所有し、それを貸し出し、その地代をベーシック・インカムの財源に充てられる。 

 いずれの場合でも、専有者による地代の支払いは税のような形態をとるが、それはむしろ実際には、集団的に所有されている資産の使用権と引き換えに支払われる利用料なのである。 

 第二の方法は、再生不可能な天然資源を売ったときの利益を当てにすることだ。このモデルは、国内で生産された石油の価格上昇を財源としたイランの普遍的補助金という例がある。 

 2010年1月、イランの国会はいわゆる「重点的補助金法案」を僅差で可決した。この法律は、相対的にとても安かったイラン国内の石油価格を徐々に国際的な水準に合わせ、イランの家庭や企業による石油の消費に対して潜在的に補助金が支払われているという、経済的に不合理な状態を廃止するものだった。 

 こうして生み出された収益の約4分の1は、価格の上昇の打撃を直接受ける生産者を補助するものとされた。そして、残りの大部分で、7000万人のイラン国民に現金給付を毎月与え、石油高に伴う物価の上昇が生活水準へ与える影響を埋め合わせるために使用されることになっていた。 

 この現金給付は20ドルから始まり、次第に1人あたり月60ドルに上がっていく予定だった(1人あたりのGDPの約13%)。しかし経済制裁がイラン経済に与えた打撃など、さまざまな理由から、補助金の実際の額は急に下がってしまい、この制度の持つ十分な普遍的性格は長くは続かなかったが。 

 2010年から2012年にかけては、モンゴル政府がすべての市民に対し、国の鉱山産業から徴収した鉱山使用料を財源に、対象を定めない現金給付を行った。再生不可能な資源の話なので、この方法で資金を確保するベーシック・インカムは、持続可能になり得ないことは明らかだ。 

 そこで、再生不可能な天然資源の売り上げを使って公的ファンドを作るという、第三の方法が出てくる。この方法は、世界で唯一持続している本物のベーシック・インカム、アラスカ永久基金という例がある。 

 これは、アラスカの石油の採掘と売り上げによって蓄積された基金で、世界中に投資されている。永久基金の過去5年の運用実績に合わせてスライドするため、そこから提供される資金は緩やかだがかなり変動しており、21世紀が始まって以降は、平均で年間約1200ドル、アラスカの1人あたりのGDPにして約2%となっている。 

 ただ、天然資源に限定してしまうのは厳しい制約であり、そのような公的ファンドの設立は、たまたま価値ある天然資源があるところに位置し、その所有権の主張がうまくいった少数の国家や国家に準ずる共同体の特権にとどまらざるを得ないのである。 

お金を刷る 

 天然資源のほかに、課税なしでベーシック・インカムの資金を確保する主要な方法があるとするなら、それはお金を刷ることしかないだろう。 

 このような案は通常、極度に単純化された経済学に基づいているとか、実施された際に起こるインフレ圧力の有害な影響を見過ごしているとかで、退けられてきた。ところが、とても少額のベーシック・インカム、もしくは一時的なベーシック・インカムの資金を貨幣の発行によって賄うことには、2つの正当な論理的根拠がある。 

 1つ目は、ジョセフ・フーバーによって最も体系的に表現されているが、これは民間の銀行の犠牲のもとに、各国の中央銀行が貨幣発行の独占的地位を取り戻すと想定している。そして、すべての住民に貨幣を引き出す権利を与えるのだ。引き出せる貨幣の額が実体経済の年間成長と合致するなら、インフレは起こらない。 

 2つ目の論理的根拠は、これよりもずっと穏当な金融システムの改革を求めている。「人々のための量的緩和」、すなわちユーロ圏のすべての住民に対する一括の直接給付が、主流の経済学者たちによって提案されたのだ。これは消費者の需要を喚起して経済を刺激するための方法として、金利の操作や民間の銀行の働きという通常のテクニックよりも速く効果的に作用する。 

 だが、経済にはずみをつける道具としては、この平等主義的な「ヘリコプター・マネー」は限られた期間しか使えない。購買力の注入が、1回限りか短い連続した給付によって完了したら、中止されるべきものだ。 

「所得」への課税

 さて、可能な限り広い意味での所得に対する課税、これが主な財源にならざるを得ないようだ。消費税を実施する主な方法は2つある。1つ目は、支出税だ。これは、ある人の所得の合計から所定の期間に貯蓄された分を差し引き、その差額に課税するというものだ。 

 この種の税制は投資や成長を促進するという点で正当化されているが、さらに、少なくとも累進課税になっている場合は、贅沢(ぜいたく)な消費を抑えられるという点でも正当化される。 

フィリップ・ヴァン・パリース、ヤニック・ヴァンデルポルト著、竹中平蔵監訳『ベーシック・インカム〜自由な社会と健全な経済のためのラディカルな提案〜』(クロスメディア・パブリッシング)

 2つ目の方法として、消費に対する課税は売上税という形をとることもある。ヨーロッパの付加価値税がその一形式だ。どのような形の売上税でも、売り手によって決められた価格に、所定の割合の税を上乗せして、最終的な消費者が支払う(原理的には100%を超えることも可能だ。所得税や支出税はそれが不可能だが)。 

 ヨーロッパのベーシック・インカムの議論では、付加価値税を主な財源とする提案は1990年代以降に目立っている。大半の提案では、税の構造をより累進的にするため、贅沢品には高率の付加価値税をかけるべきだとされている。 

 OECDの国の多くでは、1970年代以降、所得税の最高税率は下がる傾向にあり、裕福な納税者は税の控除、免除、減税措置、税の割引、抜け穴、資本所得に対する分離課税、節税、そして真の課税忌避を享受している。このため、累進性という意味での所得税の優位が、ますます疑わしくなっている。 

 通常の労働所得とは異なる、いかなる種類の所得によるものであっても、その消費の大部分を画一的に捕捉するので、状況によっては付加価値税はもはや逆進的ではなく、先進国、発展途上国の両方で、ベーシック・インカムのよりしっかりした財源だと立証されるかもしれない。 

 最後に、特定の方向の消費(そしてその結果として生産)を奨励または抑止するために税金を調整するという方策が、ベーシック・インカム実現のためにも重要だという点について述べておこう。 

 1つの根拠は健康に関わるものだ。特に、パターナリスティックな理由(国家権力は、一般市民や未成年、高齢者などの弱者の利益を守るため、本人の意思にかかわらず介入・干渉・支援すべきという考えに基づいて)もしくは共同で出資されている健康保険制度の負担を減らすという理由で、アルコールやタバコにほかの商品よりも高い税金がかけられている場合である。 

 もう1つの主要な根拠は、環境の外部性を内部化し、未来の世代の利益を守るということだ。たとえば、化石燃料の使用には、すでに述べたように気候変動のリスクを高めるという理由に加え、地域を汚染するという理由でも課税可能だ。 

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