「あとどれくらい生きるの?」余命宣告以降も頑張る父と、長期介護でカードローンに手を出した男の本音

平均寿命と健康寿命の差は10年

 人間は誰もが親から生まれ、ほとんどは自分より先に訪れる親の最期に両手を合わせる。長寿化の進行で、生涯を通して親子が接する時間は長くなっているが、その一方で介護問題が子供の大きな負担となるケースが目立つようになった。日本人の平均寿命と、健康上問題がなく生活できる期間である「健康寿命」の差は10年近くあり、その間に生じうる介護に苦悩する家族は少なくない。親のためにできることはしてあげたいと願う子供たちは多いものの、最近は「介護破産」でバラバラになってしまう悲惨な家族も見られる。

 日本人の平均寿命は女性87.57歳、男性81.47歳で、日本は紛れもなく世界トップクラスの長寿国といえる。しかし、「健康寿命」は女性75.38歳、男性72.68歳であり、その差は10年近くもある。この間に病を抱え、通院や入院、手術のために医療機関のお世話になる人は多いだろう。だが、これらの医療費は、後期高齢者医療制度もあり、大抵の場合、預貯金や年金で対応できるのではないか。

長い介護生活に備えるためには3000万円以上が必要との試算も

 しかし、問題となるのは親が「要介護」状態になった時からだ。日本は40歳から介護保険に強制加入となり、自らが「要支援1」から「要介護5」まで7段階ある認定基準に合えば、それぞれに応じた範囲で介護サービスを受けることができる。ただ、医療費のように、誰もが覚悟できる出費とは異なり、介護費は元気なうちは意識することが少なく、いざ「要介護」状態になってから初めて実感するコストだ。

 しかも介護保険があるからと言って安心というわけではなく、1カ月間に介護保険サービスを利用できる上限の「区分支給限度額」を超えたものや、サービス範囲外の利用は全額自己負担。介護保険で賄えない月々の「実費」は、平均で約8万円に上る。ただでさえ、医療費負担が増える高齢者にとって、さらに介護費用が上乗せされるのだから楽ではない。

 さらに、こんな数字もある。公益財団法人「生命保険文化センター」の生命保険に関する全国実態調査(2021年度)によれば、世帯主または配偶者が要介護状態になった場合の保険範囲外の費用に関して、必要と考えられる初期費用は平均234万円、介護期間は平均15年1カ月だった。月々の保険範囲外の費用に関する回答は、平均15万8000円であり、もし介護期間が平均どおりなら介護費用の合計は3074万円と非常に巨額になる。

 また介護の場所に関する回答は「在宅」が 56.8%、「施設」は41.7%となっているが、要介護度が高くなればなるほど「施設介護」の割合は増加する。「要支援1」は在宅介護が75.0%だが、「要介護5」では施設介護が56.4%に達している。また、在宅介護では月々の費用が平均4.8万円に抑えられているが、施設介護は平均12.2万円と高額だ。月額「15万円以上」が3割を超えている。

 この調査では、公的介護保険の範囲外の費用に対する現在の経済的備えについては「不安」を感じている人は75.6%に上っている。

親の介護費用をカードローンで賄う

 東京都内に住む40代の男性会社員Aさんは、専業主婦の妻と子供3人の5人家族。進学塾や英語教室に通わせ、膨らむ教育費に頭を抱えていた。2年ほど前、二世帯住宅に居住する父親の肺ガンが進行し、「要介護4」の認定を受けた。母親は7年前に他界しており、長男であるAさんが在宅介護を担う。

 毎日、午前と午後に訪問介護サービスがあり、食事は弁当配達サービスを利用。訪問医療と訪問看護も毎週依頼している。だが、度重なる入院と通院治療で医療費は膨らみ、限度額をオーバーした分の支払いで、1000万円近くあった父親の預貯金は驚くほどのペースで減っていった。最初のうちは「毎日、弁当では飽きてしまうから」と寿司やトンカツなどを届けていたが、父名義の水道光熱費や固定資産税もかさみ、Aさんが「自腹」を切ることも多くなった。

 父は「お金が足りなくなるようなら、訪問介護や弁当配達はストップしてくれ」と困り果てた表情を見せる。だが、それらを止めてしまえばAさんの負担は増す。銀行通帳の残高を見れば、いまさら施設介護を望むことはできず、そのままの生活でも1年も待たずに資金が尽きるのは明らかだった。「余命3カ月」と医師に宣告されてから半年あまりが過ぎ、Aさんはやむなく自らカードローンも借りて父親の不安を和らげる生活を続けている。

貯金が底をつき、自宅売却、介護離婚も

 「あと、どれくらい生きるのだろうか…」。少しでも長生きしてほしいという気持ちと、資金ショートが原因で家族がバラバラになってしまうかもしれない不安が複雑に交錯し、その精神的負担は重くなるばかりだ。

 親の介護ではAさんに限らず、こうした悲劇的なストーリーが少なくない。土地や建物、預貯金を相続できると思っていたら、長い介護生活をきっかけに親や子供の預貯金が尽き、一気に貧困化することがある。中には自宅を売却せざるを得なくなり、「介護離婚」に向かう例も見られる。

 介護の際に使うことができる資金力は人によって異なるものの、それぞれの人生に予想以上の影響を与える。主な介護者は働き盛りの40~50代が3割を占め、働きながら介護をしている人は約346万人に上る。2020年に個人的理由で離職した約515万人のうち、「介護・看護」を理由とした人は約7万人に上っているという。

 2025年には人口の5人に1人が75歳以上になり、要介護者は600万人以上に達すると予想されている日本。親が元気なうちに資金面だけでなく、どこで、どのように介護をするか事前に話し合っておく必要がある。

この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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