「あの子は誰!?」と中高年層を熱狂させた長尾謙杜の恐るべき時代劇適性…彼がいま「歴史上の薄幸イケメン」を片っ端から演じるべき理由
時代劇×ミステリーという鮮やかな切り口で、現代の観客を熱狂させている映画『木挽町のあだ討ち』。そこで驚きをもたらしたのは、美しき若君を演じた長尾謙杜(なにわ男子)が放つ、アイドルらしからぬ異質の存在感であった。本稿では、ドラマウォッチャーの明日菜子氏がSNSでも絶賛の嵐が吹き荒れる彼の引力を、「儚き少年性」と「背徳的な美しさ」というキーワードから紐解く――。
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興行収入9.5億円突破!異例のロングラン「木挽町のあだ討ち」が現代に刺さる理由
そろそろ日差しが強くなってきたが、今年の冬に封切られた映画『木挽町のあだ討ち』の話をしたい。いや、私のXのおすすめ欄にはいまもなお感想ポストが流れてくるのだ。
原作は、直木賞と山本周五郎賞をW受賞した永井紗耶子の同名時代小説。時代劇とミステリーを掛け合わせた切り口が実に鮮やかで、2025年には四月大歌舞伎としても上演された話題作である。
映画版も好調で、興行収入は累計9.5億円を突破(4月26日時点)。公開からまもなく3か月を迎えるなか、全国の映画館で追加上映が決定するなど、このままロングランヒットへ突入していきそうな気配を感じている。
雪が降りしきる木挽町の夜。芝居小屋のほど近くで、美濃遠山藩士の菊之助(長尾謙杜)が、父の仇である下男の作兵衛(北村一輝)を見事に討ち果たす。多くの芝居客が目撃した美しき若君によるあだ討ちは、やがて忠臣蔵に次ぐ江戸の語り草になった。それから約一年半後、菊之助の縁者を名乗るひとりの侍が、木挽町を訪れるーー。
本作の映像化にあたって集結したのは、時代劇をこよなく愛する作り手たちだ。プロデューサーを務めたのは、『レジェンド&バタフライ』『室町無頼』などを通して、時代劇の新たな可能性を模索しつづけている須藤泰司。監督・脚本を託された源孝志は、『京都人の密かな愉しみ』シリーズや、『スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜』など、目の肥えたドラマファンをも唸らせる良質な作品を数多く手がけてきた人物だ。とりわけ、舞台にもなった東映京都撮影所のスタッフからの信頼も厚く、本作の端々から時代劇愛も感じる。
時代劇×ミステリー。考察文化に見事にハマる「あだ討ち」の再構築
原作ではあまり詳細に描かれていなかった“聞き周り役”の加瀬総一郎を、映画版ではあえて主人公に据え、彼の視点からあだ討ちの真相へ迫っていく構成へと大胆に再構築している。いわば『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』のように、関係者たちへの聞き込みを重ねながら事件の輪郭を浮かび上がらせ、最後に真相へ辿り着くスタイルだ。そのミステリー的な快楽は、考察文化がすっかり浸透した現代の観客たちの感覚にも見事にハマっていた。
古くから日本人が無性に心惹かれてきた「あだ討ち」を題材にしながらも、菊之助たちが選び取る結末はどこまでも新しく、粋そのものだ。椎名林檎による主題歌『人生は夢だらけ』が醸し出す洒脱な空気感も相まって、“ネオ時代劇”とでも呼びたくなるような超エンタメ時代劇映画へと仕上がっていたのである。
「あの子は誰!?」観客の視線を奪った長尾謙杜
熱量の高い口コミに鑑賞欲を刺激され、私がようやく映画館へ足を運んだのは4月のことだった。たいていの映画は公開から一か月も経てば客足が落ち着いてしまうものだが、日曜のTOHOシネマズ 日本橋はほぼ満席。若者から中高年まで幅広い観客が集まっていた光景には、『国宝』級の間口の広さを感じたし、劇場のあちこちで自然と笑い声が漏れる空気には、菊之助の父を演じた山口馬木也の出世作『侍タイムスリッパー』を観た日のことを思い出した。
すぐさま口コミを検索してみたところ、とりわけ絶賛されていたのが、あだ討ちの主役コンビだった。“仇”である作兵衛を演じた北村一輝と、彼を討ち果たした美しき若君・菊之助を演じた、なにわ男子の長尾謙杜である。
特に北村一輝は、もはや北村一輝でなければこのトリックは成立しなかったのではないかと思うほどのハマり役で、早くも日本アカデミー賞候補として名を挙げる人もいた。一方の長尾に対しては、「あの子は誰!?」という声がタイムラインに溢れていた。彼がSTARTO ENTERTAINMENT所属のアイドルであることを知らず、その存在感に思わず見入ってしまった人も多かったのだと思う。