Amazon赤字転落、Google減益、Facebook株価暴落…GAFAの「この世の春」はなぜ終わったのか
アマゾンは最終赤字、グーグルは最終減益、フェイスブックはユーザー減…
2022年になってアップルを除くGAFAの業績悪化が顕在化している。業績悪化の原因はそれぞれ異なるようなので、会社別に詳しく見てみよう。
【アマゾン】
2022年第1四半期の最終損益は38億ドルの赤字だった。アマゾンの赤字転落は2015年1~3月期以来7年ぶり。アマゾンのCFO(最高財務責任者)によると、赤字要因はインフレ、生産性低下および過剰設備による60億ドル(約8100億円)ものコスト増で、中でも米国外への輸送コストはコロナ前の2倍以上に、燃料費は1年前の1.5倍になっているそうだ。
アマゾンは主に単価の低い日用品等を高頻度で小口配送する業態だ。「プライム会員は何回でも配送料無料」という看板サービスは(米国内で)10年前の79ドルから現在は119ドルまで値上げしているが、筆者はここに「物流コストの高騰分をストレートに価格転嫁できない」という弱点があるとみている。
アマゾンの株価は7月15日終値で113.55ドル。昨年11月18日の最高値から38%も下げている。コロナパンデミックによる物流の混乱はいまだ続いており、米国内の人件費高騰、燃料費高騰も長引きそうだ。これらが解消されるまで同社の収益は不安定な状況が続くだろう。
【アルファベット(旧グーグル)】
2022年第1四半期の売上高は680億1100万ドル(前年同期比23%増)。純利益は164億3600万ドル(同8%減)だった。
広告を主な収益源としているアルファベットは、景気悪化の影響を受けやすく、今後は収益が伸び悩む状況が続くと予想される。同社は既に人材採用を抑制するなどの対策を発表している。
しかし総売上の8割を占める検索エンジンの広告収入は前同比22%増(第1四半期)と、不景気の影響を受けていないようだ。ただし同社の広告事業は米国の反トラスト法に違反している懸念が指摘され、現在は解決策を模索している状況。決着方法によっては今後の収益に影響が出るかもしれない。
アルファベットの株価は7月15日終値で111.78ドル(調整後)。2月2日の再高値から26%下落した。
【メタ(旧フェイスブック)】
2月3日(2021年第4四半期の決算発表の翌日)、メタの株価は約26%も暴落した。前日の決算発表では売上高(2021年第4四半期の336億7000万ドル)はアナリスト予想(334億3000万ドル)を上回っていたが、それでも暴落したのはフェイスブックのDAU(デイリーアクティブユーザー数)が会社設立以来、初めて減少に転じたことや、メタバースの開発コストが膨らんでいる状況が問題視されたからだ。
DAUについては3カ月後の決算(2022年第1四半期)で前同比4%増(19億6000万人)に回復。この数字は「フェイスブックのユーザー増加が頭打ちになった」という観測を打ち消す内容であったものの、株価は依然下落傾向にあり、7月15日の株価は暴落前から49%も下げている。
フェイスブックのビジネスモデルはユーザー数を増やして広告収入を増加させるもの。したがって、ユーザー数の伸び悩みは既存事業の成長が頭打ちになっていることを意味する。
【アップル】
2022会計年度第2四半期(1〜3月期)の決算は、売上高が(第2四半期で)過去最高となる973億ドル(前同比9%増)だった。
アップルは2020年7~9月期から7期連続で(同じ四半期での)過去最高売上を更新し続けており、2021年10~12月期には創業以来最高となる売上高1239億ドル(前年同期比11%増)を記録している。
このように好調が続く同社だが、成長が徐々に鈍化している(下表)。7月15日の株価は年初から17%下落している。
アップルの四半期決算の推移 | |
2020年4~6月期 | 597億ドル(前年同期比11%増) |
2020年7~9月期 | 647億ドル(前年同期比1%増)☆ |
2020年10~12月期 | 1114億ドル(前年同期比21%増)☆ |
2021年1~3月期 | 896億ドル(前年同期比54%増)☆ |
2021年4~6月期 | 814億ドル(前年同期比36%増)☆ |
2021年7~9月期 | 834億ドル(前年同期比29%増)☆ |
2021年10~12月期 | 1239億ドル(前年同期比11%増)★ |
2022年1~3月期 | 973億ドル(前年同期比9%増)☆ |
※アップルのニュースリリースより。☆は過去最高売上(同期比)、★は創業以来最高売上。
GAFAの業績悪化は一時的なもの?
GAFAの株価は、いずれも年初から大きく下落している。NYダウの下落率は約14%だから、アップル以外は市場の平均を上回って著しく下げていると言えるだろう。
それではGAFAの業績は今後どうなるだろうか。将来展望について3つの仮説を立てて、それぞれに当てはまりそうな会社について検討してみた。
【GAFA株価の年初からの下落率(7月15日現在)】
NYダウ | アマゾン | アルファベット | メタ | アップル |
– 14.5% | – 33.4% | – 22.3% | – 51.3% | – 17.5% |
1 業績悪化は米国のインフレ、景気後退のあおりを受けた一時的なもの。これらが解消すればGAFAの業績も回復する。
GAFAは米国での売り上げが圧倒的に多い。したがって米国内の景気後退や資源高、人件費高騰がひと段落すれば、業績は回復に向かうはずである。
【米国内の売り上げが総売上高に占める割合】
アマゾン | アルファベット | メタ | アップル |
68.3% (2020年) |
46% (2021年) |
44% (2021年) |
38% (2021年Q2) |
このシナリオがいちばん当てはまるのは、米国内の売り上げが多いアマゾンだろう。コロナ禍やウクライナ侵攻さえ終わってくれれば、物流の混乱もインフレも終息し同社の業績も回復するはずである。
しかしコロナは次々に新型株が誕生し、それらが新たなパンデミックを引き起こしている。こうした新たなパンデミックに対して、欧米や日本では強力な人流抑制政策を行わなくなってきたが、一方で中国はゼロコロナ政策を続け、極端な人流抑制によって財の生産や流通を停止させている。したがって中国のゼロコロナ政策が終わらない限り世界的な物流の混乱は長引きそうだ。
さらにウクライナ侵攻の先行きも不透明であり、ロシア制裁の解除(ロシア産石油・ガス等の供給が以前のレベルに戻る)はすぐには実現せず、こちらも長引く可能性が大いにある。
つまり1の仮説の答えは「インフレも景気後退も長引く可能性があるため、GAFAの収益悪化も同様に長引きそうだ」ということになる。
そしてアマゾンは物流コストの上昇分を顧客に転嫁してしまえば簡単に業績が回復するのだが、大幅な会費引き上げが顧客離れにつながると他社を利することになり成長を損ねてしまうのだ。
アマゾンのプライム特典は、無料配送に加えてポイント、ビデオ、ミュージックなどのサービスが組み合わされている。今後は単純な値上げだけでなく、これらのサービスの質を下げたり、別途有料化したり、(定期おトク便等の)割引率を下げたり、さまざまな手段を使って収益の回復が図られることだろう。
2 GAFAは次の成長分野を見つけ、今後も収益を伸ばし続ける。
アルファベットは収益のほとんどを広告事業から得ているため、景気後退の影響を大きく受けると考えられている。また同社は米国の反トラスト法に違反しているという疑惑が持ち上がっていて、現在はこれに対応している真っ最中。さらにWeb広告ではプライバシー侵害を防ぐ目的で法規制(Cookie規制)が始まろうとしており、これらもまた同社の株価下落に影響している。
アルファベットは2015年8月に社名変更し、生命科学・投資キャピタル・研究分野の企業を傘下に加えている。これら新規事業が「規模拡大し利益を生み出すことができるかどうか」が長い目で見た成長のカギを握っている。
ただし同社は目先の景気後退を受けて人材採用のペースを落とすと表明しており、成長分野の事業を育てるためには、あまり好ましくない状況がある。
一方、フェイスブックの運営会社も景気後退やCookie規制の影響を受けている上、フェイスブックユーザー数の伸び悩みという問題にも直面している。
しかし同社は2021年10月、社名をメタに変えて、メタバース事業(デジタル空間において個々人がアバターとして活動する仮想空間サービス)を次の収益の柱とする意思を明示した。今後はフェイスブックの収益が伸び悩んでも、メタバース事業の伸びによって成長を続けられるはずである。
ただしメタバースおよび仮想現実(VR)事業の収益化はかなり先の話だ。同事業は2021年(年間)に100億ドルの赤字を出しており、同社が打ち出した人材採用のペースダウンは、こうした赤字の改善が目的とも考えられる。
同社は本格的な普及を5~10年後に見据えている。したがって今後数年(4~9年?)はメタバース事業の赤字が同社の利益を圧迫するだろう。
2の仮説が成立し、GAFAが新しい分野で成長を持続できるかどうかは、今の時点ではなんとも言い難い。
ただし人的資本経営をしているGAFAは、成長に必要な人材を高額の賃金を支払って獲得する。したがって問題があっても必ず優秀な人材が能力を発揮し、GAFAはいつ何時も成長し続けることができるのだ。
GAFAには技術分野だけでなく、経営や商品開発などの分野でも創造性の高い人材が集まっている。彼らはきっと新しい技術を具体的なサービスに落とし込み、収益に変えることに成功するだろう。
3 GAFAの主力サービスは既にアドバンテージを失っている。今後GAFAは衰退していく。
ICTの進歩を俯瞰すると、現在は「ウェブ2.0」からブロックチェーン(分散型元帳技術)など新しいネットワーク・テクノロジーを活用した「ウェブ3.0」に移行している状況だ。この流れを捉え切れないとGAFAクラスの企業であっても、かつてのIBMや今のニッポンの総合電機メーカーのような「ホワイトエレファント」になってしまうかもしれない。
この点、アマゾンは徐々に競合他社にシェアを切り崩されつつあるが、膨大な数の顧客リストを持っており、それらに新サービスを投入できればまだまだ成長が可能だと考えられる。
アルファベットは多角化を推進しており、これらの事業が拡大することによって衰退は免れるだろう。
メタは「メタバース一本足打法」なので、成長の可否は同事業の収益化の可否にかかっているが、GAFAは新技術の開発、商品化、収益化のいずれの点においても優秀な人材を獲得していると言えるから、同社のメタバース事業もおそらく失敗することはないであろう。
日本企業がロボット技術を広告宣伝、もしくは玩具商品としてしか活用できていないのと極めて対照的である。
問題はアップルだ。iPhoneは既に技術的優位をアンドロイド陣営に奪われているため、ブランド価値の維持に失敗した場合、1990年代のように再びシェアを失っていく可能性もある。
ただしiPhoneの販売は現在絶好調だ。数量ベースのシェアは数年前からずっと上昇を続けている上、ハイブランド路線の維持にも成功。金額ベースの世界シェアは39.6%(2021年)と、2位のサムスンの倍以上も稼いでいる。
ここ数年間の急成長は、米国の景気後退でひと段落する可能性が高いが、それでもかつてのように一方的に他社に売り負ける可能性はほとんどないであろう。
以上3つの仮説を検討してみたが、結論としては、GAFAの主力事業はいずれも陳腐化したり、競合他社に顧客を奪われたり、法規制によって収益が減少したりするだろう。しかし彼らは人的資本経営によって、世界中から英知を集めてこれらの問題の解決に取り組んでいる。アマゾンもアルファベットもメタもアップルも、一つのサービスが不振になれば必ず新サービスを立ち上げるなどして、着実に会社を成長させ続けるに違いない。