前妻の子、顔を知らない兄弟、売れない実家……「普通の家族」が相続の泥沼に引きずり込まれる構造
遺産5000万円以下。マイホームと預貯金しかない「普通の家族」が法廷で争っている——。これは、弁護士法人Authenseが公表した「遺言書年報2025」が明らかにした事実だ。「うちはたいした資産もないから関係ない」という思い込みが、もっとも危ないという。
本稿では、Authenseで相続案件を数多く手がける堅田勇気弁護士の実務経験をもとに、相続争いが起きやすい家族パターンから、金額より「感情」が引き金になる紛争の本質、そして今すぐ取れる予防策まで、4回にわたって紐解いていく。全4回の第2回。
みんかぶプレミアム連載「取り返しのつかない相続」
目次
突然現れる「法定相続人」…親が話さなかった過去
前回は、相続争いの火種を抱える「3つの家族パターン」についてお話ししました。そのうちの一つが、複数の婚姻歴がある家族です。「そんな人がいるなんて知らなかった」。相続の現場で、何度この言葉を耳にしたことでしょうか。
父親が過去に認知した子ども、前妻との間に生まれた子ども、離婚後にほとんど会っていなかった子ども。こうした方たちも、民法上は「法定相続人」としての権利を持っています。現在の配偶者や後妻の子どもたちからすれば、突然その存在を知らされること自体が強烈なショックです。私が見てきたこうしたケースの多くは、「親が話せなかった」か「話す必要がないと思っていた」かのどちらかでした。
前妻との子どもは幼い頃に離れており、「父親の顔もほとんど知らない」という関係であることも多い。それでも法律は、両者を平等な相続人として扱います。後妻との子どもが1人、前妻との子どもが1人なら、それぞれ同じ割合の相続権を持ちます。感情的には他人のようなのに、法律上は対等な立場になる。この現実が、紛争の火種を大きくします。さらに深刻なのが、当事者同士が互いの存在すら知らないケースです。親が認知した事実を誰にも話さないまま亡くなると、相続手続きの中で初めて「もう一人の兄弟」の存在が明らかになります。
顔も知らない相手と、遺産を「均等に」分けるしかない
「知らなかった相続人」の問題は、1対1のケースに限りません。父親が再婚・離婚を繰り返し、複数の女性との間に子どもをもうけていた場合、その子どもたち全員が相続人になります。法律上の持ち分は均等でも、互いに顔も知らない、会ったこともない関係で話し合いを進めなければならないのです。
一方は「自分たちが親の面倒を見てきた本当の家族だ」と思い、他方は「法律上は同等の権利がある」と主張します。どちらも間違ってはいませんが、その主張が交わることはありません。話し合いになりたくてもなれない、同じテーブルにつくことさえ拒否される、というケースも少なくありません。
遺言書がない場合、全員の同意がなければ遺産を動かすことができません。事実上の膠着状態に陥り、弁護士を立てた調停・審判へと進む可能性が高くなります。何年もかけて争い続ければ、弁護士費用や精神的なコストが遺産総額を上回ることすらあります。「知らなかった相続人」の問題を生んでいるのは、遺言書の不在です。この論理は、次に述べる問題とも直結しています。