老後の安心は貯蓄額ではなくフローで決まる!相続のプロが語る、「ゼロ活」という生き方と50代からの賢い整理術
2024年末に急逝した俳優・中山美穂さんの遺産をめぐり、約20億円にのぼる不動産の相続問題が報じられた。「相続トラブルは富裕層だけの話」と思っている人は多いが、現場のプロたちが口を揃えて指摘するのは、むしろ「財産が少ない家庭ほど揉める」という逆説的な現実だ。
今回話を聞いたのは、ファイナンシャルプランナー(CFP)かつ社会保険労務士として30年以上のキャリアを持つ井戸美枝氏。これまで多くの相続案件に向き合ってきた井戸氏が一貫して強調するのは、「相続トラブルの本質は財産の多寡ではなく、準備の有無にある」という点だ。遺された貯蓄額(ストック)の呪縛、財産を巡って子供たちが奪い合う泥沼の構図——。いずれも、毎月の収支(フロー)に着目し、生前に身軽になっていれば防げた悲劇だと井戸氏は言う。人生の終盤を前向きに整理し、家族に笑顔を遺すための「ゼロ活」の哲学について、井戸氏の知見をもとに紐解いていく。全5回の第5回。
みんかぶプレミアム連載「取り返しのつかない相続」
目次
ストックよりフロー。老後の安心をもたらすお金の本質的な見方
老後のお金について相談を受けていると、「老後に2000万円必要と聞いているが、十分に貯められているだろうか」という不安を口にする方が多くいらっしゃいます。しかし私が伝えたいのは、老後資金は「ストック(貯蓄の総額)」だけで考えても意味がないということです。
真に重要なのは「フロー(収入と支出)」の把握です。毎月いくら入ってきて、いくら出ていくかを正確に知り、その範囲内で生活する意識を持てれば、余ったお金は心置きなく使うことができます。「老後の不安」の多くは、フローが見えていないことから生まれているのです。
また、ストックの取り崩しについても注意が必要です。定期的に資産を取り崩していく作業は、第4回でお伝えした通り、認知症や判断力の低下が起きると自分で管理することが非常に難しくなります。公的年金や退職金のほか、証券会社で投資信託の定期売却(定率・定額)を設定するなど、「定期的にお金が入ってくる仕組み」をあらかじめ整えておくことが、老後の安心につながります。
家計を「企業」のように分析する。漠然とした不安を可視化する2つの魔法のツール
フローを把握するために効果的なのが、2つのツールの活用です。
1つ目が「PL表(損益計算書)」です。現在の給与収入と将来の年金見込み額(ねんきん定期便やシミュレーターで確認できます)、退職金の種類(確定給付型か確定拠出型か、一時金か年金かなど)を収入側にリストアップします。支出側は現在の生活費をベースにします。50代以降は教育費が落ち着き支出パターンが安定してくるため、一度作成すれば将来の見通しが立てやすくなります。
2つ目が「家計版B/S(バランスシート)」です。現預金・株式・不動産などの資産から住宅ローンなどの負債を差し引いた「純資産」を算出します。医療費・介護費・住宅リフォーム代といった老後の大きな一時支出は、毎月のフローではなくこのストック(純資産)から支払うものとして別枠で管理することがポイントです。
PL表でフローを把握し、B/Sで大きな支出への備えを確認する。この2つを合わせて見ることで、「自分はどれくらい自由に使えるのか」が初めてはっきりと見えてきます。