「ほぼ満点」の決算でもなぜ株価は上がらないのか……9万円台で売却した個人投資家が「妙味はあるが長期保有は危険」と断言する理由
AIブームを追い風に急騰した後、激しい下落に見舞われたキオクシアホールディングス株。アクティビスト投資家の川口佑氏は、1万円台から同社株への投資を始め、7~9万円台で売却し、現在はスイングトレードで投資を行っている。キオクシアをどう見るべきか、投資初心者が投資すべき銘柄なのかについて、川口氏に伺った。
みんかぶプレミアム特集「AIバブル この狂乱の勝者は誰だ」第5回
急騰と急落を生んだのは需給
キオクシア株の急騰と急落については、さまざまな要因があります。その中で、最大の要因を挙げるなら、大株主の出口を巡る「需給」です。
まず土台として、キオクシアの主力商品であるNAND型フラッシュメモリー(NAND)そのものの単価が高騰し、市場は拡大期に入っていました。その市場の伸びに乗り、キオクシアは一時トヨタの時価総額を超えましたが、ここまで突出できた背景には、発行済株式の4割超を、ベインキャピタルや東芝ら大株主が保有するという「株の品薄の構造」がありました。
そこへ指数買い・AIテーマの買い・信用取引の買いが三方向から殺到。ベインキャピタルは段階的に保有株を売却していきましたが、これも「売り圧力は着実に減っている」という逆説的な買い材料として機能し続けました。
ただし、7月上旬、ベインが全保有株の売却を完了した瞬間、売り圧力と同時に「大きな売りを吸収できる買い余力」も消えました。
当時、キオクシアの実績利益をもとに試算したPERは約100倍に達していました。そこへ中国発AIモデルの衝撃や証券会社の慎重レポートといった悪材料が重なりました。株価が上昇しているときには、レバレッジは上昇を加速させますが、下落が始まれば逆方向に回り始めます。そうなると、信用取引をしている個人投資家には追証が発生。機関投資家もポジションを決済せざるを得ない場面が生まれました。こうして、株価の下げが増幅されていきました。
キオクシアの値動きを考える際、私はその原因を階層に分けて考えています。「時期」を決めたのは、大株主の出口。「深さ」を決めたのは、信用取引などによるレバレッジの逆回転。「高度」を決めたのは、実績PERで100倍近くまで買われた評価。「速度」を決めたのが、7月の悪材料でした。業績ではないのです。
7月末の決算については、満点に近いとみています。私はこの決算を「販売単価」「データセンター向け需要」「投資規律」「為替」の観点から評価しました。販売単価とデータセンター向け需要は満点。設備投資への規律は満点とは言えないものの、いま一枚のウエハーあたりのビット数を積む投資を行っており、その真価が問われるのはまだこれから。為替は円安。この決算からも、7月の株価暴落が事業によるものではないことがわかります。
株価が見るのは、業績の絶対値ではなく「事前の期待との差」です。今回も、2026年7~9月期の利益見通しは市場の期待に届きませんでした。どれだけ業績が良くても、それ以上の数字を市場が織り込んでいれば株価は上がりません。
また、同じ工場を共同運営するサンディスクが8月5日に発表した決算では、実績は非常に好調だった一方、次四半期の見通しが市場の期待を下回りました。サンディスクの売上高は直前四半期比51%増と大きく伸びており、NAND市況自体が崩れたわけではありません。 それでも市場は先の成長率を織り込むため、「キオクシアの強気な見通しは本当に実現できるのか」という疑念が生じれば、好決算でも株価は素直には上がりません。
RubinでNAND市場はますます伸びる
キオクシアの最大の強みは、NAND専業であることと、現在の市場環境が非常にうまくかみ合っている点だと思っています。
サムスンやSKハイニックス、マイクロンなどは、NANDだけを作っているわけではありません。現在、非常に収益性の高いHBMに設備、人材、ウエハーを振り向け、NANDの増産を後回しにしています。
専業は平時にはリスクですが、賭けた先に波が来た局面では、これ以上ない強みに変わります。強みとは、固定的な性質ではなく、会社の形とサイクルの局面との相性だと考えます。ですから私が監視するのは競合の技術発表ではなく、兼業組のNAND投資再開のニュースです。
そんな中で私が特に注目しているのが、NVIDIAの次世代AIプラットフォーム「Rubin」です。Rubinとは、簡単に言えば、AIの計算を担うGPUを中心に、メモリや通信機器などを組み合わせた次世代のAIシステムです。AIの性能が高まるにつれて、計算能力だけでなく、膨大なデータをどこに置き、どれだけ速く読み書きできるかが重要になっています。
そこで存在感を増しているのがSSDです。SSDは、パソコンやデータセンターなどでデータを保存する記憶装置です。そして、そのSSDの中核となる半導体が「NAND型フラッシュメモリー(NAND)」です。
これまでAIで注目されてきたのは、GPUのすぐそばに置かれ、計算に必要なデータを高速で受け渡すHBMでした。一方、SSDは大量のデータを保存しておく役割を担います。
ところが、AIが「学習」中心から「推論」、さらに自律的にさまざまな作業を行うエージェント型AIへと進化すると、この役割分担にも変化が出てきます。
AIは回答や作業を続けるために、それまでの会話や処理内容など大量の中間データを保持する必要があります。しかし、すべてを高速で高価なHBMやDRAMに置いておくのは現実的ではありません。
そこで、すぐに使わないデータをいったんSSDへ移し、必要になったときに高速で呼び戻す仕組みが重要になってきます。
Rubinでは、こうした用途を想定した「Inference Context Memory Storage(ICMS)」という新たなストレージ階層が導入されます。これまで脇役だったSSDが、AIの推論性能を支える仕組みの一部として、より深く組み込まれるわけです。
外部の試算では、Rubin世代のシステムではGPU1基当たり最大16TB、1システム当たりでは1000TBを超えるSSDが必要になる可能性があるとされています。
またAIが必要なデータを瞬時に呼び出すためには、大容量であるだけでなく、高速で、信頼性の高いSSDが必要になります。つまり、従来の汎用品としてのNANDから、AIシステムの性能を左右する高付加価値部品へと役割が変わっていく可能性があります。
私はここに、NAND市場の大きな変化があると考えています。
もちろん、Rubin向けのNANDをキオクシアが独占的に供給するわけではありません。サムスンやSKハイニックス、サンディスクなど複数のメーカーが競争することになるでしょう。
ただ、キオクシアが1割以上のシェアを持ち、すでに次世代AIインフラを意識したエンタープライズSSDの開発を進めていることからも、大きな伸びが期待できます。