「財務省の借りパク」「自賠責ネコババ」政治腐敗と官僚の奢りの象徴を知っている人はどれだけいるのか

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 財務省解体を叫ぶデモが続いている。デモの是非はともかく、財務省に対して多くの国民の不満が溜まりに溜まっているのは確かだろう。そのいっぽうで、政府が繰り返す国民負担増の裏で6000億円もの自賠責積立金が30年以上も完済されないまま「消えた」状態にある。財務大臣も認め、謝罪しながらなお50年、100年のペースで「借りパク」され続ける私たちの積立金に一体今何が起きているのか。かねてよりこの問題を取り上げてきたルポ作家の日野百草氏が解説するーー。

目次

「お金を返さない悪い人」の言い訳

 さっそくだが「お金を返さない悪い人」の言い訳を挙げる。だいたいこの3つ。

 まず下記のように「申し訳ない」と謝りながら「誠意」など口にする

〈一般会計からの自動車安全特別会計への繰戻しでありますが、今の財政事情を考えますと1回で全てお返しするということが無理な状況であります。これは申し訳ないと思っておりますが、そういう中で着実に確実に繰戻しを進めていくこと、誠意を持って進めていくことが大切なんだと、そういうふうに思っております〉※令和4年11月11日・鈴木財務大臣閣議後記者会見

 次に「返すつもりはある」と居直る。

〈さきの国会で成立いたしました自賠責法改正によりまして新たな賦課金が導入されたということは承知をいたしておりますが、一般会計からの繰戻しについては賦課金導入のいかんにかかわらず、大臣間合意に基づいて着実に進めて参りたいと考えます〉※同

 そして「返すけど期日は言えない」と誤魔化す。

〈今段階において、例えばいつまでにお支払いを完了するということが必ずしも言い切れないところがございますので、毎年のこうした繰戻しについての基本的な考え方をお示ししてご理解をいただきたいと、こう思っているところです〉※令和4年11月22日・同

 みなさんの周囲にいる「お金を返さない悪い人」も、おおよそこの類だろう。

「財務省の借りパク」「自賠責ネコババ」

 ただ困ったことに、これを言っている人は鈴木俊一財務大臣であり、財務省自体である。つまるところ、国が「お金を返さない悪い人」になっている。

 それどころか「積立金が足りないので賦課金を値上げ」(後述)である。凄い、誰のせいで足りないのか。

 最近やっと返済しはじめたが毎年の返済額からすれば50年とか100年かかる計算である(これも後述)。1980年代から90年代にかけて似たような返済計画で借りパクのまま逃げおおせたバブル紳士があったが、こういうのはまともな返済と言わない。

 そういえば彼らバブル紳士も「申し訳ない」「誠意」「いつまでにお支払いを完了するということが必ずしも言い切れない」という鈴木財務大臣と似たようなことを言って天寿をまっとう、あの世に逃げおおせた。思えば「やったもん勝ち」の今に至る社会倫理の崩壊であった。

 自賠責積立金の約6000億円を財務省が一般会計に入れたまま返さない、返し始めても微々たる返済額で50年とか100年かかる、そのせいで肝心の被害者救済のための資金があと20年で枯渇するので賦課金名目で値上げーーこれが自賠責(自賠責自動車損害賠償責任保険)の自賠責保険積立金およそ6000億円問題である。

 はっきり言って、むちゃくちゃである。

 この6000億、正確には近年少しずつ返し始めたので残り返済額は約5800億円、1994年から30年以上、財務省が借りたまま完済しない私たちの積立金である。あまりに長い間返って来なかったので「消えた6000億円」とか「財務省の借りパク」「自賠責ネコババ」とも呼ばれる。借りたのだからちゃんと返す、当たり前の話なのに。

 本稿、本来は一般会計から特別会計への「繰入れ」「繰戻し」と呼ぶがわかりやすく「返す」「返さない」とする。税金ではなく自動車や二輪車などのユーザーの自賠責積立金のはずが一般会計(特別)に繰り入れられた。そもそも安倍晋三内閣(第2次)時代などは「返還拒否」(麻生太郎財務大臣)であった。

国交省は財務省に何度も「返せ」と言ってきたが、ポーズだけ

〈平成6年(1994年)度及び平成7年(1995年)度に、自動車損害賠償責任再保険特別会計(現・自動車安全特別会計)から一般会計に繰り入れた 1兆1,200億円について、約6000億円が繰り戻されていない〉※『一般会計から自動車安全特別会計への繰戻し』国土交通省

 このように、自賠責の所轄である国交省は財務省に何度も「返せ」と言ってきたが結果、ポーズでしかなかった。

 1994年の細川護熙連立政権の新生党、藤井裕久大蔵大臣と社会党の伊藤茂運輸大臣から始まり、小渕恵三連立政権の宮澤喜一大蔵大臣と二階俊博運輸大臣、小泉純一郎自公政権の谷垣禎一財務大臣と石原伸晃国土交通大臣、菅直人民主党政権の野田佳彦財務大臣と馬淵澄夫国土交通大臣、そして先の麻生太郎財務大臣と石井啓一国土交通大臣との「大臣間合意」という名の「返さなくていいよね」が繰り返されてきた。

※参考資料・『新たな大臣間合意について』国土交通省令和3年12月27日

 国交省の上記資料にはこうもある。

〈財務省と国土交通省は、「被害者やそのご家族が安心して生活できる社会の実現」に取り組む〉

 凄い、金を返さないのにこの言葉、これがこの国の姿勢である。

国民の積立金である。税金ですらない

 思えばオールド政党のほとんど、与野党問わず「グル」であった。大蔵省(当時)=財務省に逆らえない既成政党の姿がそこにある。

 野党が政権についた途端に約束は反故、を繰り返してきたことは自賠責に限った話ではないが、結果としていまも約6000億円の借りパク状態なのでバツが悪いのかこの件を取り上げるオールド政党は少ない。国民民主党の浜口誠議員や賦課金の値上げに反対したれいわ新選組などが目立つ程度である。そもそも賦課金の値上げはれいわと共産党以外の賛成多数で可決した。

 繰り返すがこの金はユーザー、ひいては国民の積立金である。税金ですらない。

 それを大蔵省が一般会計の懐に収めたまま、1998年の官僚7人が逮捕されたノーパンしゃぶしゃぶ接待汚職事件を経て財務省となり、それでもずっと返さない。それどころか2023年4月から自賠責の賦課金を値上げした。

このままでは20年と持たずに枯渇、だから値上げ

 これについては私より以前に一部メディアやジャーナリストが追求し続けてきた。JAF(社団法人日本自動車連盟)もまた2017年に当時の会長が「踏み倒されるのでは」と危惧してきた。遡ること2010年の調査では自賠責積立金が一般財源という「打ち出の小槌」に利用されたまま財務省から返還されないことを91.4%が「知らなかった」趣旨の回答をしている。

 いまや多くが知ることとなった。SNSの功罪あれど、こうしたスマホ黎明期までの「うやむや」が難しい時代になったことは歓迎したい。

 多額の積立金が完済されない。まして肝心の交通事故被害者救済対策などの資金がこのままでは20年と持たずに枯渇する。だから値上げという本当にひどい話が今もまかり通っている。

 本来は2000年度に完済されるはずだった。その覚書も残っているが四半世紀経ってしまった。その後も覚書は過去4回、返す返すと言って返さない。「お金を返さない悪い人」というのは得てしてそういうものだが、これがこの国の財務省でありその時々の政権与党であった。

 そうして、2024年度も完済されることはなかった。

 返済を再開してから、財務省は2018年度にようやく23億2000万円を繰り戻した。しかしこのペースだと50年とか100年どころか250年以上先の完済となってしまう。とっくにドラえもんは完成しているし、ヤマトは地球を救い続けている。バカバカしい話と思う向きもあるかもしれないが、本当にそんなペースの返済額だったのだ。

 さすがにさらなる批判を浴び、翌年度から約50億円程度を返還しているがこれでも完済は100年以上かかる。2024年度に返済再開から初めて100億円の返済となったがこれでも50年以上かかる。

 半世紀先の返済、いずれにせよ現役世代の多くが完済を見ることは叶うまい、私たちユーザーの、ひいては国民の安全と安心のための自賠責積立金なのに。

 財務省も現役職員はもちろん2025年度の新人すらこのペースなら職員として完済を見届けることはあるまい。自公の政治家に至ってはほぼ鬼籍入り、そんな返済計画で他人の積立金を借りたまま。「借りパク」という言葉が言い過ぎどころかむしろふさわしい状態にある。

政治腐敗と財務省の奢りの象徴

 そして財務省、いまだに「いつまでに完済する」と言わない。

 返済期限を明記しない借金を「誠意」やら「着実」とは言わない。「お金を返さない悪い人」が一番使う手だ。

 そもそも財務省の借金である。それなのに、6000億円もの金を何十年も借りたままだというのに財務省の態度はどういうことか。加担し続けた歴代政権もまた同罪であり、いまだふざけた返済額で「一般会計からの繰り戻しを着実に行う」とする加藤勝信財務大臣の言葉を信用しろと言われても無理がある。

 長く1円も返さない時代があった。私たちが声を上げなければ、本当に1円も返す気がなかったのだ。本当に金があるのなら毎年「着実」ではなく全額「すぐ」が筋である。財務大臣が認め、謝罪に追い込まれるほどの私たちからの「借金」だ。ないと言うなら、どこに消えたのか。消えた年金、コロナ予備費、信用するに無理がある。

「何に使うのか」(ご利用目的)

「いつ返すのか」(ご返済計画)

 ただでさえ一般国民からの信用が「金」の面でも地の底まで堕ちて久しい財務省および自公政権。この自賠責積立金問題もまた裏金、パー券、商品券とあらゆる政治腐敗と財務省の奢りの象徴に他ならない。

※一部所属・肩書は当時のもの。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、昭和史における人物評伝およびフィギュアスケートなどの舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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