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「ボリュームを少し下げろ」と高市首相へ直電。中国との経済取引を最優先したトランプの冷徹…安全保障の前提が崩壊し、日本が突き動かされた「自主防衛」の号砲

 2026年5月、北京での米中首脳会談を終えたドナルド・トランプ大統領から高市早苗首相へかかってきた一本の電話。それが、戦後日本の安全保障の前提が静かに崩壊した瞬間だった。トランプ氏が求めたのは、台湾有事を巡る日本の強硬発言の「トーンダウン」ーー。米国が同盟の義務よりも農産物や牛肉の貿易利益を優先し、台湾への武器売却を「ディール(取引)」のカードとして凍結する中、日本と台湾は冷徹な現実に直面している。中国からの激しい経済・軍事圧力を前に、もはや米国には依存できないと悟った日本が選びつつある「自主防衛」の最前線と、書き換わる地政学の裏舞台を、元『プレジデント』編集長で作家の小倉健一氏が解き明かす。

 みんかぶプレミアム連載「小倉健一の新保守宣言」

目次

米中首脳会談の直後に高市首相へ届いた「警告」

 エアフォース・ワンの機内から一本の電話がかかってきた時、日本の安全保障政策の前提は静かに崩れ落ちてしまった。

 5月、北京での米中首脳会談を終えたドナルド・トランプ大統領は、その日のうちに高市早苗首相に直接電話をかけ、台湾を巡る発言の「ボリュームを少し下げろ」と要求した。ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたこのやり取りは、一見すると外交上の些細な調整に見える。だが、ここには今のインド太平洋を貫く構図がすべて凝縮されている。米国の大統領が、最も緊密であるはずの同盟国に向かって「静かにしろ」と命じたのだ。そして同じメッセージは、海を隔てた台湾にも突きつけられていた。

 トランプ外交を理解する上で、もはや「同盟」という言葉は手がかりにならない。トランプにとって安全保障上の約束は信念ではなく、常に交渉材料である。必要な時に切り、有利な時に温存する交渉カードにすぎない。この会談で米国が最優先したのは台湾の防衛でも日本の安全でもなく、貿易だった。中国は2026年から2028年にかけて年間少なくとも170億ドルの米国産農産物を購入し、期限切れだった米国産牛肉施設のアクセスも回復させると約束した。トランプは会談後、悪びれもせずこう語っている。

「米国の農家にとって良いことは、私にとっても良いことだ」ーー同盟国の安全より大豆と牛肉。それが取引の優先順位だった。この優先順位が、台湾を直撃した。首脳会談の直前、ホワイトハウスは2026年1月に議会が承認したばかりの140億ドル規模の対台湾武器売却を凍結した。PAC-3迎撃ミサイルや対ドローン装備など、台湾の非対称防衛の中核をなすシステムである。表向きの理由は、イランとの戦争「Epic Fury」に弾薬を回すため、という兵站上の事情だった。だが本音は隠されていなかった。トランプ自身がFox Newsで、この140億ドルのパッケージを中国との取引における「非常に優れた交渉カードだ」と公言したのである。

40年守られた「6つの保証」を破り武器売却を中国と協議

 台湾の生死に関わる装備が、農産物の購入枠と同じテーブルに並べられた。これがトランプ流の「ディール」の正体だ。さらにトランプは、台湾に対して「白紙小切手を期待するな」と釘を刺した。米軍が「(米国本土から)9,500マイルも離れた場所」で戦争をするために派遣されることはない、台湾が独立に向かうことを望まない、と。地理的な遠さをわざわざ強調するこの言葉は、抑止のシグナルを内側から腐食させた。中国の国営メディアはこれを狂喜して引用し、「米国は台湾を見捨てる」というプロパガンダの絶好の燃料とした。

1982年にレーガン政権が定めた「6つの保証」は、台湾への武器売却を中国と事前協議しないと約束していた。だがトランプは習近平とこの件を「詳細に議論した」と認めている。40年以上守られてきた原則が、この北京訪問で反故にされた。

 台湾国内では、この衝撃が政治の亀裂を一気に押し広げた。頼清徳総統は台湾こそが「現状維持者」であり、中国こそ不安定化の元凶だと反論し、与党・民進党の議員は「台湾は交渉の取引材料として扱われるべきではない」と声を上げた。一方で野党・国民党はトランプの発言を巧みに利用し、これを過去20年で「米大統領による台湾指導者への最も深刻な訓戒」と位置づけ、頼政権の親独立路線の失敗を非難した。米国に見捨てられる恐怖と、米中等距離を説く声。トランプの一言は、台湾社会を内側から割り、外敵を前にした団結を崩しにかかった。チャタムハウス(英国王立国際問題研究所)が警告する通り、台湾の防衛がディールの対象になるほど、その民主的な意思決定は中国のハイブリッド戦術に対して脆くなる。中国が望むのは、台湾が一発の弾も使わずに内部から崩れることなのだ。

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