第三十五話「父の遺産」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第三十五話「父の遺産」
米ワシントンを訪問中の高地きみえ首相は翌日に米国のトランプ大統領との首脳会談を控え、ホテルで外務省幹部とのシミュレーションを繰り返していた。3時間ほど経った頃、生田雄三首相秘書官が緊張感を漲らせながら耳打ちする。「総理、米国のインテリジェンス機関から新たな極秘情報が届きました。『北朝鮮の異常な動きを検知しました』とのことです」。生田が手に持つタブレット端末に表示された衛星画像には、平壌郊外の基地に集中する特殊車両の群れが映し出されていた。「これは・・・何かの準備?」。高地は息をのむ。
続けて画面に映し出されたのは、北朝鮮の軍事施設に急激な動きが見られたことを示す分析情報だった。赤いマークで示された施設は、核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)や核実験場に近いものが目立っていた。「ミサイル発射? いや、それ以上に重大な動きがあるかもしれない」と生田が声を潜めた。
高地は冷静さを保つよう努めたが、焦りを感じていた。急いでNSS(国家安全保障局)に指示を出し、防衛態勢の強化と米国との連携強化、情報収集に入るよう命じる。「すぐに防衛大臣と外務大臣に連絡し、自衛隊の態勢を整えるようにしなさい」。さらに「トランプ大統領とすぐに協議をはじめ、日米同盟の強いメッセージを発したい」と付け加えた。