第四十一話「偽者と本物」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第四十一話「偽者と本物」
外務省の坂崎翔は興奮した様子で尋ねた。「それで、金正恩総書記の『本物』の居場所ですが、何か手がかりはありますか?」。李天佑が微かに苦笑し、「彼は常に動き回っている。最後に確認されたのはマカオだったが・・・」と言いかけたところで、携帯電話が振動した。彼は画面を見て眉をひそめ、「面白い情報が入ってきた」と小さくつぶやいた。
金与正が前に進み出て、「兄について何かわかったのですか?」と問いただした。李天佑は首を横に振った。「まだ確証はない。だが、北の方で奇妙な動きがあるようだ。複数の人間が急に動き始めた。通常の移動パターンからは外れている」。謙太郎は緊張した面持ちで聞き入っていた。「それはどこでしょうか?」。天佑が答える。「ロシアのモスクワだ!」。
李天佑はポケットから別の黄色い液体が入った薬を取り出し、謙太郎に手渡した。「薬はあと2本しかない。暗殺未遂事件が起きた以上、1本は俺が持っておくが、もう1本は君が持っていてほしい。これを麗穎に飲ませなければ、娘は意識が戻らない。効果があるのは金与正が身をもって証明してくれた。万が一の場合に備えて・・・。頼んだぞ!」。李天佑は慎重にビンを謙太郎に託すと、もう1本は桐箱に戻した。謙太郎は深く息を吸い込み、覚悟を固めた。「必ず、私が麗穎に薬を届けます」。声は震えていたが、迷いはなかった。李天佑は習近平国家主席のメッセージが入っているという白い封筒を謙太郎に渡し、「中日の友好関係がアジアを安定させる。日本に帰国したら、必ず高地首相に手渡してくれ」と言い、謙太郎とガッチリと握手を交わした。
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電磁パルス(EMP)砲によって深刻な打撃を受けていた日本列島は、なお大混乱が続いていた。首相官邸の地下にある危機管理センターにいたNSS(国家安全保障局)の市原啓太局長は衝撃的な情報を耳にする。北京にある日本大使館と秘匿回線で繋がっていた。「市原局長、聞こえますか?こちら今泉謙太郎です」。高地きみえ首相からの極秘ミッションとして訪朝した謙太郎は、平壌で見聞きした一連の出来事を細かく報告した。