焼肉店倒産過去最多の中「焼肉きんぐ」だけ一人勝ちをし続ける理由

2025年度の焼肉店倒産が57件と過去最多を記録し、輸入肉の高騰や円安、人手不足が業界を直撃するなか、独自の位置を築く「焼肉きんぐ」。2026年7月に主力「きんぐコース」を値上げしながらも、小学生1人、幼児1人含めた家族4人で1万円以内という「財布の痛み」を感じさせない仕組みで客足を維持している。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が、単品店と食べ放題店における価格心理の決定的な差を分析。コスト高のなかで顧客の納得感を勝ち取る構造的メカニズムを解き明かす。
みんかぶプレミアム連載「消費者トレンド最前線 ToCビジネス 儲けの構造」
スマートな新型運搬ロボットの導入 「皿を待たせない」スピード感の価値
先日、焼肉きんぐで新しい運搬ロボットの動きを見て驚いた。サイズ感がコンパクトでスマートだ。以前の配膳ロボットにあった少しのんびりした印象は消え、皿を載せたまま店内をすっと抜けてくる。その速さが利益をどれだけ押し上げるのか、店頭を見ただけでは分からない。それより印象に残ったのは、注文してから皿が来るまでの間が短くなったことだ。食べ放題の100分では、料理を待つ時間も料金に含まれる。皿が途切れなければ、客は時間を無駄にした気分にならない。
焼肉きんぐは今年の7月、中心の「きんぐコース」を税込3,718円から3,828円へ値上げした。「プレミアムコース」も4,818円から5,038円になった。肉、コメ、野菜、人件費、電気代がそろって上がるなか、値上げ自体に意外さはない。興味深いのは、店内でその“値上げの重さ”を何度も感じずに済むことだ。
単品の焼肉店では、カルビ、ロース、タンと皿を足すたびに合計額が動く。メニューを開くたび、新しい単価が目に入る。家族4人で行けば、食べ終わるまでヒヤヒヤする人もいるだろう。注文するたびにストレスが溜まっていく。
食べ放題は最初に1人分の金額が決まる。焼肉きんぐでは小学生が半額、幼児は無料なので、家族の大枠の予算は席に着く前に計算できる。3,828円は安売りの価格帯ではない。それでも「最後にいくら払うのか」が見えているだけで、注文のたびに財布を気にする必要がなくなる。インフレ下では、この安心感が効いていそうだ。
4人で1万円を切る予算感の強み 単品店にはない会計時の心理的安全性
標準価格の店舗で大人2人、小学生1人、幼児1人がきんぐコースを選ぶと、食事代は9,570円になる。飲み物などを除けば、4人で1万円以内という目安が先に立つ。単品店にも安い皿はあるが、注文を重ねた後の合計額まで安いとは限らない。家計にとって重要なのは、最初の1皿の価格より、食べ終わった時の金額である。
現行メニューには税込3,278円からの58品コースもあり、中心のきんぐコース、上位のプレミアムコースと合わせて3段階になる。今日は価格を抑えるのか、名物まで楽しむのか、黒毛和牛を選ぶのか。店側が1つの価格へ押し込まず、客が払う金額と内容の釣り合いを決められる。
テーブルオーダーも同じ方向だ。子どもを席に残して料理台へ行く必要がなく、タッチパネルで頼んだ皿が届いたら次を押す。子どもが途中で席を離れる場面も減る。家族の会話は中断されず、肉を山盛りにして席まで運ぶ手間もない。注文の品が1皿ずつ来るため、食べ放題でありながら普通のレストランに近い感覚が残る。
すべてを機械に任せているわけでもない。店員は網を替え、肉の焼き方を案内し、子どもに声をかける。私が見た店舗でも、ロボットが皿を運ぶ横で店員がテーブルに立ち、客と話していた。運ぶ回数が減った分だけ接客が増えたのかは、現場を1度見ただけでは断定できない。それでも、人と機械が同じ通路で別の仕事をしている光景は印象に残った。