第三十八話「謎の解き方」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第三十八話「謎の解き方」
1時間ほど待っただろうか。警察庁の今泉謙太郎と外務省の坂崎翔は平壌にある高麗ホテル最上階で、その時を待った。北朝鮮の国家保衛省幹部という金英建は自分の携帯電話に着信があったことを確認すると、「それでは移動しますか」とイスから立ち上がり、奥にあるエレベーターに乗るよう促した。
階数表示がないエレベーターで15秒下りた時、ドアが開く。ワンフロアに1つの扉しかない場所にたどり着いた。金英建は「じゃあ、中に入ってください。私はもうここで」と言い、再びエレベーターに乗り込む。残された2人は扉を何度か叩くと、カギが開いていることに気がついた。そして、恐る恐る入っていく。
目の前の廊下を突き進み、2つのドアを押し開けた時、目の前に見覚えのある人物が立っていた。中国共産党幹部であり、李麗穎の父親でもある李天佑だ。謙太郎たちが訪れることを知っていた天佑は慣れた様子でミネラルウォーターを1本ずつ手渡し、ソファに座るよう言ってきた。「こんなところで会うなんてな。久しぶり、今泉謙太郎!」。天佑は旧知の友人にでも会ったかのような表情を浮かべている。謙太郎も妙な嬉しさが込み上げてきた。
「ご無沙汰しています、李天佑さん!」。謙太郎は当たり障りのない言葉を最初に向けた。天佑は坂崎翔のことが気になるのか、警戒心もかねている。「で、どうした?」。忙しいのか、時間を気にする素振りを何度か繰り返した。