第四十三話「悲痛の宣言」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。 表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第四十三話「悲痛の宣言」
東京・永田町の首相官邸、深夜2時。高山きみえ首相は、生田雄三首相秘書官から「緊急です!」と叩き起こされると、急いで執務室に移動していた。生田が持ってきた1枚の紙を見つめている。それはロシアから届いた暗号文だった。「これは・・・」。生田がメガネの奥で目を細める。
文章自体は単純だが、特定の文字を取り出すと別の意味を持つことが分かる。解読すると、こう書かれていた。「私は本物の金正恩だ。救出を求む」。
「誰からのメッセージ?」。高地首相が苛立つように質問する。「それが・・・どうやら、本物の金正恩からのようです」。生田が慎重に説明した。暗号の解読法は、日朝政府間の秘密協議で使われていた手法と同じだった。「でも、日本を攻撃すると演説で言っていたのは金正恩よ。顔も、声も一致していると外務省は報告しているわ」。状況が理解できない高地首相は疑問をぶつける。
「そうですよね。しかし、この暗号文の筆跡は明らかに本人のものであるとNSS(国家安全保障局)は言っています。おそらく・・・」。生田は言い淀んだ。高地首相は机上の暗号文を握りしめた。冷たい汗が首筋を伝う。「もし、これが本物なら北朝鮮自体が偽装工作を行っているということ?」。眼鏡をかけ直しながら生田が口を開く。
「その可能性はあります。あの演説と現在の攻撃命令、それと日朝首脳会談の時の発言内容などにはブレがあるので・・・」。生田は暗号文を解読した内容を口に改めて出して読んだ。「私は本物の金正恩だ。救出を求む。今の北朝鮮は中国にコントロールされている。『影武者』が北朝鮮を支配していると知れば、人民は怒り、排除するだろう。それを公にすべきだ。日本を攻撃した『影武者』たちに鉄槌を」。これは日本を攻撃した罪から逃れるための偽装か、それとも想像もしないような出来事が北朝鮮で起きているのか。高地首相は判断を決めかねていた。