第四十四話「鎮圧」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。 表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第四十四話「鎮圧」
これは単なる日本と北朝鮮の軍事衝突ではない。中国が背後で関係していると悟った高地きみえ首相は、すぐに国家安全保障会議のメンバーを集めて極秘の対策本部を設置した。議題は2つだ。「中国の介入を止めさせる方法」「北朝鮮の政権崩壊後の安定化シナリオ」だった。
1時間後、高地首相は緊急記者会見を開いた。NHKだけでなく、すべての在京テレビ局が生中継する。高地は「今の北朝鮮は『偽者』によって成り立っています。私は『本物』の金正恩総書記から直接聞きました。『影武者』が北朝鮮を統治し、日本を攻撃したのです。ただちに、国連安全保障理事会に提起します!」と宣言した。すぐに海外プレスが速報を流し、世界中が朝鮮半島の行方に注目する。
まもなくして、北朝鮮の平壌では大暴動が起きた。「正統性のない『影武者』は今すぐ出て行け!」「俺たちを解放しろ!」。抑圧されてきた北朝鮮の国民は抑えがきかない。軍関係者は制止することなく、ただ呆然としている。「平壌落城」は時間の問題となった。
その頃、中国の習近平国家主席はただちに特別チームを平壌に派遣し、「新しい体制」の構築に着手するよう厳命した。表向きは「北朝鮮の民主化支援」とされたが、実質的には中国の影響下に置くことが目的だった。北朝鮮では金正恩政権の看板が次々と撤去され、各地で武装蜂起が発生し、内戦の兆しが見え始める。
ただ、不思議なことがあった。どこからともなく、中国の人民解放軍が現われ、異様なスピードで陣形を整えている。親中派の住民たちは中国の五星紅旗をあちらこちらに掲げていった。そして、北朝鮮の国営メディアは突如として「重大放送」を行うと発表した。内容は「朝鮮労働党の新しい指導体制」という。
写真と共に発表された新指導部の中心には、金与正がいた。朝鮮中央テレビの女性アナウンサーは「我が国はいかなる脅威にも屈しない。すでに『影』たちは排除され、厳しい処罰を受けた。事態の解決に向けて金与正同志が立ち上がった」と宣言した。新体制の発表後わずか数時間で「クーデター」は完全に鎮圧された。平壌放送は「初の女性トップ」を褒め称える内容を24時間繰り返し、金与正は「たとえ兄妹であっても、正義を失えば処罰する。それでこそ、自ら正統性を掲げることができる」と表明した。