第四十六話「意外な結末」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。 表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第四十六話「意外な結末」
誰もが日中間の緊張が高まる中で声を張っていた。「防衛省、情報本部は何と言っている?」「外務省、欧州首脳の反応はどう?」。首相官邸の地下にある危機管理センターは「戦時体制」に入っていた。
NSS(国家安全保障局)の市原啓太局長が高地きみえ首相に進言した。「恐れながら、このまま行けば日本は第3次世界大戦に入ります。本当にそれで良いのかどうか。改めて、冷静に最終判断をなさってください」。「そうね。あなたの言うこともわかる。私の信念で国民を巻き込んで良いのか・・・。もちろん、信念だけじゃないわ。台湾海峡は日本の国益に直結する。あそこを中国に支配されてしまえば、日本は目と鼻の先。だから、台湾有事は日本の有事でもあるのよ」。「はい、仰る通りです」。市原は、日本の内閣総理大臣として高地が覚悟を決めたように見えた。
危機管理センターに入って初めて高地はイスに腰をかけた。緊迫した状況では、あえて冷静にならなくてはならない。官邸スタッフの女性がミネラルウォーターを差し出す。「お疲れ様です」。「うん、ありがとう」。久しぶりに高地が見せた笑顔だった。
「うん?」。口に水を運んだ高地は何か違和感を抱いた。まもなく、「カハッ・・・ゴホッ!」と吐き出し、持っていたペットボトルを床に落とす。そして、倒れるようにしゃがみ込むと激しく咳を始めた。顔から血の気が引いていくのが見てとれた。さらに両腕には急に紫斑が広がり、唇が異様に赤くなっている。
「どうしました!」。市原が大声をあげながら寄ってきた。仰向けにさせると高地は「水を飲んだら、急に・・・」と呼吸が速くなっている。市原は袖を捲り上げ、紫色の斑点を確認した。「こ、これは!」。警察庁の新人、今泉謙太郎が言っていたことが目の前で起きている。しかも日本の内閣総理大臣に、だ。