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“東大卒”でも家事負担は女性の役割?「子育てをしてくれる低学歴の男性を選べ」は正しくない

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 家事・育児の負担が女性に偏っていることが、日本の働く女性を苦しめている。『東大卒の研究』(筑摩書房)の著者の一人であり、東京大学多様性包摂共創センター共創推進戦略室准教授でジャーナリストの中野円佳氏によると、このような状況は“東大卒の女性”であっても変わらないという。東大女性は結婚相手に何を求め、どのように働いているのか。中野氏にうかがった。みんかぶプレミアム特集「名門校の真価」第6回。

目次

「東大卒」でも家事は女性の役割

 よく女性は、「上方婚」をしがちだと言われます。上方婚とは、自分よりも社会的地位や収入が高い相手と結婚することを指しますが、この場合、男性側が仕事に没頭し、女性側が家事育児を担わなければならないケースがよくみられます。

 東大女性の場合、学歴が自分より「上」のケースはなかなかありませんが、学歴や職業が近い相手を選んでしまいがちであることは事実です。これは「同類婚」と呼ばれますが、同類婚は東大に限ったものではなく、共働き化が進んだ国ではどこでもみられる現象です。

 私が2014年に総合職女性に対するインタビューをもとにまとめた『「育休世代」のジレンマ』では、仕事などに対する価値観が似ている相手と同類婚をすることによって、夫婦ともに長時間労働の仕事についてしまうことことも多いことが分かりました。そしてたとえ「東大卒」でも、総合職や専門職の女性でも、家庭内生産活動を担う割合は女性のほうが高い傾向は続いています。

 私たちが『東大卒の研究』で行った東大卒業生への調査においては、特に年代が上の層では東大女性が配偶者を選択する局面で、「家事力・家事分担ができること」をそこまで重視していない傾向にあることがわかりました。彼女たちがより重視していたのは、「価値観が近いこと」「相手がこちらの仕事に理解があること」「教養が豊かであること」といった項目でした。こういった価値観で配偶者を選べば、同類婚の確率が上がります。

「子育てしてくれる低学歴の男性を選べ」は正しいのか

 「家事・育児の負担が女性にばかり偏っている」「女性はもっと社会進出すべきだ」といった話になると、よく「優秀な女性は、下方婚(自分よりも学歴や収入が低い男性との結婚)をして家事・育児を担ってくれる男性と結婚すればいい」といった意見が出てきます。

 ただ、「下方婚であれば家事や子育てを男性が担ってくれるのか」を考えてみると、必ずしもそうだとは言えません。ブルーカラーでもあまり家にいることができず、家事育児の大部分を担えない男性もいるでしょうし、「あまり稼いでいない=時間的余裕がある」という図式は、必ずしも成り立つものではありません。

 むしろ低賃金の仕事だからこそ、労働時間が長くなる状況もあります。そして下方婚の場合にも、女性が家事・育児を担う比率はそうでないケースとさほど変わらず、女性の幸福度や生活満足度は高くないといった研究結果もあります。

 また、働き方が多様化してきて「学歴が高いから忙しい」とも限らなくなってきたと思います。どこでも働ける高度なスキルがある人だからこそフリーランスなどの道を選んだり、家族の事情に合わせて転職したりして、家事や育児の時間を捻出できたり、配偶者の転勤についていけるという人もいますよね。“学歴”と“働き方”や“家事・育児の分担”は、分けて論じたほうがいいと思います。

 さらにこの議論でずっと言っているのは、日本の女性は「非正規で働いていて、処遇は上がらず、自分一人だけ家事と子育ての負担が大きい」「専業主婦として家事育児を担ってきた結果、経済的自立の確保が難しい」状態に陥りやすい点です。

 それをネガティブに捉えて、女性の負担を軽くできないかという議論をするときに、「じゃあ男女逆にして、女性が働いて男性が家事・育児の負担を全面的に担えばいいじゃないか」と言い出すのは、いままで女性が抱えてきた苦労を男性に押し付けるだけですよね。

 もちろん、病気など様々な事情で、片働きにならざるをえない世帯もあるでしょうし、専業主夫や主婦をしたい人がいれば、それが選べる環境があれば望ましいとは思います。でも、日本型雇用が崩れつつあり、1人が大黒柱として稼ぎ主になって、もう1人が家庭役割を全面的に担うことを基本とするモデル自体が成り立たなくなっています。

 そのような中で、女性が抱えてきた負担や経済的困難を男性側に移すだけでは、表面上のジェンダーギャップは縮小するかもしれませんが、新たに苦悩する人の男女を入れ替えるだけではと思います。

 それらを踏まえると、「東大に行くくらい優秀な女性は、学歴は低くても子育てをしてくれる男性と結婚すればいい」という議論は、あまり解決策になっていないと思います。1人親でも、共働きでも、家庭での再生産労働と生活するための賃金の確保の両立が誰にでもできるようにという議論をしないといけないと思います。

子育ては「学歴」より「柔軟な働き方」

  女性がバリバリ働きたいと思うと、やはり育児との両立に困難さを覚えるというのはよくある話です。ただ私たちの『東大卒の研究』調査では、回答者の属性に偏りはあるとは思われるものの、1971~80年生まれの東大女性では、自身が働いていたとしても「2人以上子どもを産んでいる」という回答が半数以上に上りました。

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この記事の著者
中野円佳

東京大学多様性包摂共創センター准教授。2007年に東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社に入社。大企業の財務や経営、厚生労働政策を取材。育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に通い、同研究科に提出した修士論文をもとに2014年9月『「育休世代」のジレンマ』を出版。2015年4月よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程。厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員などを務める。2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年特任助教、2024年より現職。2025年東京大学大学院教育学研究科で博士号(教育)取得。

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