ベストセラー作家・橘玲「日本の本当の格差問題は、世代間格差ではなく、学歴間格差だ」なぜ現役サラリーマン世代は国家から狙われやすいのか

良い会社に働いて定年まで勤め、老後にはそれなりの額の年金をもらい悠々自適に過ごす——。そんな誰もが信じていた「シンプルな人生設計」が崩壊したいま、私たちに残された道は何か。
ベストセラー作家の橘玲氏は、長らく日本社会の裏側で進行してきた格差の構造を、その著書や発言を通じて鋭く暴いてきた。いま、物価高騰と円安が中間層を直撃し、若者たちの怒りが噴出する中、その予言は現実のものとなっている。
なぜ日本の政治は高齢者優位の構造から脱却できないのか。そして、AIの進化が加速させる「残酷な完全実力社会」の到来に対して、学歴や資格が意味を失う中で、私たちはどう生き抜くべきなのか。同氏が明かす——。全2回の第1回。
目次
これまでの日本の制度設計は、団塊の世代の生活を守るためのものだった…では令和はどうなる
私がこの国の制度設計における根本的な矛盾について語り始めてから、もう20年以上になりました。そして今、私が予測した通りの社会が到来し、多くの人々、特に現役世代にその冷たい現実が突きつけられています。
「頑張って勉強していい大学を卒業し、そこそこの会社に入って、あとは定年まで40年間滅私奉公すれば、退職金と年金で悠々自適の老後が待っている」——このシンプルな人生設計は、すでに完全に崩壊しています。
私たちは今、不可避な構造変化と、それによって引き起こされる「分断」の時代を生きています。
日本の社会、そして政治経済のメカニズムは、長らくたった一つの目的に最適化されてきました。それは、団塊の世代の生活を守ることです。
これは、日本の人口構成を考えれば当然の帰結です。政治家は選挙に落ちれば「ただの人以下」になってしまうから、人口の多い年齢層に配慮するしかない。その団塊の世代の全員が75歳以上の後期高齢者になったのですから、現役世代よりも高齢世代を大事にするのは政治家にとって合理的な行動です。
私が指摘してきたように、平成は「団塊の世代の正社員雇用を守る」ための30年で、非正規雇用が大幅に増えて、日本社会は「正規/非正規」のグロテスクな身分制社会になりました。雇用改革がまがりなりにも議論できるようになったのは団塊の世代が定年退職したからですが、その代わりに令和は「団塊の世代の年金を守る」ための20年になりました。その費用を捻出するために目をつけられたのが、最も税金を取りやすい現役サラリーマン層です。
声を上げなければ奪われ続ける日本の現役世代
この20年間、ずっと続いてきたのは、社会保険料の引き上げという名の「ステルス増税」です。消費税を数パーセント上げるだけでも政権がいくつもつぶれるような大騒ぎになりますが、社会保険料は厚労省の一存でいくらでも引き上げられる。高齢者が増え続ける以上、現役世代から搾取したお金を配るしかないし、結局その通りになりました。
象徴的なのは、「ねんきん定期便」に隠されたからくりです。サラリーマンの年金保険料は、本人が半分、会社が半分を払うことになっていますが、「ねんきん定期便」には自己負担分しか記載されていません。
なぜこんなことをするのかというと、自己負担分と会社負担分の合計を載せると、「こんなに年金保険料を払っても、結果的にマイナスじゃないか」という不都合な事実がバレてしまうからです。だからこそ「ねんきん定期便」には半分の自己負担分だけを記載して、支払った保険料よりも将来もらえる年金の方が多くなると錯覚させ、騙しておかなければならなかったのです。これが、私が「日本のディープステート」と呼ぶ、現役世代からの収奪を隠蔽してきた仕組みです。
長年、この不条理な構造に多くの人が気づきませんでしたが、ここ2〜3年でようやくSNSで話題になりはじめました。「なぜ会社負担分が消えているのか」と騒がれ、厚労省はやむなく注釈だけを入れるようになった。一歩前進ですが、これでは「掛け金よりも受給額が少ない」という罠に気づくひとは多くないでしょう。