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港区や豊洲にはない幸せがここにある…タワマンと鉄の街「東雲」に浮かぶ「レストラン シー・マインド」をあなたは知っているか

「住みたい街」と評される人気のエリアにも、掘り起こしてみれば暗い歴史が転がっているものだ。そんな、言わなくてもいいことをあえて言ってみるという性格の悪い連載「住みたい街の真実」

 書き手を務めるのは『これでいいのか地域批評シリーズ』(マイクロマガジン社)で人気を博すルポライターの昼間たかし氏。第13回は、東雲を歩く。

目次

タワマンの影に潜む「鉄の街」

 豊洲から晴海通りを東へ。いささか勾配の急な東雲橋を渡ると、街のランドマークである「イオン東雲店」が見えてくる。そこは東雲1丁目。街の風景はガラリと変わる。ヤンチャそうな若者軍団。そして、作業服姿で歩く人たち。ほかのタワマンエリアでは、まず見かけない。そんな人たちが、ここには当たり前にいる。

豊洲方面から歩くと巨大なイオン東雲店が訪問者を迎えてくれる

作業着姿で歩くおっさんもこの街では当たり前。ほかの湾岸エリアとはひと味違う

高速道路を越えれば鉄鋼団地。民家も店舗も皆無だ

 そんな東雲の真髄は、首都高速を越えた先、鉄鋼団地にある。りんかい線東雲駅は、タワマンエリアではなく、この鉄鋼団地のほうを正面にして建設されている。かつては鉄鋼関連の工場が軒を連ねた工業エリア。現在も様々な工場や物流企業が操業を続けている場所だ。

 はっきり言って、この辺の会社に用事がなければ、なにもない。駅前に見えるのは24時間営業のコンビニと、ゆで太郎だけ。殺風景な光景が広がっている。そんなエリアに、隠れた名店がある。

「レストラン シー・マインド」

 決してメジャーな店ではない。ミシュランに載るような絶品料理でもない。それでも、ここで働く者たちにはなくてはならない食堂だ。

街の顔は労働者の腹をひたすら満たす「社員食堂」

 所在地は、食肉卸の「ニイチク」本社ビル4階。そう、会社の中にある社員食堂である。平日の日中しか営業していない社食が、周囲で働く人々の腹も満たしてくれている。

 昭和の香り漂う社屋に入り、エレベーターで4階へ。ちょうど昼時ということもあって、食堂内は満席だ。同社の社員だけでなく、様々な顔ぶれが一心不乱に空腹を満たしている。服装も実に多様だ。自分の働く企業のロゴが入った作業着の若者たち。ネクタイ姿のサラリーマン。そして、いささか古風なデザインの制服を着たOL。

これが社員食堂の入り口?裏口ではなくこっちが正面である

この建物に誰でも利用できる食堂があるなんてにわかには信じがたい

 一人で黙々と食べる者もいれば、壁掛けのテレビを眺める者。仕事の雑談をしながら箸を動かしている者。なぜか、スマホを手にしている者はいない。これは偶然ではない。ここは「腹を満たす場所」だと、みんなが理解しているからだ。

 オシャレなカフェのように、コーヒー1杯で2時間粘る場所ではない。SNS映えする料理を撮影する場所でもない。ただ、働くために必要なエネルギーを補給する。それだけの場所だ。だから、さっさと食べて、さっさと仕事に戻る。

 無駄な時間は使わない。無駄な会話もしない。スマホを眺めて時間を潰す必要もない。この割り切り方が、実に昭和的だ。

この街には「映え」も「効率」も存在しない

 令和の都心では、ランチタイムすらコンテンツ消費の時間になっている。Instagramでおすすめのカフェをチェックし、料理が来たらまず撮影。食べながらスマホをスクロール。そんな光景が当たり前だ。

 しかし、ここは違う。

 食堂のテレビからは、NHKのニュースが流れている。誰も特別注目しているわけではない。ただ、そこにあるから、なんとなく眺めているだけだ。この「なんとなく」が、心地よい。効率化もコスパも関係ない。ただ、飯を食う。それだけでいい。そんな空気が、この食堂には流れている。

 日替わり定食は850円。この日のメニューは、白マーボーラーメンにチャーハンという組み合わせ。さすがに炭水化物のダブルパンチが重いのか、並んだおかずだけを取って、ご飯と味噌汁を追加注文している人が多い。

 特徴的なのは、ご飯が自分でジャーから盛る形式だったこと。つまり、性善説で成り立っている。誰も大盛りにして得しようとか、そんなことは考えていない。自分が食べられる分だけを、自分で盛る。それだけだ。店側も、客側も、そこに疑いはない。

 こんな光景、丸の内のオシャレなオフィス街では、もう見られない。ガラス張りの高層ビル。洗練されたカフェテリア。アフターファイブには、クラフトビールが飲める店やワインバーが並ぶ。確かに華やかだ。でも、どこか息苦しい。

 東雲には、そんなものはない。

 オシャレなオフィスビルもない。アフターを楽しめるような店も、ほとんどない。でも、ここには、人間らしく労働するという感覚がちゃんとある。

 働いて、腹が減ったら食う。食ったら、また働く。

 それだけのことが、なぜか都心では失われつつある。効率化の名のもとに、デスクでサンドイッチを頬張りながらパソコンに向かう。ランチミーティングと称して、食事の時間すら労働に組み込まれる。東雲の鉄鋼団地には、そんな息苦しさがない。労働は労働。食事は食事。その境界が、ちゃんと守られている。

勤め人も「必ず座れる」という至福

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この記事の著者
昼間たかし

1975年岡山県岡山市生まれ。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。著書に『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)『おもしろ県民論 岡山はすごいんじゃ!』(マイクロマガジン社)などがある。X(https://x.com/quadrumviro)

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