第二十六話「裏の顔」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第二十六話「裏の顔」
翌日、薄暗いソファの上で今泉謙太郎が目覚めると、すでに李天佑の姿が消えていた。古びたビルの3階にあった「診療所」と書かれた場所にも人の姿はない。李麗穎の姿もどこにも見当たらなかった。「一体どういうことだ?」。謙太郎は激しい胸騒ぎを抑えるのにやっとだ。
ビルから10分ほど歩いた大通りに出た時、警察庁の先輩にあたる茂田伸夫が突然また現われた。「時間がない。早く車に乗れ!」。彼は早口で近くに停めてある白いセダンに乗るよう迫った。「謙太郎、お前はもう選択しなければならない」。運転席からミラー越しに茂田が語りかける。