「経営の悪い石油会社」でも莫大な利益が自動的に転がり込み続ける…ロックフェラーが1世紀前に完成させた、競争を無効化する「独占の構造」
1911年、反トラスト法によって強制解体されたロックフェラーの帝国は、皮肉にもバラバラになったことで株価を跳ね上げ、一族に天文学的な富をもたらした。法律による強制的な敗北すらも富の増殖プロセスへと変換してしまう独占システムは、現代のプラットフォームへと形を変えて受け継がれている。元『プレジデント』編集長で作家の小倉健一氏が、大衆が信じる「誰もが平等に競争する美しいおとぎ話」を解体し、富を吸い上げ続ける巨大な“檻”の正体を浮き彫りにする。
みんかぶプレミアム連載「一握りの大富豪だけが知っている世界の真実」
目次
王座に君臨したロックフェラーが遺した最高のビジネスの定義
ロックフェラーが構築したスタンダード・オイルという前代未聞の怪物は、資本主義の行き着く最終地点をまざまざと歴史に刻み込んだ。
巨大な城壁が完成し、外からの侵入者を完全に遮断した時、城の内側では一体何が起きるのか。無数の競争相手を市場から消し去り、たった一つの巨大な権力がすべてを支配する独占状態。戦うべき相手が存在しない状態において、ビジネスの力学は根本から異質な次元へと突入する。毎日汗水流して製品の品質を向上させたり、少しでも価格を下げて消費者の機嫌を取ったりする努力は一切必要なくなる。王座に君臨するロックフェラーは、市場を手中に収めた余裕から、次のような言葉を残している。
「世界で最高のビジネスは経営の良い石油会社であり、2番目に良いビジネスは経営の悪い石油会社だ」
市場を独占してしまえば、経営者の能力が優れていようが劣っていようが、莫大な利益が自動的に転がり込み続ける。人々は生活のために石油を買うしかない。他に選択肢がない以上、価格を吊り上げようが、サービスを手抜きしようが、大衆は財布の底からお金を差し出すのである。競争という圧力が消滅した空間では、企業は消費者に良質な価値を提供する動機を完全に喪失する。戦わずして富を搾取し続ける永久機関。独占の完成とは、経営という概念すらも無意味にする究極の“上がり”なのだ。
「エンシッティフィケーション」の全貌 無料の囲い込みから全利益の強制吸引へと至る3つの段階
現代のテクノロジー社会を支配する巨大な情報プラットフォームもまた、全く同じ終着点へと向かって腐敗を進めている。
テクノロジー作家のコーリー・ドクトロウは、プラットフォームが避けられない運命として辿る崩壊のプロセスを「エンシッティフィケーション(劣化と搾取の連鎖)」という的確な概念で説明した。プラットフォームが抽出機械へと姿を変えるまでには、3つの明確な段階が存在する。
第1の段階は、無邪気な成長期である。新しいサービスが誕生した直後、企業は赤字を垂れ流してでも、便利で使いやすい機能を無料で提供し続ける。大衆は歓喜し、次々と新しい広場に集まってくる。企業は投資家から集めた資金を燃やしながら、利用者を囲い込むことに全力を注ぐ。しかし、甘い蜜は永遠には続かない。人々がサービスに完全に依存し、日々の生活において手放せなくなった瞬間、罠の扉は静かに閉じられる。
第2の段階は、容赦のない転換期である。十分な人々を閉じ込めることに成功した企業は、突然ルールの書き換えに乗り出す。企業が次に笑顔を向けるのは、無料で使う一般の利用者ではなく、お金を支払ってくれる広告主やビジネス向けの顧客である。画面には広告が溢れかえり、価値ある情報には辿り着けなくなる。使い勝手を意図的に下げてでも、広告主にとって都合の良い空間へと構造を捻じ曲げていく。一般の利用者は不満を抱えながらも、友人との繋がりや蓄積されたデータを捨てることはできず、不快な空間に留まり続けるしかない。
第3の段階は、独占の完全な完成と搾取の極みである。利用者も広告主も、プラットフォームという巨大な城の内部に縛り付けられ、外へ逃げ出せない状態に陥る。逃げ場がなくなった支配者は、ついに牙を剥く。利用者を広告主へ売り飛ばすだけでなく、広告主に対しても法外な手数料を要求し始める。どれほど高い場所代を請求されようとも、無数の消費者が人質として取られている以上、ビジネス顧客は泣き寝入りして支払うしか道はない。最終的に、プラットフォーム上で生み出されるすべての利益と価値は、サービスを運営する巨大企業の中央金庫へと容赦なく吸い上げられていく。