親の通帳から消えた100万円……「普通の家族」を崩壊させる介護の不公平感と、今日からできる防衛策
遺産5000万円以下。マイホームと預貯金しかない「普通の家族」が法廷で争っている——。これは、弁護士法人Authenseが公表した「遺言書年報2025」が明らかにした事実だ。「うちはたいした資産もないから関係ない」という思い込みが、もっとも危ないという。
本稿では、Authenseで相続案件を数多く手がける堅田勇気弁護士の実務経験をもとに、相続争いが起きやすい家族パターンから、金額より「感情」が引き金になる紛争の本質、そして今すぐ取れる予防策まで、4回にわたって紐解いていく。全4回の第3回。
みんかぶプレミアム連載「取り返しのつかない相続」
目次
放置するほど相続人は増える。タイムリミットは「親が元気な今」
前回、不動産だけが残り「誰も出ていかない、売ることもできない」という膠着状態に陥るリスクについてお話ししました。話し合いが膠着したまま放置された不動産は、時間とともに問題が深刻になっていきます。
住んでいる相続人がそのまま高齢になり、やがて亡くなります。その子どもや孫に持ち分が引き継がれると、「もともとの被相続人と面識すらない相続人」が不動産の共有者になります。1つの家に何人もの「共有者」がいる状態では、売却には全員の合意が必要です。でも当事者たちはお互いに顔も知らない。こうして解決はさらに遠のき、やがて空き家と化した不動産が地域全体の問題へと発展していきます。
今すぐ動けば1世代で解決できるものが、放置すれば2世代・3世代にわたって引き継がれる問題になります。動ける時間は、親が元気でいる間だけです。私はこの問題を「タイムリミットのある問題」と位置づけています。先送りにするほど、解決はどんどん難しくなっていくのです。
不動産の泥沼を事前に防ぐ、遺言書と「ある金融商品」の掛け合わせ
不動産相続の問題を事前に防ぐために私が有効だと強調しているのが、「遺言書で不動産の行き先を決め、生命保険で代償金を用意する」という組み合わせです。
たとえば、「実家は長男に相続させる。その代わり、長男は次男に代償金として1500万円を支払う」という内容を遺言書に記しておきます。そして長男を受取人にした生命保険を親が掛けておけば、長男は保険金を代償金の原資に使えます。生命保険金は受取人固有の財産として扱われるため、相続財産とは別に、すぐに現金として受け取ることができます。「換価も代償もできない」という膠着を、あらかじめ解消しておく仕組みです。親が元気なうちに遺言書と生命保険を組み合わせておくだけで、子どもたちが法廷で争わずに済む可能性は大きく高まります。
そして、不動産問題と並んで、きょうだい間の感情が最も激しくぶつかり合うのが「介護」をめぐる問題です。