第三十二話「誤ったスクープ」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第三十二話「誤ったスクープ」
1カ月後、思いがけないことが起きた。「高地首相、北朝鮮を極秘訪問―」。読朝新聞が1面トップと2・3面の見開きで大々的にスクープを放った。政府内の一部しか共有していなかった高地きみえ首相の電撃訪朝が何者かにリークされ、他のメディアも後追い報道を続ける。時共通信社は「秘密外交」と批判し、高地政権に好意的だった産毎テレビはワイドショーで「行ったことも、結果も国民に知らせないのでは不信感が募る」といった専門家のコメントを紹介している。あれほど保秘を徹底したのに・・・。高地は、金正恩総書記との「公表はしない」という約束を思い出して不安になった。
国会議事堂に向かうため、首相官邸を出ようとするとエントランスに記者たちが押し寄せる。「首相、訪朝の成果は?」「なぜ公表しないのですか?」との質問が矢継ぎ早に向けられた。中には「国民には『知る権利』がある。秘密外交は不信任に値する!」と息巻くオールドメディアの記者もいた。車寄せに向けて歩を進める途中で、高地は淡々と説明した。「公表できないのは理由があるんです。いずれ国民の皆様にもしっかりと説明します。それまでは・・・」。